踊るギャングたち

「ウエスト・サイド物語」は1961年に公開されたアメリカのミュージカル映画です。

イギリスのウィリアム・シェイクスピア作の戯曲「ロミオとジュリエット」を現代(1950年代)のアメリカに置き換えたブロードウェイ・ミュージカルを映画化しました。

監督は「サウンド・オブ・ミュージック」のロバート・ワイズとダンス振付家のジェローム・ロビンスです。

ナタリー・ウッド、リチャード・ベイマー、ジョージ・チャキリス、リタ・モレノなど、豪華キャストが出演しています。

非行少年グループの抗争の間で、引き裂かれた恋を描いた傑作です。

抗争の背景や曲の紹介など、本作の小話・ネタバレ・考察などをご紹介していきましょう。

ウエスト・サイド物語(1961年)

見どころ
対立するグループ同士の抗争、敵に恋をしてしまう男女の悲恋、移民が絡む社会問題。それらをパワフルなダンスと美しい音楽で表現し切った娯楽性は今でも色あせない。
出典 : video.unext.jp

あらすじ
ニューヨークのウエスト・サイドで対立する2つのグループ、ジェット団とシャーク団。一触即発の中で行われたダンスパーティーで、マリアとトニーは恋に落ちた。だが2人の思いに関係なく、それぞれが属するチームの衝突はより激しいものになっていく。
出典 : video.unext.jp

ウエスト・サイド物語(ネタバレ・考察)

1950年代、ニューヨークのウエスト・サイドでジェット団とシャーク団が縄張りを巡って争っていました。

その中で敵同士の男女が恋に落ちる映画「ウエスト・サイド物語」。

本作の背景についてご紹介しましょう。

元ネタは「ロミオとジュリエット」

「ロミオとジュリエット」は、敵同士の家に生まれたロミオとジュリエットの悲恋物語です。

本作では舞台をルネサンス期のイタリアから1950年代のアメリカに置き換え、家の対立を非行少年グループの対立に置き換えました。

「ロミオとジュリエット」のヒロイン・ジュリエットが本作のマリアに当たり、ロミオがトニーに当たります。

キャピュレット家の乱暴者・ティボルトは、シャーク団のリーダー・ベルナルドに当たり、ジュリエットの婚約者・パリスがチノに当たるのです。

シェイクスピアの古典はやはり普遍的な物語なんですね。
本作ではその物語がニューヨークのウエスト・サイドで繰り広げられます。

ウエスト・サイドとは?

アメリカの東海岸にあるニューヨーク市は5区からなっていて、中心部のマンハッタン島にあるマンハッタン区は商業地区です。

このマンハッタン区を東西に分割したときに、東のロングアイランド側を「イースト・サイド」と呼び、西のハドソン川の方を「ウエスト・サイド」と呼びます。

1950年代、高級住宅地のイースト・サイド地区に対し、ウエスト・サイドは貧民街で、ユダヤ系・ポーランド系・中国系・プエルトリコ系といった移民の多いスラム地域でした。

