インターステラー(ネタバレ・考察)

「インターステラー」は、作家性と興行収入を両立させる大作を作ることで評価の高いクリストファー・ノーラン監督のSF映画で、2014年に公開されました。

2017年にノーベル物理学賞を受賞するキップ・ソーンという宇宙物理学者の協力の下、実際に研究されている理論物理の知識をふんだんに投入されて作られています。

あまりに学術的な要素は劇中で触れる程度の解説しかないので、初見の方は「よく分からないけどすごかった」という感想を持ったのではないでしょうか。

この記事では難解映画とされている「インターステラー」の難しい部分を分かりやすくお伝えしていきます。

読んでから観ればより深く楽しめる本作の知識やトリビアもふんだんに織り込んでお届けしますので、ぜひ堪能してください。

インターステラー(2014年)

地球に異常気象が発生し、毎日のように巨大な砂嵐が発生する天候と、原因不明の枯死で小麦やジャガイモが育たなくなった近未来、地球は慢性的な飢餓に襲われていた。

元宇宙飛行士のクーパーは、トウモロコシ畑を育てる農夫として家族と暮らしていたが、娘であるマーフィーの部屋で、本が規則的に棚から落ちる現象を目撃する。

幽霊などの仕業ではなく、重力波を使った2進数の情報発信であると気づいたクーパーは、情報が示している座標に向かって車を走らせる。

そこはアメリカ航空宇宙局(NASA)の基地であった。莫大な資金がかかる宇宙開発を一般人に知られると糾弾されるため、極秘裏に開発が続けられていた。

元同僚のブランド教授と対面したクーパーは、彼から近いうちに地球が壊滅し、人類は地球を離れないと全滅するため、移住可能な星を見つける「ラザロ計画」に参加するよう懇願される。

土星の横に48年前に発生したワームホールを通過し、別の銀河に移動した以前の探査団がすでに居住可能と思われる3つの星から信号を送っていると聞いたクーパーは、宇宙に行くことを決意した。

娘マーフィーの了解を得られずケンカ別れしたまま宇宙に旅立ったクーパーは、船員たちとワームホールを通って別の銀河へ移動する。

そこは超巨大質量ブラックホール「ガルガンチュア」を周回する惑星郡が存在する、未知の空間だった…。

インターステラー(ネタバレ・考察)

「インターステラー」は一見冷徹なSFに見えますが、クリストファー・ノーランを始めとした制作陣の情熱がほとばしるエモーショナルな作品なのです。

この情熱を知るために押さえておきたいトリビアを中心に、本作にまつわる知識を増やしていきましょう。

監督が他の映画から引用している設定要素

土星の近くにワームホールがあるのは、ノーランが敬愛するスタンリー・キューブリック監督のSF「2001年宇宙の旅」(1968年)のオマージュです。

本来、「2001年宇宙の旅」ではワームホールは土星のそばに出現する予定でしたが、当時のVFX技術では土星の輪を表現できず、仕方なく木星に代えたという経緯があります。

「2001年宇宙の旅」のリマスターを担当したノーランの映画愛あふれる描写で、キューブリックに恩返しをしたのでしょう。

ちなみにノーランが制作原案を務めた「マン・オブ・スティール」(2013年)でもスーパーマンがクリプトン星から太陽系に送られるとき、土星のワームホールを使います。

「マン・オブ・スティール」と「インターステラー」で描かれているワームホールの位置が完全に一緒なのも、両方の映画を観たファンなら嬉しいイースターエッグですね。

俳優陣はSF映画に縁がある人ばかり?

クーパーを演じたマシュー・マコノヒーはワームホールを扱ったSF映画「コンタクト」(1997年)に出演しています。

「コンタクト」の原作を執筆したカール・セーガンはワームホールの謎についてキップ・ソーンに問い合わせ、その仕組を学んだことにより小説は完成しました。

謎の因果に引き寄せられ、キップ・ソーンが理論を組み立てたSF映画に、またマシュー・マコノヒーが出演するというサプライズが発生しているのが本作なのです。

またマン博士を演じたマット・デイモンは、この映画の後に「オデッセイ」(2015年)において宇宙で一人取り残される役を演じることになります。

大人になったマーフィーを演じたジェシカ・チャステインも「オデッセイ」に出演しており、SF映画は幅広いようで実は見えない糸で繋がっているように思えるのです。

登場するロボットたちは人間が操作している

板状の外見で、一見モノリスのようですが各部位が変形し、主人公たちをサポートするメカであるTARSやCASEは愛嬌のある動きをします。

このTARSたちはCGではなく、人形使いであるビル・アーウィンが操作しているのです。

多彩な動きを見せますが、撮影現場では実際にアーウィンがTARSを操作し、アーウィンの姿だけCGで消しています。

海洋惑星でアメリア博士を救出するシーンでは回転するTARSの模型を積んだ車両を走らせ、その後アメリアを抱えたスタントマンと代役を抱えたTARSを撮影し、合成しているのです。

