映画 英国王のスピーチネタバレ・考察

「英国王のスピーチ」は2010年に公開されたイギリス・オーストラリア・アメリカ合作の歴史映画です。

英国王ジョージ6世の吃音(きつおん・どもり)を克服していく姿が感動を呼び、アカデミー賞4部門を獲得しました。

登場人物はほぼ全員、実在の人物で、国王と言語療法士との友情を、史実を絡めて描いた本作。

作品に含まれている情報を紐解きながら、この作品の魅力について考察していきましょう。

英国王のスピーチ(2010年)

1930年代、英国のジョージ6世(コリン・ファース)は、あらゆる治療を試しても吃音の症状が改善せず、スピーチが苦手だった。

妻エリザベス妃(ヘレナ・ボナム=カーター)の勧めで、オーストラリア人の言語療法士ライオネル・ローグ(ジェフリー・ラッシュ)の診察を受ける事になる。

王族を王族とも思わないような遠慮のないローグの斬新な療法で、徐々に効果が上がっていく。

1939年9月、イギリスは、ポーランドに侵攻したヒトラーに宣戦を布告。

ジョージ6世は、動揺する国民に向かって苦手なスピーチをせざるをえなくなる…。

英国王のスピーチ(ネタバレ・考察)

吃音を克服していく国王と言語療法士の交流が感動的な映画「英国王のスピーチ」。

ここでは、映画にまつわる小話をお伝えしていきましょう。

「英国王のスピーチ」が2010年になって公開された理由

この映画の脚本家デヴィッド・サイドラーは、自らも吃音症でした。

彼は、ジョージ6世の言語療法士であった故ライオネル・ローグの治療記録を2001年に孫が発見した事を知って、この映画の企画を思いつきました。

サイドラーは映画制作のために治療記録を利用しようとしましたが、それには英国王室の許可を取らなければならなかったのです。

ジョージ6世の妻だったエリザベス妃は、治療記録使用について、亡き夫の事を思い出すと辛いからと、自分の存命中には内容を開示しない事を条件としました。

エリザベス妃が亡くなった2002年以降、やっと治療記録の内容が公表されました。

この映画は、こうして得られた新資料を元にようやく完成したんですね。
デヴィッド・サイドラーは史実を丹念に掘り下げて脚本を執筆し、アカデミー賞脚本賞を受賞しました。

ジョージ6世役は当初コリン・ファースではなかった

ジョージ6世役を演じる俳優として、当初イギリス人俳優のポール・ベタニーを想定して脚本が制作されていました。

しかし、ポール・ベタニーは家族と過ごす時間を優先するためにこの役を辞退。

後にポール・ベタニーはこの判断を後悔していると語っています。

「英国王のスピーチ」のロケ地は?

ウエストミンスター寺院での戴冠式のシーンは、イングランド東部、ケンブリッジシャーのイーリー大聖堂で行なわれました。

またバッキンガム宮殿内のシーンは、実際にはジョージ6世が建てた邸宅ランカスター・ハウスを用いて撮影されたそうです。

これらの建物を映画撮影のため1日レンタルしただけで、2万ポンド(約260万円)かかったといわれています。

スピーチ中のBGMは特別録音

ジョージ6世の開戦時のスピーチ中に流れた曲は、ベートーベンの第7交響曲・第2楽章アレグレットで、テリー・デイビス指揮によりロンドン交響楽団が演奏しました。

この曲は実は、わざと速度を変更して演奏されています。

国王のゆっくりしていて時々つっかえる話し方に合わせ、通常の第7交響曲よりテンポが遅く、所々リズムがランダムに変えられたのです。

音楽スタッフの遊び心がそうさせたのでしょう!
音楽担当のアレクサンドル・デプラは、ゴールデングローブ賞・アカデミー賞の作曲賞にノミネートされました。

ジョージ6世はタバコの吸い過ぎで死去

映画の中で、ジョージ6世が、スピーチの練習の最中にタバコを吸っていると、「そうやって肺にタバコの煙を送っていては死んでしまう」とローグに忠告されるシーンがありました。