この映画は、そういった「人種のるつぼ」で展開したストーリーです。

憎しみの連鎖

二つの敵対する不良グループ、リフ率いる「ジェット団」とベルナルドがリーダーの「シャーク団」。

これらは、架空のグループですが、当時、実際にウエスト・サイドで二つの少年グループが抗争していたそうです。

それぞれの陣営はどういう人たちなのでしょうか。

ポーランド系移民

ジェット団は、ポーランド系移民の少年グループという設定になっています。

ポーランドは、18世紀~20世紀にかけて、列強国によって侵略され国が分割されるという憂き目にあいました。

そのため、20世紀初頭までに100万人以上のポーランド人が何世代にも渡ってアメリカに移住したといわれています。

故国から遠いアメリカで「英語を話せない白人」とバカにされながらも生活してきました。

彼らは「プア・ホワイト(貧しい白人)」と呼ばれ、社会の最底辺で力仕事に従事していたのです。

プエルトリコ系移民

シャーク団は、プエリトリコ系移民の少年グループという設定になっています。

1898年のアメリカとスペインの戦争でアメリカが勝ったため、スペイン領だったプエルトリコはアメリカの占領下に置かれました。

そして1917年からアメリカ市民権を得ることができるようになったプエルトリコ人の移民が大挙してアメリカに押し寄せます。

また、1929年、世界中に広がった大恐慌により失業率が上昇し、さらに多くのプエルトリコ人が仕事を求めてアメリカ本土に渡りました。

しかし、彼らはアメリカに渡っても、差別され狭く不潔な場所に住まわされ、就けるのも低賃金の仕事しかなかったのです。

少年たちの悲劇

ポーランド系移民も、プエルトリコ系移民も、長い間アメリカで頭を押さえつけられつらい思いをしてきたのですね。

両者ともアメリカの自由や豊かさを享受できない人たちでした。

そんな最下層の人々は、差別され怒りや不満がストレスとなり、他人を憎むことで自分たちのアイデンティティーを見いだしていくのです。

彼らは、自身の不幸な境遇を見て見ぬ振りをするために「自分より劣る存在」を外部に作り出して攻撃するしかなかったのでしょう。

少年たちは不条理を大人のせいにして、意固地になって不良となり抗争を重ねていました。

殴られたら殴り返すといったことが繰り返され、憎しみが憎しみを生み、分断が深刻化する…当時はそれが社会問題になっていたのです。

本作はそんな1950年代・ニューヨークの状況を反映したものでした。

監督の一人、ジェローム・ロビンスと脚本家のアーサー・ロレンツはユダヤ系だったので、当初はキリスト教カトリックのグループとユダヤ系のグループとの抗争を思い描いていたそうです。

しかし最終的に、ポーランド系とプエリトルコ系の対立構造の映画にしたのですね?
当時、実際にポーランド系移民とプエリトルコ系移民の対立がひどかったからだそうです。

分断は終わらない

その状況は実は21世紀の今も変わってはいません。

人種、民族、宗教、性的指向などに関わる犯罪行為が跡を絶たないのです。

分断がもたらす憎しみの連鎖を生む構造は、日々のニュースを見れば明らかでしょう。

いつの時代、どこの国でも起こりうる悲劇…。

だからこそ本作は時代を超えて観る価値がある映画なのかもしれません。

「ウエスト・サイド物語」の魅力:アカデミー賞10部門受賞の快挙!!

本作は、アカデミー賞ノミネート11部門中10部門を獲得しました。

第34回アカデミー賞受賞「ウエスト・サイド物語」

  • 作品賞
  • 監督賞
  • 助演男優賞 ジョージ・チャキリス
  • 助演女優賞 リタ・モレノ
  • ミュージカル映画音楽賞
  • 録音賞
  • 美術賞
  • 撮影賞
  • 衣裳デザイン賞
  • 編集賞

これほどたくさんの輝かしい賞を受けた本作はどんな映画なのでしょう?

本作の音楽、ダンス、衣装、美術セット、カメラワークについてご紹介しましょう。

バーンスタインの音楽の魅力

特筆すべきはパワフルでダイナミックでありながら、旋律が美しい奇跡の音楽です。

作曲を担当したレナード・バーンスタインは、20世紀の偉大な作曲家・指揮者の一人とされています。

クラシックの要素と、アメリカに根付いたジャズ、ロック、民族音楽、現代音楽など様々な要素を取り入れていて、現代の私たちが聴いても、古さを感じさせません。

バーンスタインは「アメリカらしさとは何か」を追求し、多民族国家における「民族主義」を音楽で表現することに成功しました。

空気を切り裂くパワフルなダンス

ダンスの振り付けは、監督の一人で振付家のジェローム・ロビンスが行ないました。

ロビンスは、ダンサーとして名声を得た後、1949年に名門ニューヨーク・シティ・バレエの芸術助監督に就任し、ダンス史におけるレジェンドとして現代でも称えられています。

撮影中、ロビンスの振り付け指導はとても厳しかったそうです。

ダンサーが怪我をしても複雑な振り付けを続け、リハーサルの時間は超過する…。

その結果、ロビンスは撮影の後半、解雇されることになるのですが、現在でも「ウエスト・サイド物語」のダンスに古臭さが感じられないのは、ロビンスの手腕によるものでしょう。

シャープで躍動感があって、大衆的でありながら、同時にクラシック・バレエの秩序あるステップも取り入れたダンスから目が離せません。

当時すでにこんなキレッキレのダンスが踊られていたとは驚かされます。

ベルナルド演じるジョージ・チャキリスらが片方の脚を横に上げてバランスをとるポーズは、この映画のシンボルになりましたね。

実はこのポーズは、十字架を意味しているというのです。

「十字架を背負う」という言葉には、イエス・キリストがゴルゴダの丘で十字架を背負ったことで苦難の象徴とされることから、「辛い苦しみを一生持ち続けること」という意味があります。

