グレイテスト・ショーマン(ネタバレ・考察)

「グレイテスト・ショーマン」(2017年)は19世紀に活躍した実在の興行師であるP・T・バーナムの半生を描いたミュージカル映画になります。

貧しい生まれのバーナムがたどる成功と変化、そしてバーナムに集められたマイノリティの演者たちが自分自身のアイデンティティーを獲得していくドラマは見応え充分です。

トニー賞俳優であるヒュー・ジャックマンや、ミュージカルに多く出演し評価の高いキアラ・セトルらが出演し、美声を披露してくれます。

さらにディズニー・ミュージカルで人気を博したザック・エフロンが久々にミュージカルに出演し、助演男優として登場人物たちとのアンサンブルで魅了してくれるのです。

夢追い人であるバーナム関係のエピソードをかなり美化して描いているためか、映画批評家からは不評でしたが、観客の心を掴みヒット作となりました。

ヒュー・ジャックマンが長年温めてきたミュージカル映画の企画がどのような経緯で実現したかの歴史を紐解きつつ、本作の魅力とトリビアも併せてお伝えしていきます。

グレイテスト・ショーマン(2017年)

仕立て屋の息子で貧しい暮らしをしつつも夢をみることを諦めないバーナム(ヒュー・ジャックマン)は、出入りしていた屋敷の令嬢と結婚し、ニューヨークで妻子と暮らしていた。

務めていた会社が倒産したバーナムは、沈没した船の登録証を持ち出して銀行から金を借りることに成功し、世界中の珍品を集めた博物館を開いたが、評判は芳しくなかった。

娘の「動いているものがいい」という言葉にヒントを得た彼は、一般人とは違う特徴を持ったフリークスをスカウトし見世物小屋のようなサーカスを開き、大盛況になる。

ショービジネスで成功したがバーナムだが批評家たちに酷評され、市民からも抗議活動を受け、上流階級からは成り上がりと蔑まれ、決して満足とはいえない状況だった。

蔑視を打破したいバーナムは、上流階級の劇作家であるフィリップ(ザック・エフロン)を演出家として雇い、彼のコネクションでショーの仲間とヴィクトリア女王に拝謁する。

そこで欧州随一の歌手であるジェニーと出会い、彼女のアメリカ公演を成功させれば上流階級の仲間入りができると考えた彼はフィリップに運営を一任しサーカスから離れる。

ジェニーのアメリカ公演は大成功を収め、批評家からも絶賛されバーナムは名声を手に入れるが、一方でサーカスのキャストたちを疎むようになる…。

グレイテスト・ショーマン(ネタバレ・考察)

観客の口コミでロングランヒットとなった「グレイテスト・ショーマン」は、ドラマチックなトリビアに溢れています。

実在の人物をモデルにしながらも、本作は史実から変更されているところもあるため、違いを知っているとより楽しめるでしょう。

気になって、思わず本作を観たくなってしまうような豆知識をお伝えしていきます。

バーナム博物館を現代で観る方法がある?

映画ではほとんどの人が興味を持たなかったバーナム博物館ですが、実際は行列ができるほどの人気を誇っていました。

ですが館内に展示されている人魚のミイラなど、珍品に夢中になるあまり来場者は館内からなかなか出ようとせず、次の来場者を案内できないトラブルが発生します。

この問題を解決するためにバーナムは、室内の順路案内に「こっちの方にすごいものがありますよ」と思わせる一文を添えて、来場者を誘導したのです。

物見高いお客たちはつられて移動するのですがそこは出口になっており、好奇心でいっぱいの人々はあえなく退場するしかありませんでした。

なおアメリカのコネチカット州にバーナムが所有していた6万点を超える展示物を集めた博物館があり、2021年の夏に改修工事が始まるとのこと。

2021年春ではコロナウィルスの影響で閉館していますが、いつかバーナム博物館を体験できるかもしれません。

過去の名作がタイトルのモチーフに

バーナムのサーカスをモチーフに作られた映画が、1952年のアメリカで公開されました。そのタイトルが「地上最大のショウ」(The Greatest Show on Earth)です。