ロボットのくせにやたらと人間臭い動きなのは、あのサイズのメカを人間が操作していることから生まれたのでしょう。

なお人工知能を搭載しているTARSたちの正直度が90%なのは、正直度を100%に設定し暴走した「2001年宇宙の旅」のHAL9000のようなミスを犯さないという洒落でもあります。

理論をプログラムしてワームホールとブラックホールを生み出す

キップ・ソーンは科学描写に関して出来うる限る正確に表現したいと望み、クリストファー・ノーランもそれに応えるべく全力を尽くしました。

その中でも最も労力がかかったのが、作中に登場するワームホールとブラックホールをいかに正確に表現するかというものです。

特にブラックホールに関しては理論方程式を実際に計算させるべく4万行もの数式コードを入力し、正確に表現されたブラックホールの映像化に多くの時間を費やしました。

IMAXの超高画質のフィルムに描き込むべく、32,000コアの強力なパソコンで計算するのです。一般家庭で使われるパソコンが4コアで快適と考えると、凄さが分かります。

結果的に1600フレーム(約27秒)を1時間で描く作業を100時間かけて出力し、ブラックホールの画像プログラム全体で800テラバイトもの巨大なデータになりました。

これまでの映画では描かれなかった、科学的に正確なワームホールとブラックホールが完成し、この映像によって天体物理学とコンピューターグラフィックスの論文がそれぞれ執筆されたのです。

2020年のノーベル物理学賞を受賞することになったブラックホールの写真が、映画のブラックホールと酷似してたとか!
いかに科学的考証が正しかったかの実証とともに、映画に関わるクリエイターの情熱が伺えるエピソードだね。

パラマウントとワーナー・ブラザーズが協力して配給

アメリカ5大メジャー配給会社として普段はライバル関係にあるパラマウント・ピクチャーズとワーナー・ブラザースですが、「インターステラー」では協力して配給しています。

アメリカ国内はパラマウント、世界公開はワーナーという分担になっていますが、この不思議な構図はとある事情から生まれました。

映画の始まりは「コンタクト」(1997年)で仕事をしたキップ・ソーンと映画プロデューサーのリンダ・オブストが宇宙体験を描いた作品を作りたいと考えたところから始まります。

このプロジェクトに最初に興味を示したのがスティーヴン・スピルバーグで、その頃はスピルバーグのスタジオであるドリームワークスもパラマウント配下でした。

脚本制作にジョナサン・ノーラン(クリストファー・ノーランの弟)が参加し、ジョナサンは大学に通うなどして脚本の科学的要素を掘り下げつつ執筆を進めます。

ですがスピルバーグは2009年にドリームワークスをパラマウントからディズニー配下に移したため、パラマウントは新しい監督を探す必要がありました。

このときジョナサンが推薦したのがクリストファー・ノーランで、「ダークナイト・ライジング」以来の兄弟タッグ結成となったのです。

しかしクリストファーの制作会社であるシンコピー社との契約があるワーナー・ブラザーズは、契約保持のためプロジェクトへ出資したいと申し出ました。

パラマウントは国際的配給権をワーナーに任せるかわりに、「13日の金曜日」と「サウスパーク」の今後作られる映画に共同出資する権利を要求し、契約は成立したのです。

「インターステラー」という作品1つに、様々な映画が関わっていることがよく分かるエピソードでした。

クリストファー・ノーランがいかにヒットメーカーとして信頼されてるか分かりますね。

クリストファー・ノーランのこだわり

映画に対してのこだわりが並外れている監督として知られるクリストファー・ノーランは、ハードSFを題材した本作でも自身のやり方を貫き、結果的に絶賛されました。

魅力的な宇宙体験を提供するためにクリストファーが「インターステラー」で描いた世界の作り方について学んでいきましょう。

絶対フィルムじゃなきゃヤダ!