プエルトリコ系移民が「差別」という名の十字架を一生背負って生きなければならない重い現実を、このポーズは象徴しているのでしょう。

カラフルな衣装の魅力

衣装を担当したデザイナーのアイリーン・シャラフは、アカデミー賞衣装デザイン賞を5回も獲得した強者でした。

注目したいのは、ジョージ・チャキリス扮したベルナルドの黒のTシャツとパンツに、赤の襟付きシャツを上から重ねて前のボタンを開けるスタイルです。

このスタイルはオシャレでしたね。当時は新しかったのに違いありません。

劇中俳優たちが着用したTシャツ、ジーンズ、スニーカーはほとんどオリジナルだそうです。

ストレッチジーンズは当時は無かったので、どのパンツも伸縮性のある糸を使いデニム風に作られた特注品で、莫大な費用がかけられました。

今では当たり前ですが、ダメージ・デニムの質感を出すために素材を洗いざらし、また染め直して風に晒すという作成方法で、手間もお金もかかったといいます。

そして、特に素晴らしいのが、ダンスパーティーでの登場人物のカラフルな衣装です。

ジェット団はブルー、グリーン、紺、カーキなどクールで都会的な色で揃え、シャーク団は赤、オレンジ、紫、などビビットカラーで統一されていましたね。

ベルナルドは、黒いジャケットに紫のシャツ、黒い細身のネクタイといった、典型的なラテン系のスタイルでした。

女性たちのドレスのデザインも素敵なものばかりでしたね。
これらのカラフルでオシャレなファッションは映画「ラ・ラ・ランド」(2016年)などで引用されていますよ。

聖なる空間を生み出す美術セット

印象的なのは、トニーがマリアの家のバルコニーに偲んで行き、二人で「トゥナイト(Tonight)」を歌うシーンのセットでしょう。

無機質な裏階段と狭いバルコニーが建て込んでいるビル街のセットは、ニューヨークの裏町のイメージそのものです。

また、トニーがダンスパーティーの帰途、一目惚れしたマリアへの想いを込めて「マリア(Maria)」を歌うシーンの背景も印象的でした。

トニーの後ろ全面に塀の格子模様が広がり、それがまるで教会の窓ガラスのようで、ニューヨークの裏町でありながら神聖な雰囲気を醸し出していました。

さらに歌の終わりには、トニーの後ろから光が差し込んで、あたかも神の啓示のようです。

トニーにしてみれば、マリアとの出逢いは、神の啓示のように感じられたことでしょう。

「マリアという名前を言えばそれは祈りのようだ」という歌詞があるので、それを象徴しているセットでした。

革新的なカメラワーク

本作は、公開当時大胆なカメラワークが話題になりました。

冒頭のニューヨーク上空からマンハッタンの高層ビル群へ、そして徐々に貧しい人々が住むウエスト・サイドをとらえ、バスケットボール・コートにズームしていくシーン。

また、ジェット団のメンバーがフェンスに落書きをする場面での、2回に渡ってズームインするシーン。

速いカメラワークが、ピリピリとした緊迫感のある様子をよく表しています。

そして、シャーク団が「アメリカ(America)」を歌った後は、ベルナルドと恋人アニタのキスシーンを逆光でとらえシルエットで写していて、しっとりとした画面を作っていました。

これらのカメラワークは、当時は先進的だったのではないでしょうか。

最も輝いていた俳優は…

ナタリー・ウッド、リチャード・ベイマーも素敵でしたが、俳優陣の中で最も光を放っていたのはベルナルドを演じたジョージ・チャキリスでした。

立っているだけでもオーラがあり、ダンスのキレも良く、観ている人もついチャキリスに注目してしまうでしょう。

敵陣営・ジェット団のメンバーたちへの激しい憎悪がその表情や一挙手一投足から感じられ、凄い迫力です。

そして妹のマリアには常に優しく微笑みかけ、妹を心から愛している様子がわかり、そのギャップが何ともいえず魅力的です。

また、リタ・モレノもベルナルドの恋人・アニタ役を生き生きと演じていました。

勝ち気でお転婆で威勢がよく、男気を感じさせるアニタを演じて素晴らしかったです。

仲間たちに対してアネゴ肌を発揮し皆を引っ張っていく様子は圧倒的な存在感を放っていました。

主演ではない二人ですが、ぜひ注目してみてください。

二人ともカッコよかったですね。
アカデミー助演男優賞・助演女優賞を受賞しただけのことはあります。

名曲の数々

ここでは、劇中に散りばめられたバーンスタインの素晴らしい音楽について解説します。

17曲のうち特に日本人に親しまれているおすすめの8曲をご紹介しましょう。

「プロローグ(Prologue)」

「プロローグ」は、ジェット団とシャーク団の少年たちの指を鳴らす音とダンスで始まります。

音楽は不協和音を巧みに使い両陣営の不和を暗示していました。

途中でサクソフォンやドラムの音が入ってくるところは、音楽でアメリカを表現したバーンスタインらしさが光っています。

最後に聞こえる警笛の音もまるで音楽の一部のようになっていました。なんてスタイリッシュな曲でしょう!!

