「キャビン」は2012年に公開された、多層構造の視点を持つホラー映画です。
ホラー映画にまつわるルールである殺される人間の傾向や、怪物はどこからやってくるのか、そういった謎を明らかにしてくれる内容は初心者でも楽しめます。
加えて宝箱のようにホラーモンスターが詰まったクライマックスシーンを筆頭に、ホラー映画愛好家ならもっともっと楽しめるのです。
つい元ネタを見たくなる、そんな作品群をリストに挙げながら、映画の情報と考察をお伝えしていきます。
キャビン(2012年)
大学の友人である5人は近郊の森にある山小屋で過ごす計画を立てていた。
道中でガソリンスタンドの男から小屋に対して警告をされるものの、忠告を無視して小屋で週末を楽しむ。
その夜、地下室の扉が開いた。オカルトチックなアイテムが散乱していたが、その中に呪われた家族の日記があった。
そこに書かれていた呪文を読み上げると一家が蘇り、5人を殺害するべく押し寄せる。
一方でスーツに身を包んだ者たちが、この惨状をチェックしていた。
彼らは小屋や山に設置されたカメラで若者たちを監視しつつ、環境を調整して行動をコントロールし、怪物の殺害現場をセッティングしていく…。
キャビン(ネタバレ・考察)
出典 : indiewire.com
「キャビン」は見た人にホラー映画への情熱を感じさせる、映画ファンのための映画と言えます。
本作のトリビアをまとめてお伝えしていきましょう!
海外批評サイトでの評価
海外有名批評サイトであるロッテン・トマト(腐ったトマトの意)は、不興を買った舞台演劇の役者に腐った野菜をぶつけるというクリシェから名付けられました。
このサイトでは一定数の批評家レビューと高評価を与えられた作品に「新鮮保証」というオススメマークが付くのですが、キャビンは新鮮保証を得ています。
批評家からの支持率は92%と非常に高く、このデータだけでも映画に興味を持てるのではないでしょうか。
日本でのプレミア上映
日本では町山智浩氏が先んじて本作を評価し、字幕を氏が担当する形で2012年に日本でプレミア上映されました。
この上映での反応に手応えを感じたクロックワークスにより配給が決定し、2013年3月9日に全国上映されたのです。
キャビンは撮影構造を楽しむ作品
キャンピングカー、湖畔の山小屋(キャビン)、呪文と蘇る死者などホラー映画の定番に加えて、若者を監視・誘導する謎の組織が登場します。
若者を見つめる組織を、さらに私たち観客が見つめるという多層構造を楽しむ本作の押さえておきたいポイントを共有していきましょう。
多層構造の見方を掴んでおく
「キャビン」の研究者たちは大学生のバカンスを捏造し、濡れ場や殺人の場面を演出します。
劇中で実際に死んでしまいますが、ショーを演じてもらう上で必要な「俳優」です。
研究者たちは「俳優」である大学生たちに遠隔操作で「演技指導」し、死に追いやっています。
これは映画製作の裏返しで、俳優への演技指導や様々なシーンの演出で「映画を見ている私たち」を喜ばせているのです。
儀式を遂行して”旧支配者”を満足させる流れは、「私たち」を満足させないと評価されないし儲からないというメタファーといえます。
大学生の死を願う研究者の視点、そして両者の振る舞いを上から見つめる私たちという視点の多層構造を理解しておくとより楽しめるのです。
ホラーで死ぬ人の順番には意味があった
ホラー映画で最初に死ぬのはエッチな女の子である「淫乱」が殺されるのが定番です。「キャビン」も例に漏れません。
「淫乱」の死を経てスポーツマンである「戦士」、ガリ勉である「学者」、ラリっている「愚者」が死に、最後にヒロインである「処女」が残るのです。
最後の「処女」は生死を問いませんが、4人の犠牲は必須となります。
「キャビン」ではこのお約束的展開はアメリカ班が”旧支配者”に生贄を捧げる順番として描かれているのです。
つまり、アメリカンホラーで人が死ぬ順番が何となく予想できるのは、儀式によるルール化となります。
「13日の金曜日」と「死霊のはらわた」を合わせた舞台設定
湖の横にある山小屋ということで、真っ先に思い浮かぶのは「13日の金曜日」(1980年)に出てくるクリスタル・レイクでしょう。
思わせぶりに湖に入ってもなにも起こらないことも、オマージュとして生きています。
山小屋にラテン語の呪文、復活する死者というのは伝説のカルトムービー「死霊のはらわた」(1985年)の設定そのままです。
研究所と映画の関連性
モンスターが収納されているシステムは「キューブ」(1998年)を意識しています。
そしてモンスターを開放するシステムパージはいわゆるデウス・エクス・マキナで、都合のいい展開を引き起こすのです。
また最後にシガニー・ウィーバーがカメオ出演するのは、同じくカメオ出演した「宇宙人ポール」(2011年)とSFホラー「エイリアン」(1979年)シリーズへの目配せになります。
世界各国の儀式とルール
「キャビン」では儀式が年1回世界中で開催され、どこか1つの国が成功すれば”旧支配者”は満足して眠りにつきます。
全てが失敗すると”旧支配者”は復活し、人類を滅ぼしてしまう設定になっているのです。
犠牲者は基本的に若いものが尊ばれますが、国のルールによって年齢層が変わります。
「キャビン」で表示されたのはスウェーデン、アルゼンチン、スペイン、日本、アメリカの5カ国。
ミャンマーとドイツは一瞬だけ写りますが、詳細は不明でした。