このタイトルはバーナムが興行をするときの宣伝文句から採用されており、アメリカで高い知名度を誇るバーナムにちなんだ作品であるということが歴然となります。

サーカスを舞台に人間関係のドラマを描いた作品でしたが、数多の名作を押しのけて1952年のアカデミー作品賞と原案賞を獲得し、世界中でヒットしました。

「地上最大のショウ」というフレーズがあまりに有名な映画タイトルになったため、制作陣は他のタイトルを模索しなければいけません。

そこでバーナム自身を描いた作品として、彼を指す「グレイテスト・ショーマン」というタイトルになったのです。

「スター・ウォーズ」を下して大ヒット

従来の映画は公開から4週間以内にピークを迎え8週目には落ち始めて横ばいになるというのがモデルケースでした。

加えて「グレイテスト・ショーマン」は人気フランチャイズ作品である「スターウォーズ:エピソード8-最後のジェダイ」(2017年)と同じ公開日になってしまいます。

競合するタイトルが強力なため、興行的に失敗するのではないかと予想されたのですが、「最後のジェダイ」は初週こそ1位を獲得したものの急激に順位が下がり続けました。

反比例するように口コミでの高評価と、リピーターとして劇場で再度鑑賞する人が多かった「グレイテスト・ショーマン」がジリジリと順位を上げていくのです。

公開前は映画館の関係者から「何週我慢しなくちゃいけないのか」と言われていた作品が、結果的に大ヒットロングランを達成することになりました。

特にイギリスでは2018年に入ってからぐんぐんと興行成績を伸ばし、日本円にして59億円の興行成績を収めたのです。

世界一売れた音楽アルバム!

「グレイテスト・ショーマン」は19世紀をモデルに作られた作品ですが、バーナムの先進性を表現するためにポップやヒップホップの要素を楽曲に組み込むことにしていました。

音楽を担当したベンジ・パセック&ジャスティン・ポールは数々の映画に参加してきたコンビで、「ラ・ラ・ランド」(2016年)の活躍が特に有名です。

「ラ・ラ・ランド」もミュージカルですが、本作ではキャラクターたちの心情をはっきりと表現する楽曲を提供し、出演者もそれに応える熱唱を披露しています。

シングルカットされた代表曲「This Is Me」は特に素晴らしく、ゴールデングローブ賞の主題歌賞を獲得しました。

数々の名曲を含めたオリジナルサウンドトラックは多くの国で売上1位を獲得し、65カ国でitunesランキング1位になるなど、大いに評価されたのです。

多くの人の心をつかむバーナムのテクニック

”バーナム効果”という言葉をご存知でしょうか。不特定多数の人間に適合する内容なのに、言われた人が「自分のことを言い当てている」と感じてしまう心理学用語です。

これはバーナムが語った「誰にでも当てはまる要点というものがある」という言葉が元になっています。

映画ではペテン師呼ばわりされているバーナムですが、多くの大衆の心をつかむコツが分かっていたからこそ、興行を成功させられたのではないでしょうか。

どういう状況でバーナム効果という言葉が出てくるのですか?
たとえば「占い師の中にはバーナム効果を使ってよく当たると思わせる人もいる」といった具合です。

キャストたちは存分に歌声を披露していますが、レベッカ・ファーガソン演ずるジェニー・リンドのパートはアメリカの歌手であるローレン・オルレッドが代役で歌っています。

レベッカも充分に実力のある俳優ですが、本作での立ち位置や史実としての「世界一の歌姫」という観点から、より実力のあるローレンが歌うことになったのです。

ローレンが起用された経緯は、ジェニーの曲を作る際の仮歌(イメージを掴むために本人以外が歌うこと)を担当していたところ、クオリティが非常に高かったことにあります。

もともと彼女はクラシックの教育を受ける環境で育ちながらポップスに目覚め歌手としてデビュー、オーディション番組でも好成績を収めて高く評価されていました。

歌を担当することに決まってからはレベッカ・ファーガソンからスウェーデン訛りのアクセントを直接教わり、レベッカはローレンの歌に合わせて口を動かす練習を続けます。

この交流があったことで、ジェニーが自分の心情を歌い上げる歌唱シーンは大きな見どころとしてファンの心を捉えることに成功しました。

「グレイテスト・ショーマン」公開までのミュージカル映画の変遷

ヒュー・ジャックマンの中で「グレイテスト・ショーマン」の企画が温められていたのに、すぐに制作されなかったのはミュージカル映画が不遇の時期があったためでしょう。

1960年代~2010年代のハリウッドにおけるミュージカル映画の流れを見ることで、本作がいかにして生まれたか理解できます。

制作側と観客側のタイミングがマッチしたように思われる「グレイテスト・ショーマン」が、どうやって世に出て観客から評価されたかについて考察していきましょう。

ミュージカル映画の衰退と復活

ミュージカル映画の歴史は長いですが、1960年代ごろに商業的な失敗が相次ぎ、造り手や演者などが避けるようになってからは不遇の時代が続きました。

1991年にディズニーの「美女と野獣」が公開され、これが評判となってミュージカル映画再起の土壌ができていきます。

2000年代初頭で注目されたのは「ダンサー・イン・ザ・ダーク」(2000年)「ムーラン・ルージュ」(2001年)といった作品でしたが、大ヒットとまではいきませんでした。

