ミスト 映画

出典 : © The Weinstein Company

「ミスト」は映画化作品を幾度も出している人気作家、スティーブン・キングの中編小説を元にした作品で、霧の町に潜む怪物と閉鎖空間での人間の狂気を描いたホラー映画です。

「ショーシャンクの空に」(1994年)、「グリーン・マイル」(1999年)とキング原作の映画を制作していたフランク・ダラボンが監督し、3回目のタッグとなりました。

前2作はヒューマンドラマとしての作風が強く、高い評価を得たダラボン監督がホラー映画をどのように作るのか話題になったのです。

原作のキングは「これを思いついていれば最初からこのエンディングにしたのに!」と太鼓判を押した映画オリジナルのエンディングは観るものに衝撃を与えます。

原因不明の霧がもたらす恐怖、狂っていく人々、断片的に分かっていく一連の事件を描くことで恐怖の要素を浮き彫りにしていく監督の手腕に視聴者は夢中になるのです。

霧の中にいるモンスターの正体やなぜ町は襲われたのか、そして息子を守る父親であるデヴィッドはなぜ逃亡し、ラストであの行動を選択したのか考察していきましょう。

ミスト(2007年)

見どころ
人気ホラー作家、スティーヴン・キングの原作を、「ショーシャンクの空に」のフランク・ダラボン監督が映画化。謎の霧の襲来によってパニックに陥る人々の姿を冷徹に描く。
出典 : video.unext.jp

あらすじ
田舎町で家族と共に暮らすデヴィッドは、ある日息子と共にスーパーマーケットへ出かけるが、町全体が突如濃い霧に包まれ、店内で缶詰め状態に。やがて霧から逃れてきた人々から「霧の向こうに怪物がいる」と聞かされたデヴィッド達は、次第に混乱し始め…。
出典 : video.unext.jp

ミスト(ネタバレ・考察)