映画界でもデジタル機材が勢力を伸ばすなか、フィルム撮影にこだわるクリストファー・ノーランは2種類のフィルムを使って「インターステラー」を撮影しました。

通常の35mmフィルムの8倍の解像度を持つIMAXフィルムを特に気に入っており、本作では全体の30%を占める60分の映像をIMAXフィルムに収めています。

営業不振に喘いでいたフィルムメーカーのコダック社に、フィルム好きの監督たちと協力して一定量のフィルムを購入する契約を結ぶなど、その愛情は計り知れません。

今作でカメラマンを務めたホイテ・ヴァン・ホイテマはセットの内部でもIMAXで撮影できるようにカメラを改造し、巨大なフィルムをぶら下げて動き回るという超人的な体力で監督の要望に応えています。

時にはジェット機の先頭にIMAXカメラをくくりつけて撮影するなど、あらゆる場面でフィルムカメラが使われており、その映像美は眼を見張るものがあるのです。

撮影のためにトウモロコシ畑を育てる!

クーパーと長男のトムが育てており、無人偵察機を追いかけて突っ切ったり大人になったマーフィーが火をつけて燃やしたトウモロコシ畑は、撮影のために実際に栽培されました。

その広さはなんと200万平方メートル!東京ドームの広さに換算すると43個分というとてつもないスケールです。

もともとクリストファー・ノーランはCGを極力使わず、実際にできることは作り上げてしまう監督ですが、規模が大きすぎて思わず笑ってしまいます。

ちなみに映画が完成した後にこの畑のトウモロコシたちは無事出荷され、利益を上げたそうです。

砂嵐を実際に発生させる!

クーパーのいる未来の地球は世界的に雨が降らず、定期的に砂嵐が吹き荒れる厳しい環境を描いています。

この気象状況はまったくのフィクションではなく、アメリカ中西部で1931年から1939年にかけ発生した「ダストボウル」と呼ばれる現象を元にしているのです。

もともと草原だった大平原地帯を、入植者たちが作物を植えるために耕したことで地表が露出し、乾燥したところに強い風が吹き土埃の雲となりました。

この土埃が大西洋に届くほどの雲となって他の都市部を覆い、数々の都市で2m先も見えないほどの砂嵐をもたらしたのです。

クーパーの自宅テレビで流れている砂嵐に関してのインタビューは、実際にダストボウルに遭遇した人たちのインタビュー映像を使用しています。

また劇中でクーパーやマーフィーが砂嵐に襲われてるシーンは、巨大な扇風機でセルロース製のチリを吹き飛ばして、実際に砂嵐を起こしているのです。

欲しい映像はどんな手を使ってでも撮影するスタイルは、じつにクリストファー・ノーランらしいといえるでしょう。

宇宙船は実際に作る!

グリーンスクリーンを使った透過合成やCG合成を良しとせず、必要なところでしか使わないクリストファー・ノーランの作家性は本作でも発揮されています。

劇中に登場する宇宙船レインジャーやランダー、エンデュランスは本物にこだわる監督の要望で3Dプリントと彫刻を組み合わせてスケールモデルが作られました。

ミニチュアと呼ぶにはあまりに大きすぎるため「マックスチュア」と呼ばれるほどで、惑星間旅行に使われたエンデュランスの1/15モデルは7.6メートル以上になります。

レインジャーとランダーはそれぞれ14メートルと15メートルになり、自由に傾けられるように6軸の回転台に据え付けて、背景に映像を投影して撮影しているのです。

このモデルを作ることによって宇宙船の外観をIMAXカメラで撮影し、NASAが制作しているドキュメンタリーのように写すことができました。

脚本ができてないのにハンス・ジマーに曲を書かせる!

クリストファー・ノーランと2000年代以降ずっとタッグを組んできた著名な作曲家であるハンス・ジマーが「インターステラー」でも音楽を担当しています。

今回、監督は「インターステラー」の脚本が完成する前に短い1シーンだけを伝え、それを元に作曲して欲しいという無茶振りをするのです。

ハンス・ジマーが1曲仕上げ、聞かせると監督は大変満足し、「僕はこの映画を作ったほうがいいね」と答えました。

この小さなやり取りで、長年タッグを組んできた二人は世界観を共有できていたのです。

本作のサントラは、ジマーいわく「観客を別の世界に連れていくために特別な場所が必要」ということで、歴史あるイギリスのテンプル教会にあるオルガンで録音されました。

曲の多くは1分間に鳴る拍数が60で作られているそうですね!
いわゆるBPM(Beats Per Minute)ですね。これは映画のテーマである「時間」を表すため、1分間となる60秒を意識して作曲されています。

4次元世界を実際に作る!

