
「サマーウォーズ」は2009年8月1日に公開された日本のアニメ映画です。
声の出演に俳優の神木隆之介、桜庭ななみを迎え、監督は「時をかける少女」(2006年)で一躍注目を浴びる事となった細田守が務めました。
本作は、細田守監督にとって初めてのオリジナル長編アニメ作品であり、「時をかける少女」で脚本を担当した奥寺佐渡子、キャラクターデザインを務めた貞本義行の3人が再びトリオを組んだ作品です。
インターネット上の仮想世界OZ(オズ)の中で、謎の人工知能“ラブマシーン”が暴走し、世界中を巻き込んだ大事件へと発展していきます。
そこに数学の天才である主人公・小磯健二(声:神木隆之介)と健二にとって憧れの先輩である篠原夏希(声:桜庭ななみ)、そしてその家族が世界の混乱をおさめる為に奮闘する物語です。
映画「サマーウォーズ」からアナログとデジタルのそれぞれの良さ、栄の死から見えてくるもの、そして本作品に登場する朝顔の意味を考察していきたいと思います!
サマーウォーズ(2009年)
見どころ
斬新なCGで描かれたデジタルの仮想空間・OZの表現と、自然あふれる長野の風景描写のコントラストが見事。田舎の大家族がOZの危機に立ち上がる物語に熱くなる。
出典 : video.unext.jp
あらすじ
ショッピングからインフラまで、人々はインターネット上の仮想世界・OZに頼るようになっていた。ある夏の日、高校生の健二は憧れの先輩・夏希からバイトに誘われる。その内容とは、長野にある夏希の実家・陣内家で彼女のフィアンセを演じるというものだった。
出典 : video.unext.jp
サマーウォーズ(ネタバレ・考察)
サマーという言葉がタイトルに付いているだけあって、“夏”になると観たくなるのが、この映画の一つの特徴です。
ここでは、今作品が制作された背景や、今までの細田守作品を振り返りつつ、「サマーウォーズ」について書いていきます。
今作品が作られた背景
この「サマーウォーズ」という映画は、細田守監督が結婚した時のエピソードから、制作された背景があります。
夏希のモデルとなった人物は、細田守監督の奥さんで、健二はまさに監督自身を表しているのだそうです。
奥さんの実家はずばりサマーウォーズの舞台となった長野県上田市で、プロポーズをしたのも夏なんだとか。
勿論、奥さんの家族は今作品と同じ大家族で、まさに「サマーウォーズ」というこの映画は細田監督の自己投影なのです。
奥さんの実家を訪れた時はアウェー状態だったものの、細田監督は家族が増える事について純粋に“面白い”と感じたのだとか。
細田守監督の結婚がなければ、今作品は生まれてなかったというわけです。
自分の人生の一部を切り取って、一つの作品を見事作り上げた細田監督。何だかほんわかとするエピソードですね。
テーマが家族へと変化していった細田作品
「サマーウォーズ」以降、細田監督の作り出す映画には“家族”というテーマが入り込むようになりました。
監督にとって、結婚というものは作品上でも大きな転機となったわけです。
細田作品を振り返って見ていきましょう。
- 時をかける少女(2006年)
- サマーウォーズ(2009年)
- おおかみこどもの雨と雪(2012年)
- バケモノの子(2015年)
- 未来のミライ(2018年)
- 竜とそばかすの姫(2021年)
「時をかける少女」ではタイムリープという能力を手に入れた一人の女の子の友情や青春が描かれています。
この作品では“家族”というものに触れる描写はなく、この映画を経た後、細田作品では家族をテーマとしたエピソードが盛り込まれる事となりました。
「サマーウォーズ」は大家族が力を合わせて一つの問題に立ち向かう話で、「おおかみこどもの雨と雪」は母親と子供の愛情を感じられる映画です。
「バケモノの子」は師弟関係+親子の絆を描いた作品ですし、「未来のミライ」は兄妹の絆をテーマとした作品となっています。
そして「竜とそばかすの姫」では歌う事が大好きだった一人の女の子が、母親を亡くしてから歌を歌えなくなるという物語です。
一度ヒット作品を生んだら、その後モノを制作していくにあたって、物凄いプレッシャーと闘っていくのが芸術というものに携わる全ての人間の課題と呼べます。
そんな中、“家族”という普遍的なテーマではあるものの、それを武器に次々とヒット作品を生み出していく細田監督の手腕は非常に素晴らしいです!!
