映画「八日目の蝉」は2011年4月29日に公開された映画です。
直木賞作家である角田光代の小説を実写映画化したもので、「ミッドナイトイーグル」(2007年)「ふしぎな岬の物語 」(2014年)などの代表作を持つ成島出がメガホンを執りました。
脚本を手掛けたのは「サマーウォーズ」(2009年)「おおかみこどもの雨と雪」(2012年)などのアニメ映画の脚本で知られる奥寺佐渡子です。
そして井上真央、永作博美を始めとする豪華俳優陣が出演した事でも話題となりました。
第35回日本アカデミー賞10冠を達成した、映画「八日目の蝉」から希和子は恵理菜を愛していたのか?逮捕のシーンでの希和子の気持ち、タイトルの意味を考察していきます!!
八日目の蝉(2011年)
見どころ
誘拐犯のもとで愛情いっぱいに育てられた女性の苦悩と葛藤を描く人間ドラマ。「ソロモンの偽証」の成島出が監督を務め、日本アカデミー賞では作品賞を含む10冠を獲得!
出典 : video.unext.jp
あらすじ
生まれてすぐ父親の愛人に誘拐され、4歳まで育てられた恵理菜。両親のもとに戻るも、世間からいわれのない中傷を受け、自分の家族に実感を持てずにいた彼女は、誰にも心を開かないまま成長。そして、妻子ある男を好きになり、彼の子供を身ごもってしまう…。
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八日目の蝉(ネタバレ・考察)
「八日目の蝉」は他人の子供を誘拐し、育てるというその衝撃的な内容から、大きな反響をよんだ映画です。
また、ストーリーのあまりの切なさに泣ける邦画としても話題になりました。
ここでは「八日目の蝉」の、日本アカデミー賞総ナメの話題と、子供時代の恵里菜を演じた子役について、そして中島美嘉が担当した映画の主題歌についても紹介していきたいと思います。
日本アカデミー賞10冠に輝いた名作!
映画「八日目の蝉」は第35回日本アカデミー賞で作品賞を始めとし、10冠もの賞を受賞しました。
第35回日本アカデミー賞
- 作品賞
- 監督賞
- 主演女優賞
- 助演女優賞
- 撮影賞
- 照明賞
- 録音賞
- 編集賞
- 音楽賞
- 脚本賞
如何にこの映画が素晴らしい映画であるかという事が証明されたのです。
難しい役どころながら最優秀主演女優賞を受賞した井上真央は、喜びの涙と共に、この経験を糧にこれからも女優業を頑張っていきたいという主旨のコメントを発しました。
そして、主な撮影地となった瀬戸内・小豆島の人々にも感謝の意を述べたとの事です。
恵里菜の幼少期を演じた天才子役とは?
恵里菜の子供時代を演じたのは、渡邉このみという子役です。
本作で当時4歳ながら、第35回日本アカデミー賞新人俳優賞を史上最年少で受賞するという輝かしい功績を残しました。
しかも演技未経験でこの映画「八日目の蝉」がデビュー作なのだそうです!
この作品でデビューした後、2014年に放送されたテレビドラマ「明日、ママがいない」では両親を失った事で妄想癖を患った、ボンビという役を演じました。
今や子役から大スターとなった、芦田愛菜とも共演を果たしているのです!
その他にもNHK朝ドラの「まれ」や「べっぴんさん」でも主人公の子供時代を演じています。
現在は芸能界を引退されたとの事ですが、映画「八日目の蝉」で見せてくれた演技はもう素晴らしいとしか言いようがありません!
中島美嘉が主題歌を担当
本作の主題歌は中島美嘉が担当しています。
両側耳管開放症という耳の病気を患い、音楽活動を休止していた中島美嘉ですが、本作の主題歌「Dear」で堂々の復帰を果たしました。
「Dear」という曲はまさに親子の愛情を歌ったような珠玉のバラードとなっています。
歌詞の中で「命がめぐってまた会う日まで、あなたがくれた愛を永遠に抱き続ける」という表現があります。
これはまさに希和子と恵理菜の関係性を歌ったような曲として、捉える事ができる楽曲となっているのです。
八日目の蝉には元ネタとなった事件がある!?