不気味な濃霧が建物を包み、人々はスーパーマーケットに立てこもりますが、外にいる未知の“何か”に対して万全の状態ではありません。

電気系統のトラブルや怪我人の発生で、修理や医療用品の確保などリスクを冒す場面があり、安全な場所から危機的状況に出るため、犠牲者が出るのです。

さらに安全だと思っていたスーパーに霧の中の“何か”が侵入して死者が出るだけでなく、人間同士の諍いも発生し、極限状態に追い込まれ判断力を失う様が分かります。

主人公であるデヴィッドたちが遭遇した事件の断片を追って、なぜこのような事態が発生したのかを解析していきましょう。

霧の中に潜む“何か”とは

手を伸ばしたときの指先ですら分からないほどの濃霧に包まれた屋外を見て、外に出ることをためらう人々でスーパーマーケットは溢れかえっています。

屋外から店内に逃げてきた者が「霧の中に何かいる」と告げ、危険性を訴えたため店内の人々は緊張感に包まれるのです。

しびれを切らして調査に出かけたものや、自宅の子供を心配して出ていったものがいましたが、スーパーマーケットに生きて帰ってきたものはいませんでした。

“何か”の存在が明らかにならないため、ある者は自分にロープを付けて調査にいきます。するとロープは猛烈なスピードで引っ張られ、途中で手応えが無くなるのです。

残った者がロープを手繰ってみた結果、上半身のない死体が戻ってきたことで、明確に霧の中は危険だと示されます。

軍人たちが絶望するほどの事態

スーパーマーケットの中には休暇中の軍人が3人いますが、彼らはとある作戦を実行するために派遣されたようで、霧の正体を知っているようです。

デヴィッドたちが住んでいる町では、軍が“アローヘッド計画”という謎の作戦を行っているという噂が流れていたため、住人たちは彼らが霧と関わっているのではと疑います。

店内の人々は話を聞こうとしますが、軍人3人のうち2名はトイレで首を吊っているのが発見されました。

武器を装備した軍人が何の抵抗もせずに自殺したことは、霧の正体を知っていた2名が“今の状況は絶望的で、死んだほうがマシ”というメッセージを感じます。

アローヘッド計画の真相とは

この計画の真相は異次元へ通じるゲートを開くもので、任務を担当した関係者は霧とモンスターの存在を知っていたと思われます。

危険を理解した上で、作戦行動が取れる場所として選ばれたのが、小さい町があることでインフラも確保でき、それでいて人が来ない山中があるこの場所だったのです。

関係者が実験的に開いたところ、想定よりも規模が大きいゲートになり、町まで霧が広がり犠牲者を出した上に、制御する方法も明らかになりません。

霧を止める方法がなければどこまでもモンスターに侵食されることになるため、対策が判明していない兵士は生き残る道が見えず自決してしまうのです。

ラストシーンで登場してきた軍隊はモンスターを制圧できているように見えますが?
軍が総力をあげて対応したように見えるので、計画の部隊とは比較にならない規模の戦力になっています。

霧の中に潜むモンスターたち

異次元から来たモンスターたちは生きている人間に卵を産み付け宿主とするものや、単純に捕食対象として襲ってくるものもいるのです。

またモンスターをエサにしている上位のモンスターがいるなど、食物連鎖を感じさせる描写もあるので膨大な数の一部しか登場していないと思われます。

店内にいても隙間から人間を捉えようとしたり、窓ガラスを破って侵入し人間を攻撃するなど、存在するだけで与える被害は甚大です。

劇中に登場するモンスターを分かりやすく整理したので、その恐ろしさを心に刻んでください。

  • 触手モンスター:本体は不明。巨大な触手を使って人間を捕まえる。切断すると溶解する。
  • 昆虫モンスター:サソリとスズメバチを併せたような飛行生物。光に集まる習性がある。
  • 翼竜モンスター:昆虫モンスターを主食とする大型翼竜のような生物。人間もエサにする。
  • 蜘蛛モンスター:小型だが大量に発生し、人間を宿主にして卵を孵化させ増殖する。
  • 大蟹モンスター:高さ5メートルほどの大きな体にハサミがあり、人間を一撃で両断できる。
  • 巨大モンスター:雲に届くほどの巨体を持つ。敵意はなく比較的安全なモンスターである。

一番怖いのはやっぱり人間?

ホラー映画ではスーパーマーケットでの籠城、外界に潜んでいるモンスターというのは定番の設定になります。

こういうときにモンスター以外で害を及ぼすのは頭がおかしくなり、狂信的に破滅を説いて回る人物で、正気な人間と狂気を持った人間の対立になりがちです。

しっかりお約束として組み込まれている“人間の狂気”を代表する登場人物としてのミセス・カーモディについて考察していきます。

困ったときの神頼みで教祖に

カーモディは敬虔すぎるキリスト教徒で、日常的に狂信者として言動が危うい人物だと思われていることが示されます。

霧に囲まれたスーパーマーケットの中で、最初は1人で「ハルマゲドン(世界の終わり)が始まった」と騒ぎ立てることから、周囲の人間がたしなめます。

ですが状況が悪化するにつれて心理状態が不安定になっている客たちは、ぶれない教えを持っているカーモディの言葉に耳を傾け、不安な心を信仰で中和しようとします。

なんでこんな怪しげな老女の言うことを信じてしまうんでしょう?
変人だが熱心な宗教家で、人心に聞こえが良い“論拠はなくても断言して解答する”手法を使っているため、不安を抱える人達は頼りたくなってしまいます。