3年周期で上映される細田作品
細田監督は「時をかける少女」(2006年)から「竜とそばかすの姫」(2021年)まで必ず3年に一回新作上映にこぎつけています。
自分の理念・哲学を守りつつ、必ず3年周期で作品を完成させ、なおかつそれをヒットに導いている細田監督の技量には脱帽です。
そして、全作品“夏の映画”として封切りされている為、春夏秋冬季節は巡っても、細田守作品といえば夏!というイメージを持つ人は多いのではないでしょうか。
特に「サマーウォーズ」は高校生である主人公の、夏休みの貴重な体験として作品の内容が進んでいく為、細田守監督作品=夏が来た!!という感覚を感じられる一面もあります。
仮想世界OZって一体何!?
「サマーウォーズ」の中で描かれるOZという仮想世界。
仮想世界というと何だか難しいイメージを受けますよね。ここではOZについて触れていきたいと思います。
OZはインターネット上の仮想世界で、「サマーウォーズ」では地球上の10億人もの人々が利用しているという設定になっています。
この空間の中ではゲームやスポーツ、スポーツ観戦、はたまたショッピングやビジネス、行政手続きなど日常生活における何から何までのサービスを受ける事ができるのです。
インターネットに接続さえできれば、スマホを始めテレビやゲーム機といった様々なデバイスから利用が可能となっています。
利用者は“アバター”という自分自身の分身となるキャラクターを設定して、ネット上で現実と変わらない生活をおくれるのです。
現実世界でのほぼ全ての事がネット上で完結でき、映画内では世界中の多くの人々がOZの利用者となっています。
近いうちに私達が住むこの世界も「サマーウォーズ」のようになるかもしれません。
しかし、便利な反面、個人情報の漏洩やそれを悪用した犯罪も現れるかもしれないのも現実です。
安全、安心に使えるサービスなのであれば、OZのような世界も大歓迎ですね。
因みに、OZというネーミングの由来は、細田監督が東映アニメーションで働いていた頃に行きつけだった、LIVINオズというスーパーマーケットの名前が由来なのだそうです!
アナログとデジタルの両方の良さを描いている
今作品では、日本の古き良きものと現代的なものを対比させながらも両方の良さを強調するような表現が幾つか出てきます。
アナログとデジタルという一見かけ離れたように見えるもの。
しかし、アナログとデジタルが皆の知恵を合わせた結果、人工知能ラブマシーンを倒す為に活躍する要素となります。
この映画において一番のキーマンとなる夏希の曽祖母である陣内栄(声:富司純子)が、黒電話で多くの知人に電話をかけるシーンはとても印象的です。
自身の人脈の広さから、栄は多くの人物の手紙やハガキを頼りに電話をかけ、混乱した日本の状況を救います。
ここではアナログの代表である黒電話が大活躍!するのです。
そして、映画終盤で夏希はラブマシーンと花札で闘います。
このシーンも見事です。デジタルを駆使した空間で、栄譲りの勝負強さから夏希はラブマシーンに、アナログの一部である花札で勝つのです。
そして、この勝利の陰には世界中の人々が窮地に陥った夏希を応援し、自分のアバターを貸すという予想外の展開もありました。
デジタルとアナログの双方の良さを駆使しながらの闘いで見えたもの、それはどんな世の中でも変わらない、人と人の絆だったのです。
栄の死から見えてくるものとは?
持病の狭心症による心肺停止で亡くなった夏希の曽祖母の栄。
OZの機能が停止していた事から、心肺に異常が見られた時に鳴るはずだった携帯のアラームが鳴りませんでした。それが栄の死に繋がります。
今作品において、栄の死から見えてくるものとはどういうものだったのでしょう?
