「キングスマン」は2014年に公開されたイギリス・アメリカ合作のスパイ・アクション映画です。
アメコミ作家で、原作者のマーク・ミラーが監督のマシュー・ヴォーンと組み、真面目すぎるスパイ映画が多い現状へのアンチテーゼとして作られました。
スタイリッシュなアクションとブリティッシュ・ジョーク満載の本作は観るものを楽しませる要素にあふれています。
コリン・ファース、 サミュエル・L・ジャクソンといった大物俳優の対決も魅力的な本作について、トリビアや考察を交えながらご紹介していきましょう。
キングスマン(2014年)
イギリスのロンドンにあるサヴィル・ロウは高級テーラーが並ぶ通りだが、「キングスマン」というテーラーはどの国にも属さない諜報機関という裏の顔があった。
若い頃に父を亡くしたエグジーは、高い身体能力と頭脳で将来を期待されていたがいまでは街の不良グループに入り、敵対グループと小競り合いをしている。
ある日敵対グループの車を盗んだエグジーは警察に捕まり、子供の頃にもらったメダルにあった番号に電話して合言葉を言うと、なぜか釈放される。
釈放されたエグジーを待っていたのは子供の頃のエグジーにメダルを渡した張本人であり、諜報機関キングスマンのメンバーであるハリー(コリン・ファース)と言う男だった。
パブに入ったエグジーとハリーをチンピラが襲うが、ハリーはあっという間に全員を片付けてしまう。
エグジーの父がいかに勇敢ですごい男だったかを語り、エグジーにも「キングスマン」になるようにスカウトするハリー。
一方そのころ、大富豪のヴァレンタイン(サミュエル・L・ジャクソン)は地球の環境問題を解決すべく、人口を減らす恐ろしい計画を進めていた…。
キングスマン(ネタバレ・考察)
「キングスマン」は、俳優や制作スタッフのスパイ映画に対する愛情と情熱が実を結んだ傑作になっています。
鑑賞する上で知っておくと楽しめるトリビアをお伝えしていきます。
水没シーンは命がけだった
キングスマンになるべく候補生たちが集められたベッドルームが水没するシーンがありますが、実はコンピュータ制御が故障して排水できなくなったらしいです。
そのため俳優たちは演技ではなく、実際に恐怖したとのこと。
監督のマシュー・ヴォーンは撮影初日に起きたこの事故に関して「本当に怖かった」と述べています。
コリン・ファースのアクションは80%が本人
「英国王のスピーチ」でアカデミー主演男優賞を獲るなど名優として知られるコリン・ファースがキングスマンのメンバーとしてアクションを披露するのも本作の見所です。
コリン・ファースは本作の撮影に入るにあたって6ヶ月間ジャッキー・チェンのスタントチームに弟子入りするなど徹底的に鍛え上げました。
その結果、アクションシーンの80%はコリン・ファース本人が演じているのです。キレの良い彼のアクションも是非堪能してください。
ガゼルとパラアスリートとの関係
2012年のパラリンピックを観ていたマシュー・ヴォーンは義足の悪役についてアイデアをまとめ、ガゼルのベースが誕生しました。
最初は男性を想定しており、有名なパラスプリンターであるオスカー・ピストリウスにオファーが届いたのですが、彼は競技に専念するためにオファーを辞退します。
ですがその後ピストリウスは恋人を侵入者と間違えて射殺してしまい、過失致死の罪で刑務所に入ることになりました。
ピストリウスはドア越しに拳銃を発射したのですが、「キングスマン」の中でもガゼルがドア越しにピストルを発射するシーンが入れ込んであります。
ここでもマシュー・ヴォーン監督のブラック・ジョークが発揮されているのです。
原作と性別が変わったガゼル
その後、ガゼルはジェンダーに配慮して女性キャラクターになりました。
女性のガゼルを演じてもらうため、二肢切断のパラリンピック選手であるエイミー・パーディにオファーが行ったのですが、撮影まで時間がかかることが分かり降板。
最終的にガゼルを演じたソフィア・ブテラはダンサーでしたがムエタイやテコンドーのトレーニングを積み、多彩な義足での殺し方を披露してくれました。
キングスマンのコードネームはアーサー王伝説から
キングスマンのエージェント名はアーサー王と円卓の騎士から名付けられています。
キングスマンのトップを務めるアーサー(マイケル・ケイン)は聖剣エクスカリバーを抜いたアーサー王です。
ハリーのコードネームであるガラハッドは聖杯を見つけた騎士の名前から来ています。
キングスマンをサポートし、訓練生を鍛えるマーリンはアーサーに仕えた魔術師の名前です。
また序盤で亡くなってしまい、新たなキングスマンとして指名されるランスロットも有名な円卓の騎士の一人になります。
イギリスに本拠地を構える組織として付けられているコードネームですが、かっこいいですね。
教会での乱闘シーンは7日間かけて撮影された
アメリカ南部で差別的な集会をしている最中に、ヴァレンタインがSIMカードに電波を送って殺し合いをさせるカットは本作の中でも注目のシーンです。
コリン・ファース演じるハリーの長回しアクションを堪能できるド派手なシーンですが、撮影には7日間かかりました。
この乱闘シーンでアメリカ南部で人気を博しているバンド、レーナード・スキナードの「フリー・バード」が流れるのは差別的な白人が多い南部へのブラック・ジョークです。
エルガーの「威風堂々」でセレブの頭が破裂!