クーパーがブラックホールの内部に落下したときに入り込んだ四次元立方体の内部では、過去と現在と未来が同列に並んでいる不思議なビジュアルをしています。

この空間はマーフィーの本棚の裏側につながっていますが、時間軸がどこまでも続いているため同じ空間が連続しているという、非常に抽象的な描写がされているのです。

本作の美術設計を担当しているネイサン・クロウリーと、3DCGを担当したダブル・ネガティブ社のスタッフが協力してデザインし描写したこのシーンは、実はCGではありません。

アメリカの撮影スタジオに20~30メートルもある巨大なセットを組み上げ、クーパーを演じるマシュー・マコノヒーをワイヤーで吊ってクレーン撮影しているのです。

理論的には存在を説明できるとはいえ四次元を立体化するだけでもすごいのに、それをセットにして組み上げてしまうクリストファー・ノーランの情熱は凄まじいものがあります。

この四次元空間は後の映像監督たちに影響を与えており、時間の連続性を表現する手法の一つとして確立されました。

「インターステラー」の疑問点についての言及

製作総指揮である物理学者キップ・ソーンの理論に基づいて、可能な限り科学的に正しい設定と、その延長線上にある想像力で作られたSF映画「インターステラー」。

クリストファー・ノーランが観客(特に子供)に宇宙を目指すような気持ちを抱いてほしいと作られた本作は、科学考証だけでなく人間の愛情をも組み込んで物語を進めます。

映画内の宇宙映像は観客に興奮を与えてくれますが、同時に疑問や考察の余地を意図的に残したように思えるのです。

「インターステラー」のなかで説明が不足であったと思われる要素を取り上げて考察していきますので、1つずつ疑問を解消していきましょう。

問題1:ワームホールって一体なに?

劇中に登場するシーンとして、土星の近くにワームホールが突如発生し、調査の結果ほかの銀河へと繋がっていることが分かる場面があります。

SFなどによく登場するワームホールという単語が、ある程度理解されている前提で映画は進んでしまうので、謎に思った方も多いでしょう。

ここではワームホールという物の成り立ちと、なぜ作中に登場したかの理由について解説と考察をしていきます。

知っておいたほうが良いワームホールの基礎

ワームホールとは離れた位置の場所がつながっている、双方向に通過可能な空間現象です。原案に協力したキップ・ソーンが過去に存在の可能性を示唆し、市民権を得ました。

リンゴに例えると外周に沿って反対側にいくよりも、虫食い穴で反対側に達したほうが距離が短いという概念から、ワームホール(虫の穴)という名前が付きました。

ワームホールの入り口と出口は遠く離れていますが、通過するときに距離を無視して到達できるため、本来移動にかかる時間を大幅に短縮できます。

極端な話でいうと、ワープと呼ばれる空間移動と同じ結果を得られることになります。

なぜワームホールが登場するのか

地球が存在する太陽系では、比較的距離は近いですが人類の生存に適した環境の惑星がありません。

「インターステラー」の世界では数十年規模で気候変動が発生しており、深刻な食糧不足に陥っていると同時に植物の減少で待機中の酸素も現象しつつあります。

このままでは地球は生存不可能な環境になり、全人類が餓死もしくは窒息死するという状況なのです。

タイムリミットが近い人類が生存する可能性として登場したのが、移住可能な惑星群が存在する別の銀河へつながるワームホールになります。

これを使う以外に人類が生き延びる方法は無いと判断したNASAは調査を開始するのです。

制作陣がストーリー上で移住可能な惑星を探すという計画を実現させるために、ワームホールが登場する展開を持ち込んだと考えるのが適切でしょう。

ワームホールが持つ2つのメッセージ

ワームホールは理論的には2つの離れたブラックホールに特定のエネルギーを与えれば作り出せますが、クーパーが暮らす未来でも実際に観測されたのは初めてでしょう。

出現を確認したNASAは調査し、他の銀河に繋がっていることを確認してから、12人の宇宙飛行士を惑星調査に向かわせます。

このときNASAが確信していたことは2つです。1つはワームホールを発生させる技術を持つ正体不明の「彼ら」と呼ばれる存在がいること。

もう1つは人類救済のためにワームホールを繋いでくれた「彼ら」の正体は、おそらく遠い未来で進化した人類であろうということです。

逆説的にワームホールを作り出せる人類が存在しているということは、地球滅亡の危機を乗り越えて人類が進化する未来が待っていることになります。

ワームホールを表現することによって、何らかの方法で人類は生き延びるという伏線と、宇宙への希望を持とうというメッセージを伝えているのです。

問題2:超大質量ブラックホールってなに?