家族の強い団結心
本作品で、最初の段階では栄が亡くなるという設定はなかったのだとか。
この映画の制作当時、細田監督の祖母の体調が思わしくなかった為、それまでの監督の経験上、制作中の作品と現実がリンクするというジンクスが彼の中にあったそうです。
しかし、悩みに悩んだあげく、苦渋の決断で栄が物語の途中で亡くなる、というエピソードが作品内に組み込まれました。
それは大事な人の死をきっかけに、仇討ちというと言い過ぎかもしれませんが、その出来事が家族や周りの人物との絆を強くする、という監督の思惑があったのです。
「サマーウォーズ」は細田監督作品で初めて人の死を描いた作品となりました。
“死”というと、マイナスなイメージの事が連想される場合が一般的に多いと思われます。
しかし、この映画の中では家族の繋がりをより強固なものにする要因として、栄の死はいい方向として描かれているのです。
死は必ずしも悪い事だらけではない。その事を教えてくれたのは他の誰でもない栄だといえます。


家族と侘助の和解
何と人工知能ラブマシーンの製作者は、夏希の亡くなった曽祖父と愛人の間に出来た子供、侘助でした。
そして侘助はまだ幼かった夏希の初恋の相手でもあります。
一家の財産を持ち逃げして、製作されたのが人工知能・ラブマシーンです。
その出来事から侘助の事を厄介者扱いする陣内家の人々でしたが、栄の死をきっかけに侘助の事を家族として受け入れるのです。
ラブマシーンの暴走はもはや製作者である侘助の手でも止めることが出来なくなってしまいます。
しかし、「栄を死なせてしまったのは自分だ」そんな想いが侘助にはあったのでしょう。
最後まで諦めずラブマシーンの暴走を止めることに奮闘します。
栄は侘助の唯一の理解者でした。栄には自分の配偶者が浮気をして出来た子供でも、そんな事は関係なく、侘助を愛情たっぷりに育て上げます。
「一番いけないのはお腹が空いている事と、独りでいることだから。」
これは栄の名言であり、栄が如何に心の広い人間であるかを物語っている台詞です。
侘助を一人にしてはいけないと、栄は強くそう思っていたのです。
度々登場する朝顔の意味
この映画には、夏の象徴の花とも呼べる朝顔が度々登場します。
朝顔の花言葉は、“結束”、“愛情”、“固い絆”です。
この「サマーウォーズ」という映画で描かれる朝顔の役割とは、ずばり家族の絆の象徴といえます。
時に朝顔が満開に咲いていたり、萎んでいたりする事にも意味があり、その時その時の登場人物の気持ちを代弁しているのです。
そして、栄が夏希に朝顔の柄の浴衣を渡すシーンがあります。
これは、栄の死後、陣内家を守っていくのは夏希だという事を示しているのです。


「サマーウォーズ」見どころポイント
この映画の見どころは、何といっても主役の健二が数学の難しい問題を解き、夏希の又従兄弟の池沢佳主馬(声:谷村美月)のサポートもあって、小惑星探査機“あらわし”の落下地点をずらす部分です。
この二人の活躍がなければ、“あらわし”は陣内邸に直撃落下していました。
健二と佳主馬、それぞれの活躍を見ていきましょう。
人間としても男としても成長を遂げた健二
「サマーウォーズ」は家族の物語であると同時に、引っ込み思案で内気な性格の健二の成長物語でもあるのです。
皆がもうダメだ…とあきらめムードの中、健二は「あきらめたら、解けない。答えは出ないままです。」と言い、暗算で数学の難題に挑みます。
最後に健二が「よろしくお願いしまああああす!!」という台詞と共に導き出した答えは見事正解で、これは健二の夏希への愛の告白でもあるのです。
健二は、陣内家にあらわしを落下させるというラブマシーンの最後の策略を見事打ち破りました。
彼が鼻血を出したのは、自分の数学の能力が限界を超え新しい領域に達したという意味を持っています。
そして同時に健二の夏希への想いが溢れすぎて、「好きな人のことを考えると鼻血が出る」というような、思春期真っ盛りの健二の気持ちも描かれているのです。
一生懸命な健二を側で見ていて、夏希も健二の事を意識するようになりました。
夏希が健二の頬にキスをするシーンでも、健二は鼻血を出しているので、彼は相当奥手な性格といえます。
しかし、この一連の出来事を経て、健二は夏希にリードされながらも二人ならではの愛情を育んでいくのではないでしょうか。
もう一人のヒーロー!佳主馬
中性的な顔立ちと華奢な身体から、「女の子?」「男の子?」と最初は戸惑う方も多いかもしれません。
佳主馬は非常に頭のキレる立派な男の子です!!
学校でいじめに遭った事をきっかけに、佳主馬の祖父にあたる万助から少林寺拳法を習うなど、逞しさと頭の良さを兼ね備える登場人物といえます。
OZ内で、彼は多くの企業とも契約を結んでいる格闘技のチャンピオンで、アバター内で一目置かれる存在です。
“キングカズマ”という兎のようなアバターを使いこなし、そのあまりの強さからプレイヤー達の間では知らない人はいないと言っても過言ではありません。
最後は侘助の手で無力化されたラブマシーンに蹴りをお見舞いし、健二のサポートをします。佳主馬なしではラブマシーンに勝つ事は不可能だったといえます。
まとめ
以上、映画「サマーウォーズ」からアナログとデジタルのそれぞれの良い部分、栄の死から見えてくるもの、そして本作品に登場する朝顔の意味を考察してきましたが如何でしたでしょうか!?
今作品は観れば観るほど味わい深さを感じる映画となっています。
一家のドタバタと一緒に、テレビから流れる高校野球の試合の行方もこの映画の大きな伏線となっているので、注目ポイントです。
“家族”というものがキーワードになっている作品なので、ぜひ家族全員揃って細田守監督の世界に浸ってみて下さい!!