映画エリザベス ネタバレ・考察

「エリザベス」は1998年に公開されたイギリス・アメリカ合作の歴史映画です。

絶対君主としてイングランドに君臨したエリザベス1世(1533年~1603年)の前半生を重厚に描いて各方面から絶賛されました。

「サハラに舞う羽根」のシェーカル・カプールが監督し、女優ケイト・ブランシェットの出世作となりました。

ジョセフ・ファインズ、ジェフリー・ラッシュ、リチャード・アッテンボロー、ヴァンサン・カッセルといった大物俳優の対決も魅力的な本作について、小話や考察を交えながらご紹介していきましょう。

エリザベス(1998年)

ヨーロッパ列強国に翻弄される16世紀のイングランド。国王ヘンリー8世がカトリックを棄て、プロテスタントを打ち立てた事で国内外に新旧の宗教抗争がくすぶる。

父王ヘンリー8世の遺志を汲みプロテスタント信者だったエリザベス(ケイト・ブランシェット)は、カトリックの異母姉メアリー女王にロンドン塔に投獄される。

エリザベスは、メアリーの病死の後を受けて25歳でイングランド女王に即位する。

重臣ウィリアム・セシルは、ロバート・ダドリー(ジョセフ・ファインズ)と恋愛関係にあったエリザベスに、政略結婚を進言する。

ローマ教皇やカトリック列強国が介入してきて、イングランドを取り巻く状況はより一層緊迫し、エリザベスの暗殺未遂事件が起こる…。

エリザベス(ネタバレ・考察)

感動の歴史大作「エリザベス」。

この映画にはどんな小話があるのでしょうか。作品にまつわるエピソードを幾つかご紹介していきたいと思います!

俳優陣の演技の素晴らしさ

まだ当時無名だった女優ケイト・ブランシェットが、女王としての誇りに満ちた鬼気迫る演技で演じているのにまず驚きます。

少女の頃は清純なお姫様で城の庭園で侍女と楽しく遊んでいたのが、異母姉に投獄され女王として次第にカリスマ的存在になっていく様子をよく表現しているのです。

また、ジョセフ・ファインズが、エリザベスの恋人ロバート・ダドリーをセクシーに演じています。

既婚者なのにエリザベスとの愛に溺れ、次第にエリザベスに突き放され、自ら彼女を裏切ってしまう情けない男を愁いを帯びた眼で演じて印象的です。

「恋に落ちたシェイクスピア」や「ヴェニスの商人」でも見られたように、恋に一途で右往左往するイケメン男を演じさせたらジョセフ・ファインズの右に出る者はいないでしょう。

他にも、ジェフリー・ラッシュ、ジョン・ギールグッド、リチャード・アッテンボローと、イギリス演劇界の大御所が出演していて、歴史大作にふさわしい映画になっています。

血まみれのメアリー

映画は、女性たちが火あぶりの刑になる場面で始まります。

火あぶりになったのは、プロテスタント教徒の女性たちです。エリザベスの異母姉・メアリー女王の命令で行なわれたのでしょう。

史実では、メアリー女王はカトリック教徒で、対立するプロテスタント教徒約300人を処刑しました。

そのため、現代のお酒でウォッカをベースとするトマト・ジュースのカクテル「ブラッディ・メアリー(血まみれのメアリー)」はこのメアリー女王が由来になっているという事です。