実際ジョージ6世は1日に20~25本のタバコを吸う事もあったそうで、肺がんの手術による合併症のために1952年2月6日、56歳の時に亡くなっているのです。

その歴史的事実を踏まえて挿入されたシーンだと思われます。

チャーチルも言語障害だった

ウィンストン・チャーチル首相が、国王に「実は私も発音障害だったのですよ」と打ち明けるシーンがあります。

実際チャーチルも、子供のとき言語障害で、それを克服し、1940年に国民へ向けたスピーチを成功させました。

これは、言語障害で悩んでいた二人の実在の人物を描いている作品という事になります。

二人とも、努力して障害を克服したのですね。
努力すれば希望が見えてくるというメッセージをこの映画は発信しているのです。

エリザベス女王も映画を視聴

「英国王のスピーチ」の評判が良かったため、エリザベス現英国女王は映画を視聴しました。

通例として、英国王室の人たちは、エンターテイメント作品に感想を述べることはありませんが、エリザベス女王は「英国王のスピーチ」に対して「感動しました。制作者を称賛します」と好意的なコメントを発表しています。

ジョージ6世やその家族(自分)の姿が、穏やかで温かな家族として描かれていたのが、ポイントになったのだと言われています。

エリザベス女王にとっては、幼い時の自分と両親を描いた映画なのですね。
ジョージ6世の治世が、確かに歴史の1ページだった事を改めて思い知らされます。

謎のワードを解説!

この映画は20世紀の英国を舞台にした作品です。

作中に登場した現代日本人にわかりにくいワードを解説していきたいと思います。

スクーンの石とは?

ジョージ6世とローグが戴冠式のスピーチの練習をする時、スクーンの石についてのセリフがあります。

スクーンの石とは、旧約聖書に登場するユダヤ人の祖・ヤコブが枕にして神の啓示を受けたとされる石の事です。

1296年、エドワード1世が、スコットランドのスクーンにあったその石を、ロンドンのウェストミンスター寺院に運び、石に合わせて国王の椅子を造りました。

その事から、スコットランド王を兼ねる歴代のイギリス国王は、ウェストミンスター寺院でこの椅子に座って即位するようになりました。

映画では、ローグがジョージ6世に対し、王位継承者として自信を持ってほしいと励ますために、わざと「ただの石の椅子だ」と王を挑発します。

シルバートーンとは?

ローグは、最初の診察の際に、シルバートーンという家庭用蓄音機レコーダーで、ジョージ6世の声を録音します。

シルバートーンは、アメリカ・シカゴの「シアーズ・ローバック・デパート」の音響製品で、1930年代に発売されました。

当時、最新鋭の蓄音機レコーダーだった事がわかります。

この作品の見どころポイント

この作品は、ジョージ6世を演じたコリン・ファースと、言語療法士ローグを演じたジェフリー・ラッシュ、エリザベス妃のヘレナ・ボナム=カーターの三人の演技が存分に堪能できます。

「英国王のスピーチ」の見どころをご紹介しましょう。

コリン・ファースの役作り

この映画では、何といってもコリン・ファースの吃音症の演技が見どころです。

ジョージ6世の実際のスピーチの録音を聞いてみるとソックリなので、コリン・ファースは丹念に過去の録音を研究したと思われます。

コリン・ファースの妹が女優であり応用言語学の専門家でもあるので、彼は妹にも取材し、吃音や国王としてのプレッシャーに苦悩するジョージ6世の人生を見事に体現してみせました。

映画が完成した後、コリンファースは、映画のために覚えた吃音のクセがなかなか抜けず、それを直すのにプライベートで言語療法士の訓練が必要だったそうですよ。
苦労の甲斐あって、コリン・ファースは、この映画でアカデミー賞主演男優賞を受賞しています。

ローグの治療シーン

映画の中で、当初ジョージ6世が受けた吃音症の治療は、ビー玉を口中に入れて発声させたり、タバコを喫わせたりと、現代人からみるとどんな効果があるかわからないようなものでした。

しかし新たに国王専任の言語療法士に就任したローグの治療は、これまでジョージ6世が受けた治療とは全く違っていました。

ジョージ6世に、子どもの頃辛かった事を言わせて精神的療法を施したり、身体をリラックスさせて発声させたりと、現代の吃音症の治療法から考えてみると、当時の最新の治療法が行なわれたと思われます。

大人の男が二人してジャンプしながら、真剣に早口言葉を唱える様子に思わず笑ってしまいます!

