
「舟を編む」は三浦しをん原作の小説を映画化したもので、石井裕也がメガホンをとった2013年公開の映画です。
「御法度」「青い春」の松田龍平、「ソラニン」「天地明察」の宮崎あおいが共演し、国語辞典を制作する人々の熱い思いをテーマにした作品です。
辞書作りは10年~30年かけてコツコツ編集する大変な仕事だという事がこの映画を観てよくわかります。
辞書の編集という珍しいテーマで話題になった映画「舟を編む」から、映画のネタバレ・考察・あらすじなど一気に紹介していきたいと思います!!
舟を編む(2013年)
1995年、27歳の馬締(まじめ)(松田龍平)は、出版社・玄武書房で営業部に所属しているが、営業成績を上げられない。
大学院で言語学を専攻した馬締は、辞書編集部に配属され、言語学者である上司・松本朋佑(加藤剛)の下で新しい辞書「大渡海(だいとかい)」編集に携わり次第に頭角を現す。
馬締は恋したアパートの大家の孫・林香具矢(宮崎あおい)へのラブレターを和紙に筆で書いてしまうほどの国語オタクだったが、職場の同僚の協力もあり、彼女と結婚する。
12年後、馬締は主任に昇進しているが、辞書作りは難航を極める。
松本が食道ガンで余命幾ばくも無い事がわかり、馬締は職場に泊り込んだり自宅で作業したりして「大渡海」の完成を目指す。
舟を編む(ネタバレ・考察)
原作小説は「本屋大賞」に輝きました。
映画化だけでなく、テレビアニメやマンガにもなった超人気作品です!
原作者三浦しをんが自ら岩波書店、小学館、三省堂の辞書編集部を取材し、フィクションでありながらリアリティーのある物語は秀逸となっています。
そんな人気原作を元にした映画「舟を編む」の魅力に迫っていきたいと思います。
魅力的なキャラクター
特筆すべきは一癖も二癖もある登場人物のキャラクター性です。
松田龍平が演じる馬締光也はオタクでコミュ障な男。
次第に辞書編集に没頭し、それが天職となり責任ある地位について実力を発揮していく様子は彼の内に秘めた熱きものを感じる事ができ、映画を観終わる頃にはこの男が最高にかっこよく、魅力的に見えてしまいます。
また、オダギリジョーが演じたチャラ男・西岡正志も「実は良いヤツ」なので憎めません。
宮崎あおいが演じた馬締の妻は可愛らしくも芯の強い女性です。
二人が初めて逢う夜のバルコニーのシーンでは、月の光に照らされてまるで妖精のよう!役名が「香具矢」なのもかぐや姫からきているのでしょう。
そして美しい日本語を話し、部下に的確なアドバイスをする加藤剛演じる人格者・松本の存在もこの作品には欠かすことのできないキャラクターです。


日本語の奥深さ
この映画を観ると日本語の美しさや奥深さに改めて気づかされます。
それこそがこの物語が多くの人の心を捉えて離さない理由なのでしょう。
「舟を編む」には、マジ、ださい、うざい、BL(ボーイズラブ)など現代の言葉が多く登場します。
更に「右」という日本人なら誰もが日常的に使う言葉にまで注目していきます。果たしてどれだけの人間が「右」という言葉を正確に表現する事ができるでしょう?
作中人物たちがそれらの単語の説明に心血を注ぐのでぜひ作品を観ながら答え合わせをしてみてください!
仕事に打ち込む人々の不屈の精神
この作品には真摯に仕事に打ち込む人たちが丹念に描かれています。
例えば、ファッション雑誌編集部から異動してきた岸辺みどり(黒木華)が最初は嫌々仕事をしていたのに、辞書を編集する楽しさを知って、仕事にのめり込んでいきます。
定年退職した荒木公平(小林薫)が嘱託社員として編集作業に出てきてくれたり、校正のアルバイトたちが泊り込みを厭わず作業に専心したりします。
決して派手なシーンはありませんが、登場人物たちの何としても「大渡海」を完成させるのだという強い思いが全編に渡って描かれているところにこの作品の魅力があるのです。
忘れていた仕事への情熱が湧き上がるような作品です。
松田龍平の渾身の演技!!
新しい辞書「大渡海」の編集に苦労する主人公・馬締が悪夢にうなされるシーンの撮影は、苦労したそうです。
夜の暗い海に散らばって浮いた単語カードを馬締が拾い集め溺れていくシーンは、実際に主演の松田龍平がプールの中に潜り撮影されました。
散らばった単語カードもCGではなく実物のカードをプールに浮かべて撮影したという事です。
普段は無関心で物静かな男が、取り憑かれたように単語カードを拾い集める迫真の演技に注目して下さい!