ダンスシーンが終わると、ジェット団のリーダー・リフが、いさかいが絶えないシャーク団との決闘を決意するシーンになります。

そしてリフは、今はもうジェット団を辞めて酒屋に勤務している元リーダー、トニーをダンスパーティーに誘うのです。

「体育館でのダンス(The dance at the gym)」

町の体育館でダンスパーティーが行なわれ、ジェット団とシャーク団が二手に分かれてそれぞれ楽しそうに踊っていました。

曲はメキシコ民謡風の楽曲から一転して、活気ある「マンボ」に変わります。

ノリのいい曲なので、ここは演者と一緒に「マンボ!!」と掛け声を入れたくなりますね。

そして、音楽がスローな「チャチャチャ」になると、トニーとシャーク団リーダーの妹・マリアが出逢うのです。

このシーンは素敵なシーンになっていて、たくさんの少年少女が踊っている中、カメラが主演二人にフォーカスを合わせ、背景は次第にぼかされていきます。

彼らは見つめ合い、お互い敵同士とは知らず恋に落ちるのです。

主演二人の出逢いの場にふさわしいロマンティックなメロディーの音楽が続くのでした。

一方、パーティーでリフは、ベルナルドに決闘を申し込むのです。

「トゥナイト(Tonight)」

「トゥナイト」は、トニーとマリアがアパートのバルコニーで愛を語り合うシーンに歌われます。

このシーンは「ロミオとジュリエット」でのバルコニーのシーンに当たるのです。

「トゥナイト」は、数あるミュージカル・ナンバーの中でも最もよく知られている歌の一つでしょう。

流れるような爽やかなメロディが心地よく、繰り返す転調が高揚する二人の気持ちを表しています。

「トゥナイト」はほんとうに素敵な歌ですね。でも歌うとしたら音域が広くて難しそう…。
だからでしょうか。よくコンサートでオペラ歌手の人によって歌われますね。

「アメリカ(America)」

「アメリカ」はプエルトリコ系移民による歌の掛け合いです。

女性たちがアメリカの豊かさを、男性たちがアメリカでの待遇の悪さを歌って踊ります。

アップテンポで、ダンスのフォーメーションも楽しめるでしょう。

「お買い物はカードで買えるわ、アメリカじゃ工業が盛ん、アメリカだと人生が明るくなる」

「狭いアパートに12人が暮らしている、ロクな仕事がない、成功するのは白人だけだ」などと歌われます。

移民の国・アメリカの夢と希望、現実の厳しさがわかる歌です。

「すてきな気持ち(I feel pretty)」

「すてきな気持ち」では、マリアが勤務している花嫁衣装店で、素敵な人に愛される喜びを歌います。

ポップなラテン調のワルツで、同僚の女性たちもマリアに合わせてフラメンコ風の手拍子を入れるのでした。

「I feel pretty,I feel pretty」と同じメロディーが繰り返され、マリアの可愛らしさが満載のシーンです。

店の支配人の女性に「歌は止めて!ダンサーになるんじゃないんでしょ!!」と静止されるほど歌とダンスが盛り上がります。

古き良き時代、ミュージカル全盛期らしい魅力的な歌です。

「一つの手、一つの心(One hand, one heart)」

「一つの手、一つの心」は、花嫁衣装店で、マリアとトニーが結婚式を真似るシーンで歌われます。

ゆったりとしたテンポで二人の満ち足りた気持ちが感じられる歌になります。

「僕らの人生が今、始まるんだ」とマリアとトニーが歌い、彼らが純粋に愛を誓い合っているので、結末を知った上で観ると切なくなるシーンです。

二人の頭上に十字架に見立てた窓があるところは心憎い演出でした。

「トゥナイト・五重唱(Quintet)」

リフとベルナルドがそれぞれ決闘に懸ける意気込みを歌い、それにジェット団とシャーク団の合唱が加わり、さらにベルナルドの恋人・アニタの歌が入ります。

その後マリア、トニーによる「トゥナイト」が重なり、最後は全員の大合唱になるのです。

決闘に向けて気勢を上げる両陣営の少年たちと、恋に落ちたマリアとトニーそれぞれの思惑が浮き彫りになる歌になっています。

歌の掛け合いがこれぞミュージカルの醍醐味といったシーンです。

「クール(Cool)」

リーダーのリフを刺殺され殺気立つジェット団の皆に、メンバーの一人が落ち着けと呼びかける歌です。

「落ち着くんだ、熱くなるんじゃない、熱くなるべき時がこの先あるから」