SIMカードからの電波を受信しないようにチップを埋め込まれたセレブたちですが、そのチップには爆発する機能もついており、マーリンにハッキングされてセレブは爆発します。
このシーンではイギリスの第二の国歌とも言えるエドワード・エルガーの「威風堂々」に合わせて爆発していくあたりがマシュー・ヴォーン監督のギャグセンスを感じるのです。
イギリス万歳!な映画で「威風堂々」を流して大量殺人を茶化していることも、この映画が面白い要素の1つといえます。
「キングスマン」とファッションの関係
サヴィル・ロウのテーラーが基地になっているように、「キングスマン」ではオーダーメイドのスーツを始めとして英国ファッションがふんだんに登場するのも魅力です。
キングスマンが着る衣装はボタン1つに至るまですべてイギリス製を用いるなど強いこだわりを感じる「キングスマン」のファッションに注目していきます。
「キングスマン」のモデルとなったお店は?
エージェントたちが集まる基地としてサヴィル・ロウに店を構えるテーラー「キングスマン」ですが、モデルとなったお店があります。
それが「HUNTSMAN(ハンツマン)」という高級テーラーです。
1865年にプリンス・オブ・ウェールズ殿下御用達となり、それをきっかけに各国王室に御用達テーラーとして他店とは別格の扱いを受けています。
ハリー(ガラハッド)がエグジーを連れてキングスマンを案内するシーンなど、店舗のシーンはハンツマンの実際の什器などを使用して撮影されているのです。
スーツは誰が仕立てた?
ストリート出身のエグジーと対比するかのように、英国式スーツをかっこよく着こなすハリーは本当におしゃれで印象的です。
キングスマンのスーツはディレクションをアリアン・フィリップスが担当し、ロンドンのファッション流通会社ミスター・ポーターがバックアップして制作しています。
ウエストが絞ってあり、胸元が強調されているデザインはハンツマンの意匠を汲んでおり、アクションシーンでも型くずれしない仕上がりになっているのです。
ミスター・ポーターは商品ブランドに「キングスマン」をラインナップしており、通販で購入することができます。
映画を見て気になった人はチェックしてみるといいでしょう。
訓練生の服もスーツ
ランスロットの座を懸けた訓練生のトレーニング風景にも、イギリスらしいオシャレなスーツが登場します。
それが英国首相だったウィンストン・チャーチルが戦時中に好んで着ていたと言われるサイレンスーツなのです。
防空サイレンが鳴るときに着る服として、その名がつけられています。
いわゆるオールインワンのつなぎなのですが、襟まわりやウエストのベルトなどに特徴があり、単なる作業服ではないオシャレ感があるのが特徴です。
「007」シリーズへのオマージュ
イギリスを舞台にしたスパイ映画といえば「007」シリーズが有名ですが、007を始めとして過去のスパイ映画にオマージュを捧げつつ独自性を見せているのが本作です。
スパイ映画のファンを喜ばせると同時にオリジナリティを主張する「キングスマン」の見どころをチェックしていきましょう。
仕込みナイフの靴
キングスマンの装備の中に、かかとを合わせるとつま先から仕込みナイフが出てくる靴が登場しますが、これは007シリーズの「ロシアより愛をこめて」のパロディです。
エグジーはガゼルとの死闘を繰り広げた際に猛毒が塗られたこのナイフで傷をつけ、倒すことに成功します。
ガゼルのガジェットについて
義足に刃物が付いていて、敵対するものを切り裂くというガゼルのガジェットは、007シリーズに登場した殺し屋たちのオマージュになっています。
「ドクター・ノオ」のノオ博士や「死ぬのは奴らだ」のティー・ヒーの義手、シリーズに二回登場したジョーズの金属製の歯など悪役は金属製の義肢を付けていることが多いです。
悪の親玉や側近が機械化した部位を持つという設定に沿う形で、義足が武器になっているというガゼルが生まれました。
ジェームズ・ボンドの好きなお酒
「007」のジェームズ・ボンドがカクテルを注文するときは「ウォッカ・マティーニをステアではなくシェイクで」というのがお約束です。
マティーニはもともとジンとベルモットをステアして混ぜるカクテルなのですが、ボンドはシェイクの味わいが好きなようです。
ですが「キングスマン」のエグジーはパーティーに潜入したときに、バーテンダーにこう告げます。
「マティーニを。ウォッカではなくジンで。ベルモットは入れず、瓶を見て10秒ステアで。」
ベルモットの量が少なければ少ないほどドライな味わいになるのですが、ボンドの注文は甘すぎると言わんばかりのセリフにファンはニヤリとさせられます。
まとめ
今までのスパイ映画のエッセンスに対してマシュー・ヴォーン監督なりのアンサーを様々なメッセージに変えて織り込んだ映画「キングスマン」。
「礼節が人を作る」という名言で紳士としての生き方を伝えるハリーと、それに応えるべく努力するエグジーの師弟関係が眩しい本作はオススメの1本といえるのです。
スタイリッシュなアクションとファッションを同時に楽しめるうえに、観るものをニヤリとさせるジョークがスパイスとして効いているので、ぜひご覧になってください。