「八日目の蝉」には元ネタとなったのではと言われる痛ましい事件があります。
1993年12月東京都日野市で放火事件が発生し、幼い2人の子供の命が奪われました。
映画「八日目の蝉」とこの事件にはいくつかの類似点と相違点があるのでそこを見ていきましょう。
作品との類似点
- 中絶を経験
- 不倫相手の妻からの嫌がらせ
- 自分を被害者と考えている
作品との相違点
- 子供を誘拐ではなく自らの手で殺した
- 最初から子供の命を奪う事が目的だった
- 残虐性がある
このような類似点から、原作者の角田光代さんはこの事件をベースに「八日目の蝉」を執筆したのではないかと言われています。
しかし、角田さんが明言したわけではないので、この「八日目の蝉」という作品はフィクションと考えていいでしょう。
希和子は恵理菜を愛していたのか?
この映画には何が正しくて何が間違っていたという事の答えがありません。
もちろん、誘拐は犯罪です。
しかし、希和子の恵理菜への愛情は本物だったといえるでしょう。
その証拠に恵理菜がどんなに泣いても希和子は決して手を挙げたりする事はありませんでした。
そして希和子が逃げ場所として選んだ、女性だけが入居できる“エンジェルホーム”という施設でも「私にはこの子しかいないんです」という発言をしています。
恵理菜の実の母親はどこか狂っている一面がありました。堕胎した希和子に「人殺し」「空っぽのがらんどう」などの言葉を浴びせ、希和子の心をズタズタにしたのです。
希和子はいつも自分の事より、恵理菜の事を第一優先に考えていました。
「空っぽのがらんどう」であった希和子の心を満たし、自分の事を唯一肯定してくれた存在が恵理菜であったのです。
恵里菜の為に希和子は必死で働き、どこに行くにも何をするにも一緒で、相思相愛であった希和子と恵理菜。
はたから見ると本当の親子にしか見えません。
そう考えると、恵理菜は実の親である秋山夫妻の元に戻るよりも真実を知らさせず、希和子と一生一緒に暮らした方が幸せだったのではないか、とも受け取れます。
逮捕のシーンでの希和子の気持ち
希和子は恵理菜を誘拐した事で最終的に逮捕されます。
ここで希和子は意外な言葉を発するのです。
その言葉とは「その子はまだご飯を食べていません!」という、母親が子供の身を案ずるものでした。
警察に「よろしくお願いします」と頭を下げるシーンは4年間という歳月の中で、希和子と恵理菜が血は繋がっていなくとも、本当の親子だったという証なのではないでしょうか。
この言葉は、希和子が本当に恵理菜の事を愛していたという、核心にも迫った台詞なのです。
タイトルに込められた意味とは?
「八日目の蝉」というこのタイトルの意味は、様々な憶測ができますが、夫のいない妊婦の事を指すという一説が挙げられます。
蝉は一般的に孵化してから一週間しか生きられないと言われ、儚いものの象徴としてイメージされる事も多いのではないでしょうか。
しかし、雄の蝉が死んでしまった後も、雌の蝉は産卵の為に1週間以上、生き続けるという事が近年の様々な研究で判明してきました。
「八日目の蝉」というタイトルは、夫のいない妊婦という観点から見るとずばり恵理菜の事なのです。
そして、堕胎はしたものの、新しい命を宿した経験のある希和子の事も指すのではないでしょうか。
小池栄子演じる千草の言う、「だれも見た事ができない綺麗なものを見られるかもしれない」という台詞の“綺麗なもの”とは赤ん坊の事を意味しているのです。
そう考えると、血の繋がっていない恵理菜の事を実の子供のように愛した希和子と、お腹の子を大事に育てると決意した恵理菜の気持ちが一致します。
「八日目の蝉」とは希和子と恵理菜の事で、二人の間には一言では語りきれない絆と愛情が存在していたのです。
希和子はその後どうなったのか
希和子は懲役6年という判決を言い渡されます。
服役後、希和子はどんな人生をおくったのでしょう?