暗い駐車場でジェット団の熱気を帯びたダンスが見事で、掛け声と手拍子が効果的に響きます。

ジェット団のメンバーたちの狂気に満ちた形相がとても不気味で、誰かに憎しみを抱く人間は、ここまでグロテスクな表情になるのですね。

決闘:縄張り争いが殺し合いに

高速道路の高架下で、ジェット団とシャーク団のメンバーが見守る中、リフとベルナルドの決闘が始まりました。

決闘シーンは迫力のある映像で恐ろしくなるほどです。

遅れてきたトニーが止めに入りますが、争いは終わりません。

もみ合っているうち、ベルナルドがナイフでリフを刺し殺します。

そして、それに怒ったトニーは激情に駆られて我を忘れ、ベルナルドを刺し殺してしまうのです。

警察が駆け付け、皆は逃げていきます。

憎しみによる殺害

決闘の一部始終を知ったマリアは、トニーに駆け落ちしようと持ち掛けます。

一方、恋人ベルナルドを殺され、ジェット団に乱暴されそうになったアニタは、憎しみを募らせ嘘の伝言をするのです。

それは「マリアは婚約者のチノに殺された」というものでした。

アニタの言葉を人づてに聞いたトニーは、マリアが死んだと思い込んでしまいます。

打ちひしがれ自暴自棄となったトニーは、自分も殺してくれと叫びながらチノを探して町をさまようのです。

トニーのもとへマリアがやって来て二人は抱き合いますが、チノが現れトニーを銃で撃ちました。

まさに憎しみの連鎖です。

トニーは、マリアの腕の中で亡くなります。

ジェット団とシャーク団の少年たちが見守る中、マリアが叫ぶのです。「みんながトニーを殺したのよ!私の兄もリフも。銃弾ではなく、憎しみで!!」

トニーやベルナルドやリフたちは、単に凶器によって殺されたのにとどまらず、両陣営一人一人の憎しみによって殺されたのだとマリアは言うのです。

そのようにマリアに言わせることで、本作の監督はじめスタッフたちは、メッセージを視聴者に伝えたかったのではないでしょうか。憎しみからは何も生まれないと…。

両陣営のメンバーたちは、トニーの亡き骸を共に担ぎ、和解を予感させる形で映画は終了します。

なぜ、マリアは自殺しなかったのか?

「ロミオとジュリエット」では、仮死状態から目覚めたジュリエットはロミオの後を追って自殺しましたが、本作では、最後にマリアは自殺しませんでした。

どうしてマリアは自殺しなかったのでしょうか。

名家の箱入り娘として育てられたジュリエットは、ロミオが死んだとき、どうしていいかわからず自分の人生を諦めてしまったのでしょう。

しかし「ウエスト・サイド物語」のマリアは移民の子で、ジュリエットに比べたくましく精神的に大人で、強い意志を持った女性として描かれています。

彼女は命の大切さをよくわかっていたのです。

恐らくマリアはどんなに辛くても自ら命を捨てることなく生き続けるでしょう。

そして、ウエスト・サイドに平和が訪れるのを見届けるに違いありません。

スピルバーグ監督がリメイク

スティーブン・スピルバーグ監督が本作「ウエスト・サイド物語」のリメイク版を制作しているというニュースがありました。

母親がクラシックのピアニストだったスピルバーグ監督にとって本作は、子どもの頃「初めて耳にしたクラシック以外の音楽」だったそうで、その素晴らしさに衝撃を受けたといいます。

監督はずっと本作のリメイク版を制作したいと熱望してきました。

リメイク版公開は、2021年12月に予定されています。

本作・1961年版では、ベルナルド役のジョージ・チャキリスはギリシャ系で、マリア役のナタリー・ウッドはロシア系の俳優でした。

当時は、ラテン系の俳優があまり活躍していなかったため、メイクでラテン系に見せていたのです。

しかし、スピルバーグ監督のリメイク版では、ラテン系の役にはラテン系の俳優が演じることになるそうで、1961年版でアニタを演じたプエルトリコ出身のリタ・モレノも出演します。

ぜひ、本作と観くらべてみてください。

まとめ

いつの時代にも、どこの国でも起こりうる悲劇を描いた「ウエスト・サイド物語」。

時代を超えて観る価値がある映画です。

奇跡の音楽や洗練されたダンスが楽しめるのでぜひご覧ください!!

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