映画宇宙人ポールネタバレ・考察

「宇宙人ポール」は2011年のイギリス・アメリカのSFコメディ映画です。

主演にサイモン・ペッグとニック・フロスト、宇宙人ポール役はセス・ローゲンとイギリスとカナダを代表するコメディ俳優が演じており、笑えることは間違いないありません。

映画オタクでSFオタクのキャラクターを本人の個性そのままに演じる様は、脚本の妙もありオタク気質な人ならすぐに没入できるでしょう。

ちょっと下品だけどなぜか感情が揺さぶられる、不思議な名作についてお伝えしていきます。

ポールって宇宙人なんだけど、地球のカルチャーに詳しすぎです!
地球に60年も居たんだからかなりの知識量を持っていると思うよ。

宇宙人ポール(2011年)

SFオタクのイギリス人であるグレアム(サイモン・ペッグ)とクライヴ(ニック・フロスト)は、コミコンに参加した後に聖地巡礼するため、キャンピングカーでアメリカを旅行していた。

旅行を満喫していた二人だったが、ネバダ州のエリア51を通過したところで交通事故に遭遇、現場に近寄るとグレイ型の宇宙人ポール(セス・ローゲン)が現れる。

流暢な英語で話しかけてきたポールを見て失神するクライヴ。グレアムはポールの話を聞くと、昔地球に不時着して捕まり、政府に囚われていたらしい。

「X-ファイル」や「E.T.」などのポップカルチャーにも協力していたが、ポールが持つ治癒能力の研究のために解剖されそうになり、逃げ出したという。

仲間と合流するために協力してほしいと頼まれ、それを引き受けたグレアムとクライヴは奇妙な旅に出るのであった…。

コミコンってなんですか?
コミックやSF、特撮ファンタジー映画などのファンが集うコンベンションのことだよ。アメリカ発祥だけど、いろんな国で開催されるようになったんだ。

宇宙人ポール(ネタバレ・解説)

陽気な宇宙人ポールが繰り広げる珍道中は、これまでにあったSF映画やコミックのネタをはさみながら進んでいきます。

笑えるトリビアがたくさん盛り込まれている本作の小ネタ満載でお伝えしていきますので、映画のスパイスとして本作と一緒に楽しんでください。

ロケハンで地元民に絡まれた

本作の序盤で、グレアムとクライヴはレストランでおしゃべりなウェイトレスとちょっかいを掛けてくる不良に出会います。

サイモン・ペッグとニック・フロストは本作の脚本を執筆するためにキャンピングカーを借り、ロケハンとして現地を周りました。

劇中にも登場する実在のレストラン「リトル・エイリアン」で、実際に喧嘩腰の地元民やおしゃべりなウェイトレスに遭遇したそうです。

映画の中で良いスパイスになると感じた二人は、この出来事を映画の中に盛り込むことに決めました。

「エイリアン」オマージュ満載

ビッグ・ガイと呼ばれる宇宙人管理のボスはシガニー・ウィーバーですが、これはもちろん「エイリアン」シリーズへのオマージュです。

老婆タラがルースを守るためにビッグガイを殴ったときに放つ「彼女から離れな、ビッチ」というセリフは、「エイリアン2」でウィーバー演じるリプリーが少女ニュートを守るためにエイリアンクイーンに向かって放つのと同じです。

SFオタク向け映画らしい、ファンサービス満点のセリフ回しになっています。

「ブレイド」は許可が降りなかった

マーベルコミックスのキャラクターで、映画化もされているヴァンパイア・ハンターの「ブレイド」が持っている刀がコミコンで売られています。

クライヴが欲しがり、後に購入するのですが、店主の説明としては「ブラック・ヴァンパイア」としか伝えられません。

これはマーベル社から名前を使用する許可が降りなかったためで、ファンならすぐわかるように店主のセリフにキャラ説明を入れ込んでいます。

親子3代の縁

ポールが最初に接触した人間タラを演じるブライス・ダナーの娘は女優グウィネス・パルトローですが、グウィネスの名付け親はカメオ出演したスピルバーグ監督です。

さらにグウィネスの娘の名付け親は、グレアムを演じたサイモン・ペッグで、アップル・マーティンと名付けています。

親子3代に渡って出演者に縁がある映画というのは、なかなか無いのではないでしょうか。

その他の小ネタ

  • 「スター・トレック」のクリンゴン語
  • 聖地巡礼中に「スター・トレック」ごっこ
  • 3つのおっぱいは「トータル・リコール」から
  • ポールが姿を消すのは「プレデター」の能力。声真似もしている
  • 捜査官をピーター・パーカーと呼ぶのは「スパイダーマン」
  • グレアムがポールの似顔絵をスケッチするのは「タイタニック」のオマージュ
スター・トレックごっこはなんであんなにクオリティが低いのですか?
実際にTV放送されたカーク船長と異星人の対決が本当に酷い出来でファンの間では語り草なんだよ。