各地が表現していた儀式と、そのオマージュについて見ていきましょう。
スウェーデンの儀式
スウェーデンの様子を示すシーンでは、映画「ダンテズ・ピーク」の画面が映されています。
このことからわかるように、自然災害映画へのオマージュになっているのです。
アルゼンチンの儀式
アルゼンチンでは角の生えた巨大猿が暴れて犠牲者を葬るはずでしたが、画面に写っていたのは倒されてしまった巨大猿の姿でした。
これはもちろん「キングコング」など怪獣映画へのオマージュになります。
スペインの儀式
スペインでは燃えている城が映し出され、ゴシックホラー系の儀式が失敗したことを現しています。
フランケンシュタインや吸血鬼などのオーソドックスなモンスターへのオマージュになるのです。
日本の儀式
日本の儀式は特徴的で、小学生から中学生ぐらいの女子を生贄に捧げる必要があるようです。
生贄を襲う幽霊のモチーフとなっているのはジャパニーズホラーの名作「リング」へのオマージュを感じます。
結果的に幽霊は子どもたちにカエルへと封印されてしまい、失敗するのです。
アメリカの儀式
アメリカの儀式は若者を死に追いやるのですが、厳格なルールがあり、それに落とし込むために研究員たちが誘導していきます。
まず若者に死への警告をしなければならず、その上で警告を無視して山小屋へと行かせる必要があるのです。
加えて若者はモンスターを呼び出すアイテムを使い、殺害に使われるモンスターを自ら選ばなければいけません。
ここでどのモンスターが出現するかは完全にランダムとなっており、研究員たちの賭けの対象になっています。
アメリカンホラーで定番となっているアイテムの発見、儀式、モンスターの登場といった流れは仕組まれたことだと「キャビン」は定義しているのです。
ホワイトボードのモンスター一覧
過去作のオマージュ満載のモンスターたちを、ホワイトボードの順番で引用を含めて一覧にまとめたので御覧ください。
狼男: ハウリング(1981年) |
かかし: スケアクロウ(1998年) |
エイリアンビースト: エイリアン(1979年) |
雪だるま: ジャックフロスト(1997年) |
ミュータント: ヒルズ・ハブ・アイズ(2006年) |
ドラゴンバット: ブレイドⅡ(2002年) |
レイス/幽霊: 13ゴースト(1960年) |
ヴァンパイア: ノスフェラトゥ(1922年) |
ゾンビたち: ゾンビ(1978年) |
解体ゴブリン: Ghoulies(1985年) |
レプティリウス: 原始獣レプティリカス(1961年) |
シュガープラムの精: くるみ割り人形 |
ピエロ: IT(1990年) |
半魚人: 大アマゾンの半魚人(1954年) |
魔女: パンプキンヘッド(1988年) |
蘇生者: 死霊のしたたり(1985年) |
セクシーな魔女: The Craft (1996年) |
ユニコーン: ブラック・ムーン(1975年) |
悪魔: ヘルボーイ(2004年) |
ヒューロン: ラスト・オブ・モヒカン(1992年) |
ヘルロード: ヘル・レイザー(1987年) |
サスカッチ/ウェンディゴ/イエティ: Curse of Bigfoot(1975年) |
怒れるいたずらツリー: 死霊のはらわた(1981年) |
人形: ストレンジャーズ 戦慄の訪問者(2008年) |
巨大ヘビ: アナコンダ(1997年) |
医者: ジキル博士とハイド氏(1920年) |
デッダイト: 「死霊のはらわた」(1981年) |
バックナー一家: 悪魔のいけにえ(1974年) |
ケヴィン: シン・シティ(2005年) |
ジャック・オー・ランタン: 引用なし |
ミイラ: ミイラ(1932年) |
巨人: Eegah(1962年) |
花嫁: フランケンシュタインの花嫁(1935年) |
双子: シャイニング(1980年) |
研究者が語る古の神とは
研究者は「古の神」に尽くすべく、あらゆる手段を講じて若者たちを操り、殺そうとします。
なぜ研究者たちは必死に世界各地で殺戮を繰り広げているのでしょうか。
神話の神々に捧げている
「キャビン」ではクトゥルフ神話に登場する”旧支配者”と呼ばれる神のような存在が、生贄を求めているように描かれているのです。
”旧支配者”とは古代に宇宙から飛来した生命体で、かつて地球を支配するほどの勢力を持っていましたが、封印されて復活の時を待っています。
復活すると世界が滅ぶので、研究員たちは復活しないように定期的に生贄を捧げる儀式をおこない、鎮めているのです。
一見すると、世界を破滅させないための必要悪のようにも思えます。
”旧支配者”は観客のメタファー
ホラー映画で登場するものが犠牲者となることを望むのは私たち観客です。
ホラーのお約束に従って死ぬものを喜び、モンスターが処刑を失敗すればがっかりし、気に入る展開がなければ駄作と判断し怒ります。
このように神とは「ホラー映画を楽しむ観客自身」を指しているようにも見えるのです。
まとめ
過去作品へのオマージュがふんだんに込められた「キャビン」は、画面の情報が多すぎて一度には理解しきれない場合が多いです。
何度も見返してそのたびに新しい発見がある、そんな作品になっています。
一度通しでみた後、一時停止を駆使しながらモンスターをつぶさにチェックしてみるのも、楽しみの1つです。
ぜひ、心ゆくまでご堪能ください。