映画では、希和子は小豆島の写真館を訪れ、恵理菜と一緒に撮った写真を持って帰ったという部分までしか描かれていません。
原作の小説も映画と同じく、その後の希和子がどういった人生をおくったのかは書かれていないのです。
原作とドラマ、映画でのラストシーンはそれぞれ異なり、原作では恵里菜と希和子がお互いに気付かないままフェリー乗り場ですれ違います。
そしてドラマ版では希和子の勤め先である喫茶店に恵里菜がやって来て、去っていく恵里菜の後ろ姿を希和子が見つめ続けるというラストになっているのです。
映画版での考察ですが、事件のその後、希和子は恵理菜との想い出を胸に、ひっそりとどこかで恵理菜の事を見守っていたのではないでしょうか。
作品中で「憎みたくなかった、お父さんの事もお母さんの事も、あなた(希和子)の事も」という恵理菜の台詞があります。
そして、小豆島に戻ってきたかったという恵理菜の言葉と同じく、希和子も恵理菜が島に戻ってくるのを密かに待ち続けているといえます。
希和子の立場としては自分は母親のフリをしていただけなので、恵里菜に苦労をかけた事で、合わせる顔がないと考えている面が大きいのではないでしょうか。
その為、希和子は恵里菜に自分から積極的に会いに行くという事はしないと考えられます。
可能性として考えられるのは、恵里菜が自ら希和子を探し会いに行くという事です。
恵里菜は生まれた赤ん坊を抱いて、希和子の元を訪れ、そこで二人は何十年ぶりかの再会を果たすのではないでしょうか。
小池栄子が放つ存在感
この映画で欠かせない人物として登場するのが小池栄子演じる、安藤千草です。
千草は“エンジェルホーム”で子供の頃に希和子や恵里菜と会った事のある人物でした。
最初は誘拐事件の事を探るフリーのライターとして恵里菜に近付いた千草ですが、本来の目的は恵里菜に会う事だったのです。
不倫相手の子供を身ごもった恵里菜の心を支えたのが、千草という存在でした。
最初は千草の事を面倒臭いと感じていた恵里菜でしたが、二人は一緒の時間を過ごす中で段々とお互いにかけがえのない存在になっていきます。
千草は、普段とてもおどおどとした感じの女性です。話し方など、挙動不審な部分が多々あります。
それは小さな頃から“エンジェルホーム”という女性だけが住む特殊な空間で育った事が関係しているのです。
男性が苦手で、自分に自信がなく、「もっと普通の環境で育ててほしかった」と、恵里菜に感情を吐露する場面は観ていて思わず胸が痛くなります。
グラビアアイドルとしてデビューした小池栄子ですが、その高い演技力に定評があり、今や色々なテレビドラマや映画、舞台にも引っ張りだこです。
本作でも日本アカデミー賞最優秀助演女優賞にノミネートされるなど、その実力を確かなものとしました。
どんな作品に出ても高評価を得ており、今作品の主演である井上真央や永作博美を食う程の存在感を放っています。
「八日目の蝉」の見どころポイントは?
この映画の一番の見どころポイントは、ずばり言って写真館でのシーンです。
すぐそこに警察の手が忍び寄ってきている事に気付いた希和子は、最後の思い出にと、恵理菜と二人で写真館に行きます。
その時の希和子の表情が何ともいえず切なく胸にぐっとくるものがあるのです。
日本アカデミー賞で永作博美が最優秀助演女優賞を受賞したのも、納得の演技力といえるでしょう。
彼女は本作が公開される前の2010年に第1子となる男児を出産しており、その影響もあってなのか、希和子という人間が憑依したように役を演じています。
写真館のシーンは非常に繊細で、胸を締め付けられる仕上がりのシーンとなっており、ここがこの「八日目の蝉」という作品の究極の“泣かせポイント”なのです。
まとめ
以上、「八日目の蝉」という映画から希和子は恵理菜を愛していたのか?逮捕のシーンでの希和子の気持ち、タイトルの意味を考察してきましたが如何でしたでしょうか?
この「八日目の蝉」という作品は母親である人、もうすぐ母親となる人、そして男性にも是非!観てほしい映画となっています。
暗い雰囲気の邦画は嫌い、という方も食わず嫌いせず1度騙された!と思って観てみて下さい!!
号泣必死の非常に素晴らしい映画となっています。