スピルバーグに送るスピルバーグ愛満載の映画

様々なSF映画の引用が多い「宇宙人ポール」ですが、SF映画の大家であるスティーヴン・スピルバーグ監督作品への愛情を深く感じる作品になっているのです。

なかでも「未知との遭遇」(1977年)と「E.T.」(1982年)へのオマージュが多く、影響を感じます。

多くのスピルバーグ作品に対してのオマージュが込められている本作の企画を知った監督は、カメオ出演を快諾しました。

「宇宙人ポール」の中で引用されているスピルバーグ監督の作品について言及していきましょう。

「ジョーズ」のオマージュも入っている

エージェントのハガードがポールを撃とうとするときに「さあ笑え、クソ野郎」と叫ぶのは、スピルバーグ監督の出世作「ジョーズ」(1975年)からの引用です。

「ジョーズ」ではサメに酸素ボンベを咥えさせ、銃で破裂させるときにこのセリフを使います。

決め台詞のはずでしたが、ハガードは谷底へ転落してしまうのです。

花火を見つけたシーンとマザーシップが来るのは「未知との遭遇」

ポールたちが居場所の目印となる花火を買いに行くシーンがありますが、ここで流れているのは「未知との遭遇」で鳴る印象的な5つの音です。

花火を打ち上げたときも、印象的な「レ・ミ・ド・ド・ソ」の音階が鳴り、原案とも言える「未知との遭遇」に対してのリスペクトを感じます。

デビルスタワー自体が「未知との遭遇」に登場する有名な場所なのですが、UFOが来たと思ったらヘリだった、というのも完コピしていてファンには嬉しい作りです。

スティーヴン・スピルバーグがカメオ出演

映画の序盤で宇宙人ポールが、1980年にスピルバーグ監督へ「E.T.」のアイデアを提供するシーンがあります。

このときスピーカーから流れている声は、スピルバーグ監督本人の声なのです。

ポールとスピルバーグ監督が会話しているシーンでは、スピルバーグ監督作「レイダース/失われたアーク」のラストで聖櫃が保管されたエリア51の倉庫と同じ見た目になっているのも憎い演出ですね。

インディ・ジョーンズからも引用が

組織の内通者だったゾイルが、ポールと別れ際に「じゃあな、ショート・ラウンド」と語りかけるシーンがあります。

これもスピルバーグ監督の「インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説」(1984年)に出てきたアジア人の少年の名前です。

イギリス人から見たアメリカとキリスト教へのアンチテーゼ

イギリス青年でSFオタクのグレアムとクライヴから見たアメリカの中西部と、キリスト教原理主義者についての皮肉が含まれているのも、「宇宙人ポール」の見どころです。

アメリカの田舎をロケハンして周り、それを脚本に落とし込んだサイモン・ペッグとニック・フロストのメッセージについて考察していきます。

ゲイへの偏見をあざ笑う

グレアムとクライヴはあまりに仲良しすぎて、ゲイカップルだとネバダ州の田舎者たちにバカにされます。

アメリカはセクシャルマイノリティーに寛容だと思われがちですが、都市部などで同性婚が認められるようになってはいるものの、未だに差別は根強いです。

映画ではゲイを馬鹿にした田舎者たちが、ポールを見た瞬間に気絶し、似顔絵を見ただけで震え上がるようになります。

このように皮肉として描くことで、ペッグとフロストは差別する古い人間を笑いのネタに変えているのです。

キリスト教原理主義者に対しての答えが「宇宙人ポール」

ルースは厳格な父モーゼに教育され、厳格なキリスト教徒として育ち、進化論や宇宙人について否定します。

これは脚色もありますが、実際にアメリカ中西部にはこういった考え方の人がまだいるのです。サイモン・ペッグとニック・フロストにとってはカルチャーショックだったでしょう。

ルースもポールのことも最初は信じず、悪魔扱いするのです。

ですが失明した片目をポールの力によって治されることにより、宇宙人の存在を認め、キリスト教からも解放されます。

失明から救うエピソードは、キリストがパウロの目を治したという奇跡を起こすことで、悪魔と呼ばれていたポールが実はキリストである、というブラックジョークです。

ルースのシャツには、キリストがダーウィンを撃っている「これが進化だ!(EVOLVE THIS)」という絵が書いてありましたが、失明が治ってからはこの文字が見えることはありません。

これはルースが神に縛られたことから開放され、自分の意思で生きていけるようになった自由を表しているのです。

宇宙人はなぜ地球にコンタクトしてこなかったのか

中盤でグレアム、クライヴ、ルース、ポールの4人が焚き火に当たりながらマリファナを吸い、語り合うのはイージー・ライダー(1969年)へのオマージュです。

「イージー・ライダー」ではなぜ宇宙人は地球人にコンタクトを取らないのかという疑問に対して、地球は争ってばかりでまだ未成熟だから、という結論になりました。

ですが「宇宙人ポール」では進化論を信じるリベラルなSFオタクと、保守的なキリスト原理主義者の間にある争いを宇宙人が取り払ってしまいます。

ポールの様な存在がいれば、私達も変われるはずというちょっと真面目なメッセージを含んでいるのです。

ポールこそがキリストかもしれない

ルースの目を治しただけでなく、自分をかばって撃たれたグレアムの傷も引き受けて、一度は絶命するポールですが、すぐに蘇ります。

このような献身と奇跡は、まるでキリストのようです。

この奇跡にモーゼ(ルースの父)も驚き、ポールを神の子として見るようになります。

この作品ではキリスト原理主義者をキャラクターに織り込むことで、宗教もいいけど宇宙も悪くないよね、とメッセージを伝えているように感じます。

まとめ

ここで紹介した以外にも映画のパロディが幅広く取り込まれている傑作SFコメディ「宇宙人ポール」。

「X-ファイル」のモルダーはポールのアイデアだったり、ポールを追跡してくる黒尽くめのスーツの男は「MIB」(これもスピルバーグ監修)だったりと小ネタが山盛りです。

気軽に見られて大いに笑い、最後はちょっとセンチメンタルな気分になれる傑作ですので、是非ディスクを購入するか、オンデマンドで視聴することをおすすめします。

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