辞書制作の手順
この映画では、辞書を制作する過程が細かく描写されていて、ストーリーもそれに沿ってすすんでいきます。
ここでは、辞書「大渡海」制作の手順を解説します。
1.辞書の題名の決定
岩波書店では「広辞苑」、小学館では「大辞泉」。
この映画で作られる辞書の題名は「大渡海」と決まります。
2.掲載する見出し語数の決定
「広辞林」は16万語収録、「新明解国語辞典」は約7万9千語、「岩波国語辞典」は2千200語など、辞書によって見出し語の数が違います。
「大渡海」の場合は、24万語収録にすると決まります。
3.辞書の個性の決定
どんな単語を見出し語として載せるかはもちろん、どんな説明を執筆するのか、各辞書によって個性があります。
例えば、「ヤバい」「チョベリグ」などの新しく派生した単語をどの程度掲載するのかを決めていきます。
「大渡海」の場合は、ら抜き言葉のように、間違った用法であっても多くの人が使っている単語は載せると決定します。
4.用例採集
辞書に見出し語として載せる単語を集め、単語カードに一単語一枚で書き出します。
松本と馬締はファストフード店に張り込み、聞こえてくる女子高生の話し言葉までも書き留めて単語の収集に努めます。
5.見出し語の選定
用例採集で集まった単語カードの中で、改訂前の国語辞典に載っている単語、広辞苑にも大辞林にも載っている単語、片方にしか載っていない単語、いずれにも載っていない単語に分類します。
それぞれから掲載する見出し語を選んでいきます。
6.語釈の作成
見出し語の説明を執筆します。
「恋」の語釈は、馬締が実体験により次のように執筆する事になります。
「ある人を好きになってしまい、寝ても覚めてもその人が頭から離れず、他のことが手につかなくなり、身悶えしたくなるような心の状態」
7.専門用語の執筆依頼
例えば歌舞伎で使われる単語、化学用語など、あるジャンルに詳しい専門家や大学教授に、見出し語の説明を書いてもらうよう依頼します。
映画では、辞書は儲からないと制作中止になりかけますが、弁がたつ西岡正志(オダギリジョー)が専門家に精力的に執筆依頼しまくり、既成事実を作って「大渡海」の制作存続を実現します。
8.校正(5回)
正しい日本語が使用されているかどうか、制作している辞書の個性に合った言葉が使われているか吟味していきます。
映画では校正時、学生アルバイトがミスを発見し抜けている見出し語に気が付いたので、時間が限られている中、抜けている見出し語が他にもあるかどうか全員で校正原稿を照らし合わせる羽目になりました。
9.表紙のレイアウトの決定
デザイナーに表紙とページの装丁、広告キャンペーン用の写真撮影を依頼します。
映画では、芥川賞受賞作家でピースの又吉直樹が装丁デザイナー役で出演しています。無類の本好きという事で出演が決まったそうです。
10.使用する紙の材質の選定
辞書の表紙・ページに使用する紙の材質を選んで、製紙会社に発注します。
馬締は、指に吸い付くような手触りの紙にこだわり製紙会社と折衝を重ねます。
11.完成
「大渡海」は企画から15年後に完成します。
完成記念パーティーには、辞書編集に関わった多くの人々が参加します。
辞書というのはこれほどまでに年数と手間が掛かるのですね。
何十万もある見出し語の全てに、それを編集した人の人生の一部や、言葉の意味を正確に伝えたいという願いが込められていることがわかります。
上司・松本の死
言語学者である上司・松本が食道ガンであることがわかり、馬締は何とか松本の体力が無くなる前に辞書を完成させようと急ぎますが、その想いは叶いませんでした。
「大渡海」完成記念パーティーで亡き松本からの手紙を見せられた馬締の悲しみが胸に迫ります。
その手紙には、馬締ら部員への感謝と、「感謝以上の言葉があるかどうか、あの世で用例採集してみます」と記してありました。
松本らしい茶目っ気のあるこの文言に心が温かくなります。
ラストシーンで、馬締は松本の家に線香をあげに妻と訪れ、その帰りに海を見て万感の思いに浸ります。
上司への思いと「大渡海」を完成させた達成感。そして妻への感謝。
馬締の海の凪のような想いに、視聴者は清々しい気持ちになる事でしょう。
馬締という苗字について
「馬締」という苗字は、原作者の三浦しをんが作ったのかと思いきや、実在する苗字で、宿場町で馬を管理した元締めの仕事に就いた人々に付けられたのだそうです。
馬締姓の家は東京と紀伊半島と北九州に合わせて10世帯ほどあるようです。


タイトルの意味
「舟を編む」というタイトルは何を意味しているのだろうと思われた方もいるのではないでしょうか。
「舟」とは、辞書の事を指しています。
膨大に存在する言葉を大海原に例えていて、その言葉の海を渡るための舟が辞書という事です。
「編む」とは、文章を集めて書物を作る・編集するという意味です。
「舟を編む」は、辞書を編集するという意味なのです。
だから、この映画で作られる辞書の題名が大きな海を渡ると書いて「大渡海」なのですね。
まとめ
以上、映画「舟を編む」のネタバレ・考察、あらすじや物語に関する小話を紹介してきましたがいかがでしたでしょうか!?
辞書が完成するまでの奮闘を描いた映画「舟を編む」。
心がくじけそうな時でも「何事もコツコツ頑張ろう」そんな気持ちにさせてくれる一作です。
家にある辞書のページをめくってみたくなりますね。
この記事を読んで、「舟を編む」を観たいと思って頂けたら嬉しいです。