一般的なブラックホールといえば、光さえ飲み込んでしまう超重力が働いている天体と思い浮かぶ人が多いでしょう。

そのイメージ自体は間違いないのですが、実際のブラックホールは動きの有無やサイズなどで種類と呼び名が違うなどいろいろややこしいのです。

映画の謎が理解できる程度で、「インターステラー」に登場する超大質量ブラックホール”ガルガンチュア”について、解説していきます。

ブラックホールの質量はまさに天文学的

ブラックホールはどれだけの質量を持っているかで性質が変化します。その質量の目安として、太陽の何個分かが表示されるのが一般的です。

ガルガンチュアの質量は太陽の数十億倍で、あまりに巨大なのでガルガンチュアの周囲を公転する惑星があるように表現されています。

ミラー博士の星はガルガンチュアに一番近い公転軌道を周っており、重力の影響で時間の経過が遅くなるためエンデュランスとの時間差が発生するのです。

またミラー博士の星で山脈クラスの波が来るのは、ガルガンチュアの引く力と星の重力が引き合うことによって発生する潮汐力が原因になります。

映画のクライマックスでクーパーがガルガンチュアの重力に引かれて落ちていきますが、クーパーは重力に潰されず生きているのにも理由があるのです。

これはガルガンチュアが巨大なので、質量が圧縮されて元の形を保てなくなる地点まで距離があるため、中にいてもしばらく影響が少ないことを表現しています。

ガルガンチュアのリアリズム

エンデュランス号は事故により自力で飛ぶには推力が足りないため、エドマンズの星に向かうためにブラックホールの引力を利用したスイングバイを決行します。

これは角運動量(回転する能力)と引力を持っている天体でなければできないため、ガルガンチュアは回転型のブラックホールとして設定されているのです。

複数種類があるブラックホールの中で、天文学的に存在し、なおかつ乗組員たちの行動にロジカルな意味を持たせる選択としてガルガンチュアの描き方に感心してしまいます。

さらにスイングバイに加えて、クーパーとTARSを乗せたポッドを射出して推力を得るシーンがありますが、これは重量の軽減化が目的ではありません。

ブラックホールに質量を投入することで物体に比例した運動エネルギーを与える「ペンローズ過程」という効果をエンデュランスに及ぼすため、クーパーが自身を投入するのです。

前述したとおり重力に潰されるまでに長い時間がかかるので、クーパーはTARSにブラックホール内部のデータを収集させる目的を兼ねて落下したのでしょう。

今まで未知の空間だったブラックホールの内部データを採取し、何らかの方法で伝えられないかと考えているあたり、最後まで諦めるつもりはなかったように感じます。

ガルガンチュアの由来

ガルガンチュアはフランス文学の作家であるフランソワ・ラブレーの書物に登場する架空の巨人で、町をひとまたぎするような巨体で知られています。

その巨大さゆえに古典SF作家であるロバート・ラル・フォワードの小説「ロシュワールド」では巨大ガス惑星の名前として採用されているのです。

「インターステラー」でブラックホールの名前として付けられたのは、「ロシュワールド」というSFの先駆者に対してのリスペクトではないでしょうか。

問題3:テセラクト(四次元立方体)と五次元人とは?