現代日本人の私たちにはなかなか理解しにくい時代ですね。
当時は宗教の違いで殺し合いが起きる陰惨な時代だったのです。

裏切り者の門

エリザベスが、メアリー女王に妾の子と罵られ、ロンドン塔に投獄されるシーンがあります。

その際川から船で門をくぐって連行されます。

史実でもその門は反逆者が通る、一度入ったら二度と生きて出て来られない「裏切り者の門」と呼ばれていました。

歴代の数多の斬首刑となった人物がこの門からロンドン塔に投獄されたのです。

今でもロンドン塔に観光に行くと、その門を見る事ができます。

イギリスへ行く機会があれば、ぜひ行ってみてください。

エリザベスの母アン・ブーリンの幽霊が出るという噂があります。

エリザベス暗殺未遂事件

メアリー女王の死後に即位したエリザベスは、カトリックではなく、プロテスタントを国の精神的支柱とすることを宣言します。

それは、国内外での激しい宗教対立の始まりでもありました。

実際にエリザベスは20回以上も暗殺未遂事件に遭っています。作中に登場したわかりにくい2つの事件について解説しましょう。

リドルフィ陰謀事件

映画で、エリザベスの重臣ウォルシンガムが反逆者を次々と逮捕・処刑する事件が起きました。

史実ではリドルフィ陰謀事件といいます。

1571年にイングランドで起こった女王エリザベス殺害を目論んだ陰謀事件です。

カトリック教国スペインの軍がイングランドを占領し、カトリック教徒の反乱を起こそうという計画でした。

映画にもあった通り、カトリックの総本山・ヴァチカンのローマ教皇、スペイン国王、カトリック教徒のノーフォーク公が関わる大掛かりな陰謀です。

しかし、密使が逮捕された事から陰謀は露見し、多くの逮捕者・処刑者が出ました。

怖い事件だったのですね。
血なまぐさいこの事件を経験した事で、反対派と戦っていかなければならないと悟るのです。

毒のドレス

映画の中で、エリザベスの女官の一人が毒を塗られたドレスを着て殺されるシーンがありますが、本当にこんな殺人の手口があったの?と思われたのではないでしょうか。

エリザベス1世が生きた時代に、フランスに君臨していた王妃カトリーヌ・メディチがメディチ家伝来の毒を手袋に仕込んで政敵を殺害したといわれています。

毒を塗られたドレスで殺害する手口は十分あり得たという事でしょう。

毒薬は当時、証拠を残しにくい殺人の手口としてよく使われました。

映画の中でエリザベスがこの毒殺事件を知って驚き「フランスの絹!!」と口走るのは、何を意味しているのでしょうか。

毒入りドレスの布地はフランス製でした。

フランスもカトリック教徒とプロテスタント教徒の間で激しい争いがあった国です。

殺された女官が着たのは、元々エリザベスに贈られたドレスでした。

つまり、毒薬入りのドレスは、フランスのカトリック勢力からエリザベスを暗殺するために贈られたものと推察できます。

ドレスに仕込まれた毒によってエリザベスが暗殺されかけたという記録はないのですが、映画ではこの事件も、多くのエリザベス暗殺未遂事件の一つだったという事になっています。