個性の強い二人は、治療中、何度もケンカして、その度に仲直りしながら、二人三脚で吃音に取り組んでいきます。

そしてついにエンディングで、視聴者は、ジョージ6世が国民を鼓舞するスピーチを見事にやり遂げる姿に心打たれるのですね!!
二人の名優の息の合った演技から目が離せませんね。

オーストラリアから来た言語療法士

ローグがオーストラリア人だったという事実が、この映画では重要です。

かつては、オーストラリアは英国の植民地で、犯罪者の流刑地だったので、英国民は、オーストラリアについて下層民の掃き溜めのようなイメージを抱いていました。

映画の中で、コスモ・ラング大主教が、国王専任の言語療法士であるローグを解任しようとしたのは、そうした差別感情があったからだと思われます。

しかしジョージ6世は、ローグを信頼していたので解任はさせませんでした。

この映画は、国王という最高位の人物と、元植民地出身の人物の、生まれも身分も越えた友情物語となっているのです。

妻役のヘレナ・ボナム=カーターの演技は見どころ

ジョージ6世の妻エリザベス妃は、嫌がる夫の尻をたたいて吃音の治療を受けさせ、どんな時でも肝が据わっている女性として描かれています。

史実では、エリザベス妃は、戦時中に宮殿が爆撃されてもロンドンに留まり、英国民を奮い立たせました。

ヘレナ・ボナム=カーターは、そんな実在の女性を丁寧に演じています。

史実との相違点

この映画は、歴史映画なので、ほぼ史実に沿ってストーリーが進んでいきますが、事実とは違う点もみられます。

吃音を克服したのは開戦時のスピーチではなかった

映画では、吃音を克服できたスピーチは、1939年の開戦時に行なわれたスピーチであるとしていますが、史実では、国王はもっと前の時点で完璧なスピーチを成功させていました。

ジョージ6世は、1927年のオーストラリア連邦議会でのスピーチで、吃音を克服していたのです。

吃音を克服したのが、国家的な危機となった開戦時のスピーチという設定にしたほうが、視聴者の感動が増すと判断したのでしょう。

ローグのこだわり

映画では、ローグは、ジョージ6世の最初の診察の際、お互いファーストネーム(またはニックネーム)で呼び合うように提案しますが、実際、ローグが国王を「バーティ」という愛称で呼んだという事実はないそうです。

よりローグの変人ぶりを強調するために、呼び名にこだわったという設定にしたと思われます。

兄とその恋人の性格描写

この映画で、ジョージ6世の兄エドワード8世とその恋人・ウォリスが、いかにも悪役であるかのように描写されています。

兄エドワード8世がジョージ6世に対して吃音を真似してバカにしたり、ウォリスが高価なシャンパンを飲みまくって享楽的に振る舞っていたりしたので驚きました。

兄弟の仲が悪かったという記録はありません。

ジョージ6世が国王に即位しなければならなかったのは、エドワード8世がウォリスと結婚して王位から離脱したためだったので、映画では彼らが悪役として描かれたのでしょう。

まとめ

「英国王のスピーチ」から考察・ネタバレ、作品のトリビアをご紹介してきましたがいかがでしたでしょうか?!

ジョージ6世とローグが、吃音を克服しようと様々な努力をし、国民を励まし導くスピーチを成功させるラストシーンには、爽やかな気分になる事請け合いです。

脚本と俳優陣が素晴らしいので、ぜひご鑑賞ください。

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