ブラックホール内部での出来事は、理論的な仮説に基づいてはいますが、キップ・ソーンとノーラン兄弟の想像力が描いた未知の世界が広がります。

クーパーが時空を超えて娘マーフィーにメッセージを伝えた四次元立方体の構造と、四次元立方体を作った存在である「五次元人」について考察していきましょう。

三次元と四次元の違い

データを存分に取ったTARSとクーパーは、ブラックホール内部に現れた四次元立方体「テセラクト」に受け止められます。

クーパーが入り込んだ四次元立方体は、高さ/長さ/奥行きの三次元に加えて時間の前後を行き来できる四次元空間でした。

この空間は過去から未来までのマーフィーの部屋とつながっていますが、この中から干渉できるのはクーパーが発信する重力波に限られてしまいます。

幼少期のマーフィーが遭遇した重力波による信号は、ブラックホール内部にいたクーパーによるものだったのです。

ただ過去にメッセージを伝えても意味がないと理解したクーパーは、TARSが蓄積したブラックホールの観測記録を大人になったマーフィーにモールス信号で送ります。

重力の方程式を解くために必要だった情報を得たマーフィーは理論を完成させ、人類はラザロ計画によって地球を脱出することに成功するのです。

五次元とはどういう世界なのか

地球上にあるものは基本的に三次元で構成されており、三次元の存在である人間が二次元(絵や平面)や一次元(線)を作れるように、四次元を作れる存在がいるのです。

それがNASAのメンバーに「彼ら」と呼ばれている五次元人になります。

ワームホールと同じく、このテセラクトを用意したのも、「彼ら」と呼ばれる五次元人です。

仮説として五次元は、高さ/長さ/奥行き/時間に加えて「世界の存在」が並列している世界と言われています。

複数の世界がいくつも並んでいるため、我々から見ると「パラレルワールド」が同時に存在していて、五次元人は自在に行き来ができるようです。

なぜ五次元人が描かれているのか

三次元の住人である人類が二次元を俯瞰で観測し、手を加えることができるように、四次元を俯瞰でいじれるのが五次元人になります。

それゆえにテセラクトを作ったり、ワームホールを作ったりと地球人に干渉してくるのですが、直接的に人類を救出することはできないようです。

あくまで現在の宇宙理論を元に宇宙への憧憬を感じさせる映画を作るうえで必要なのは、人類の科学力と愛という未知の力になります。

科学者たちが理論的に存在を仮定している五次元と、そこの住人である五次元人が表現されているのは、人類の未来を理想的に描いているわけではありません。

現在の科学で語られているワームホールの作成にには、「宇宙ひも」と呼ばれる物質が必要なのですが、実証するには高次元の存在がいる前提でないと説明できないからです。

クーパーのいる世界にアプローチしてきたのは、五次元人に進化するために人類が生き残らなければいけないからですか?
そのために同じ世界の未来から来た説が有力ですけど、さらに高次元の存在である可能性もあります。理論的には11次元ぐらいまであるらしいですよ。

なぜクーパーは土星のワームホールに送られたのか

クーパーが特異点の情報を伝え終わったとき、テセラクトが閉じていき、クーパーとTARSはガルガンチュアの中から、土星のワームホール近くに送られます。

そこでクーパーは酸素残量が残り2分の状態で宇宙船に発見され、コロニーに回収されるのですが、なぜ土星のそばに送り出したのかに関しては考察できるのです。

クーパーが土星のそばに戻ってきた時間軸は調査隊の地球出発から89年が経過しており、マーフィーが重力方程式を解析してから64年後のタイミングになります。

土星のワームホール付近に地球人類を乗せたコロニーが建築され、宇宙船の往来も多く、最も発見される可能性が高い位置に「彼ら」はクーパーを送り届けたのでしょう。

結果として観測されたクーパーは救出され、時間の流れが遅く年を取っていないクーパーは、自分よりも年老いているマーフィーと再会を果たします。

これは高重力環境にいたクーパーの時間の流れが遅くなり、相対的に時間が早く進んでいるマーフィーが年老いてしまう「ウラシマ効果」によるものです。

コールドスリープをしてまでも父との再会を果たしたかったマーフィーの想いを、五次元人が汲み取って再会をセッティングしたのかもしれません。

まとめ

「インターステラー」のすごいところは、実際に起こりうる物理理論と、存在が研究されている物理理論の両方を取り入れ、宇宙を魅力的に描いていることです。

「2001年宇宙の旅」が1960年代以降でのSFの金字塔であるように、2010年代以降のSF映画に大きな影響を与え、観るものに宇宙への憧憬を感じさせる作品になっています。

監督が伝えたかった「愛の可能性」や「解明されていないことへの情熱」が、エビデンスと想像をバランス良く組み合わせて表現している名作「インターステラー」。

観るたびに新しい発見がある映画として、何度でも体験してください。もしもIMAXでリバイバル上映されることがあれば、映画館で観ることをおすすめします。

関連記事