エリザベスと恋人ロバート・ダドリー

映画の中で、エリザベスとロバート・ダドリーが愛憎入り混じる複雑な関係を展開しています。

なぜこの二人は結婚しなかったのでしょうか。

ロバート・ダドリー

史実ではエリザベスとロバート・ダドリーは幼馴染でした。

ダドリーは1559年には枢密顧問官に任じられ、ガーター勲章も与えられ、宮廷内に住居を与えられて常に女王の側近くに仕えます。

エリザベスはダドリーを伴って毎日のように乗馬に興じ、二人はやがて恋人関係となりました。

1560年、ダドリーの妻エイミーが階段の下で首の骨を折って死んでいるのが発見されます。

この件は事故死とされましたが、女王がダドリーとの結婚のために邪魔なダドリーの妻を殺害させたのではないかと噂されました。

二人が結婚するとその噂を肯定する事になるので、とうとう結婚はしませんでした。

しかし、ダドリーは以後も何人もの女性と浮名を流し、1578年春に別の女性と再婚しています。

エリザベスとダドリーはいつも想い合いながら、ヤキモチをやき合う微妙な関係でした。

愛のダンス

映画で、エリザベスが夢中になったダンスが「ラ・ヴォルタ(la volta)」と呼ばれる踊りです。

女性を高く持ち上げたりする激しい動きが特徴の典型的なルネサンス期のダンスでした。

映画の中では、エリザベスはロバート・ダドリーとこの踊りを二回踊っています。

一度目は、ダドリーとの愛の絶頂期に、二度目はダドリーが既婚者である事がわかった後に踊られました。

二度目のダンスではエリザベスが踊りながらダドリーに「奥さんを愛してる?」と嫌味を言っていましたね。

映画ではこのダンスにエリザベスの愛の変遷が示されていて興味深い設定となっています。

だから、二度目の「ラ・ヴォルタ」のダンスではエリザベスはダドリーに嫌味を言っていたのですね。
愛は人を鬼にもするのですね。

ラストシーンの奇抜なドレスの謎

ラストシーンで、エリザベスは、顔を白塗りにしカツラをかぶり、大きく広がっている白いレースの襟(えり)が付いた宝石だらけのドレスを着ていましたね。

世界史の教科書にもそんなエリザベスの肖像画が載っています。

なぜエリザベスはそんな奇抜な恰好をしたのでしょうか。そして、ラストシーンのセリフ「私はイングランドと結婚する」とはどういう意味なのでしょうか。

ここで、エリザベスが女王になるまでの経緯を史実から見ておきましょう。

父王と政争に翻弄された少女時代

エリザベスの父・イングランド国王ヘンリー8世は、なかなか男子の子どもに恵まれなかったので、6人の女性と次々に結婚しました。

1533年、エリザベスは2番目の王妃・アン・ブーリンの娘として生まれましたが、王妃である母が父王の命令で斬首刑に処せられ亡くなります。

1547年、父王ヘンリー8世が死去すると、3番目の王妃の息子・エドワード6世が9歳で国王に即位、その6年後病死します。

そして、王家の血筋である公爵令嬢ジェーン・グレイが女王として即位し、9日間で退位させられ、処刑されます。

ジェーン・グレイを処刑した最初の王妃の娘・メアリーがクーデターを起こして女王となります。

5年後、1558年にメアリー女王が病死し、ようやく、王位継承権3位のエリザベスが女王になりました。

殺されないために

父に母を殺され、異母姉に投獄されたエリザベス。

エリザベスが女王になるまでに何人の人間が命を落としたでしょうか。

暗殺事件も後を絶ちません。

エリザベスは考えました。やっと得た王位です。うかうかしていると、王位を奪われます。

それどころか、殺されかねません。

国家と結婚したエリザベス

一方、海外では、植民地を求めて制海権を我が物にしようとスペイン、オランダ、フランスなどの列強国が虎視眈々とイングランドを併合しようと狙っていました。

政治上・宗教上の対抗勢力に倒されないために、またイングランドが外国から軽く見られないためには、カリスマ性が必要です。

恋人ロバート・ダドリーに裏切られ、自分の恋も叶わない。列強国の王族と結婚しても、国を乗っ取られるだけ…。

「ならば、個人としての幸せは求めない」と決意したのでしょう。

映画の中でエリザベスはマリア像の前で女性の象徴である長い髪を切ります。

いわゆる「女を捨てた」という事でしょう。エリザベスが言った「私はイングランド国家と結婚します」はそういう意味があると思われます。

エリザベスは、他の人がしない装い、白塗りの顔、宝石だらけの奇抜なドレスで、自分が人間を超えた存在であるという事を、世界の人々に知らしめたのです。

聖母マリアのような聖なる女性と崇められる効果を狙ったのでしょう。

エリザベスが厳かに歩くにつれ、重臣たちが次々にお辞儀をしていく印象的なシーンで映画は終わります。

エリザベスは絶対的な女王として国の内外に自分を誇示したのです。

まとめ

エリザベスは、自分が権力があり、強い意志を持ち、血統的にも由緒正しい王である事を人々に印象付けるために自分を神格化しました。

足をすくわれて政敵に殺されるのを、また、外国からイングランドが侵略されるのを防ぐためです。

まさに命がけの生涯でした。

劇中のエリザベスの「イングランドと結婚する」という壮絶な決意に、観ているあなたの魂が揺さぶられるでしょう。

16世紀ヨーロッパの世界に思いっきり浸れる本作をどうぞご覧ください!!

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