カーモディは本当に選ばれたのか

店内に昆虫モンスターが入り込んだとき、カーモディに1匹が止まりますが、他の人と違い彼女は刺されずに済みました。

彼女はこのことから、自分の信仰心が認められ、その結果として神の使いであるモンスターが攻撃しなかったのだとアピールするのです

異次元の生物の生態が分かるはずもないので、結果論としてそういう受け取り方もできるだけなのですが、狂信者であるカーモディはこの結果を神の意志をして振る舞います。

このことでカーモディは選ばれしものという見られ方をされるようになり、支持者たちはカーモディの信者であれば生き残れると考えるのです。

なぜ生贄が必要になるのか

キリスト教徒であるカーモディが、スーパーマーケットにいる人間を神の使いであるモンスターたちに捧げる生贄として選ぶことに疑問を持つ人もいるかも知れません。

他の宗教で見られる生贄は神へ捧げる供物としての存在が強いですが、キリスト教における生贄はイエスの死によって人が救われた逸話をモチーフにしています。

イエスの血が流れて罪が洗い流されたと記されている通り、選ばれし者が生贄として死ぬことで、神から赦されると考えているのです。

最初はアローヘッド計画を知る軍人を生贄として捧げ、彼はモンスターにより両断されます。その結果として事態が変わらなかったため、カーモディは次の生贄を探します。

それが主人公デヴィッドの息子であるビリーを差し出せという要求になったのは、より純粋なものを捧げることによって赦しを得られるという発想からでしょう。

本当に選ばれた者が生贄になるならば、神に選ばれたと自負しているカーモディが自分を捧げれば良いのですが、崇められる自分に酔う彼女は対立者から生贄を探すのです。

カーモディ派と反対派との対決は決定的になり、極限状態の人間たちは外にいるモンスターより一緒にいる人間を危険視して戦うことになります。

カーモディはビリーを差し出して事態が改善しなかったら信用されなくなるのでは?
正しい生贄を差し出せば神に救われると思い、対立している相手を全員捧げるぐらいには精神を病んでいます。

衝撃的なラストに至るクライマックスからの恐怖

「ミスト」はあまりに無情なラストシーンを迎えるため、人によっては後味の悪い映画として認識されています。

主人公であるデヴィッドが選択した決着は、誰の救いにもならず、絶望のあまり叫ぶシーンは彼の心中を察するとやりきれません。

このエンディングに至るまでに回避する方法がなかったのかを含め、導き出される情報から物語の結末の意味を考察していきます。

霧の中でも解るほどの巨大な生命体

スーパーマーケットの狂信者から逃れ、自動車で脱出したデヴィッドたちは、高さが80メートルほどもある巨大モンスターが歩いていくのを目撃します。

あまりの巨大さに一同は声も出ず、ひたすら車を走らせますが、乗っている人たちにはあの生き物が徘徊するさまは“世界の終わり”に見えたのではないでしょうか。

モンスターに怯え、警察も軍も現れず、教祖に扇動される狂信者から逃れたあとに見たものとしては、絶望を与えるのに充分なインパクトでした。

ガソリンを途中で給油することもできず、ただひたすらに車を走らせたデヴィッドは燃料切れで荒れ地の路面に停車します。

ここでデヴィッドが下した決断により、エンディングが恐ろしいものへと変わるのです。

僕を怪物に殺させないで

ビリーは父であるデヴィッドに「僕を怪物に殺させないで」と嘆願します。この意味を取り違えてしまったことが、ラストシーンのきっかけになりました。

“怪物から自分を守って欲しい”という意味で伝わればよかったのですが、デヴィッドは“怪物に殺されるぐらいなら殺して欲しい”と受け取ったのです。

同乗している大人たちに拳銃を見せると、だれもが納得したような顔をしました。生きながらモンスターに殺されるよりは死を選びたいと願います。

拳銃に弾丸は4発、人数は5人です。デヴィッドは自分の始末は自分でつけると決め、息子であるビリーを始めとした同乗者全員を射殺するのです。

もしも世界が終わっていたのであれば、安らかに自分の意志で死ねた大人たちは良かったでしょう。

“救済”から生まれる絶望

車の中から霧の中に出て、モンスターたちに自分を殺させようと叫ぶデヴィッドでしたが、霧の向こうからやってきたのはモンスターを駆除している軍隊の一団でした。

輸送用のトラックにはスーパーマーケットから脱出した親子も含まれており、待機していれば生き残ることができたのです。

カーモディ派との対決で極限状態に追い込まれてしまっていたデヴィッドは、危険な場所から脱出することしか考えられなかったため、選択を誤ったことが示されます。

生き残るチャンスがあったのに、その手で息子や友人を殺してしまい、自分だけが生き残った無情にデヴィッドは絶叫するのです。

スーパーマーケットから子供を救うために自宅へ戻ると宣言し、助けを求めたが誰も同意しなかったことを覚えている女性は、トラック上からデヴィッドに目を向けます。

この時に見せる侮蔑とも哀れみともとれる表情と、“子が救われた者”と“子の命を奪った者”という決定的な違いが、後味の悪さを濃くしているのです。

ホラー映画の生存者は最善を尽くして生き残るものでは?
デヴィッドは決断力があったからこそ諦めに繋がり、最善を尽くした結果チャンスを失うのです。

「ミスト」に馴染みの深いゲームを3本紹介

この映画と、本作の原作である小説「霧」はかなり人気が高く、霧の中に怪物がいることで明るい状態でも恐ろしい世界を構築できることを示しました。

特にテレビゲームとの親和性が高く、未知の場所を包む霧や、異世界の怪物という設定は多くのタイトルに影響を与え、その結果ゲーム作品が映画化されることもあるのです。

いくつか関連しているゲームタイトルとその内容をお伝えして、本作に影響された、もしくは影響を与えた作品について関係を紹介します。

伝説のゲーム「Half-Life」は原作の引用

一人称視点で武器を使い攻撃するジャンルをFPS(ファーストパーソン・シューティング)と呼びますが、その中でも高い人気を誇るのが「Half-Life」です。

実験で異次元と繋がってしまい、そこから現れたモンスターの群れが研究所を埋め尽くし、地獄となる中で、生き延びた主人公が脱出を図ります。

モンスターだけでなく政府の関係者や海兵隊などの勢力が登場し、時には協力するなど、かなり原作の「霧」から影響を受けているのが分かるのです。

名作ホラーゲーム「サイレントヒル」もここから生まれた

全米でのアンケートで「一番怖いホラーゲーム」として1位を獲得したタイトル「サイレントヒル」は、もともとスティーブン・キング作品のゲーム化から始まりました。

紆余曲折ののちにゲーム化は中断されますが、「ミスト」の原作である「霧」から大きな影響を受けた結果、灰や霧に包まれた世界に異形が潜む世界観が生まれたのです。

ちなみにサイレントヒルというタイトルは“静岡”をそのまま訳した仮ネームでしたが、海外スタッフに「これ以上怖いタイトルはない」と言われて正式名称になりました。

映画版「サイレントヒル」(2006年)もありますので、興味のあるホラーファンはぜひご覧になってください。

サム・ウィットワーが出世したときに引用

「ミスト」で秘密を知る兵隊として登場する兵士ジェサップを演じるサム・ウィットワーはこの頃まだ若手俳優でした。

ですが後に自身が好きなフランチャイズである「スター・ウォーズ」のゲーム作品で登場するライトセーバー使いのキャラクターを演じることになりました。

このキャラクターがライトセーバーを逆手に持っているのは、「ミスト」でジェサップが隣の建物に行く際に刃物を逆手に持っていることにちなんでいます。

まとめ

ダラボン監督はもともと「ミスト」で監督デビューするはずだったのですが、いろんな縁の関係で「ショーシャンクの空に」「グリーン・マイル」を先に撮ることになりました。

また監督はキングが若手クリエイターに対して行っている”若手監督の短編小説の原案に使うなら権利を1ドルで売る”という、育成システムに応募して短編を作っていたのです。

その作品も合わせると、キング作品を4本も撮影している監督はキング映画のプロと言えるでしょう。

観る人によってラストの意味合いや、ifの解釈が変わるため、感想を伝え合うのが楽しいホラーである「ミスト」はそんなダラボン監督作品として外せない面白さがあります。

ぜひおうちシネマで楽しんで、何が怖いのかをよく考え、さらに友達と議論すればとても面白い時間が過ごせるでしょう。

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