2002年にようやく「シカゴ」が映画化され、34年ぶりにミュージカル映画がアカデミー作品賞を獲るなどして”ミュージカル映画は売れない”というジンクスを吹き飛ばしたのです。

この流れに乗ってブロードウェイミュージカルの映画化がいくつも行われるなど、ジャンルとして盛り返していきます。

そしてTV映画から劇場映画へとバージョンアップした「ハイスクール・ミュージカル/ザ・ムービー」(2008年)がディズニーによって公開されました。

この作品が大当たりし、アメリカでミュージカル映画の記録を更新するヒットを飛ばします。

「ハイスクール・ミュージカル」の主演はザック・エフロンですよね!
ザックはシリーズ初期に歌のシーンを差し替えられたことが悔しくて、猛練習の末にミュージカル俳優としての地位を掴んでいます。

古典の映像化から誰も観たことがない世界の構築へ

タイミングを伺うように、ヒュー・ジャックマンは2009年の時点で制作を開始、撮影準備を進めながら自ら道を切り開くように「レ・ミゼラブル」(2012年)に出演します。

主人公であるジャン・バルジャンを見事に演じてみせた彼は、実力を発揮した共演者たちとミュージカル映画の素晴らしさを証明したのです。

アカデミー賞をいくつか獲得した「レ・ミゼラブル」に続くように、ミュージカル映画「ラ・ラ・ランド」が評価され、アカデミー賞レースで大活躍しました。

「ラ・ラ・ランド」で音楽を担当したベンジ・パセック&ジャスティン・ポールを起用する先見の明を発揮するなど、ヒューは自身の才能だけでなくスタッフ選びも完璧です。

彼の情熱がベストのタイミングを作ったかのように、ミュージカル映画が受け入れられる環境が整い、「グレイテスト・ショーマン」は世界中で評価されました。

ヒュー・ジャックマンは医者から歌うことを止められていたらしいですね!
鼻の手術直後で傷がふさがってないのに歌ってしまい、医者にメチャメチャ怒られたそうです。

この映画が観客の心を揺さぶる理由

「グレイテスト・ショーマン」はシーンごとのドラマに起伏はあるものの、徹底的にポジティブな表現で締めてからシーンが移るので、ネガティブにならず鑑賞できます。

制作陣が描きたかったものはマイノリティへの理解、愛の形、1つの目的に向かって進む人たちが生み出す絆といったプラスのメッセージです。

観客には高く評価され、批評家たちからは受け入れられなかった理由も含めて、この映画が名作となった理由となる描写について読み解いていきましょう。

偏見と差別に対しての反逆

時代背景として、当時のアメリカは奴隷制がなくなったばかりで、アメリカ南部に比べれば穏やかなものの、ニューヨークでも黒人はまだ差別の目で見られていました。

バーナムは黒人以外にも、ユニークな人を集めて見世物小屋のようなサーカスを展開します。

バーナムは彼らを差別するのではなく個性として褒め称えますが、周囲からはフリークスと呼ばれる奇形の人を利用して金儲けしようとする極悪人というイメージがありました。

「グレイテスト・ショーマン」を観た映画評論家たちも、バーナムを美化しすぎていて陰の部分が描かれていないと指摘しているのです。

ですが制作陣が描きたかったのは、社会的に排除されているマイノリティが脚光を浴び、自分の特徴を恥じることなく胸を張って行きていく、偏見なき世界の肯定になります。

バーナムが上流階級のパーティーで、サーカスの仲間たちが参加するのを拒否するシーンでは、ユニークな人は結局排除されるのかと悲しみと怒りを覚えるでしょう。

ですが彼らはそのことに負けず、「私は私である、恥じることはなにもない」と高らかに歌う「This Is Me」のシーンは力強い自己肯定を観客に与えます。

そもそもフリークスの人々を扱う作品で、ここまで大規模な予算を投じて描いた映画は今までありませんでした。

バーナムのサーカスを酷評していた批評家が、最終的に彼のショーを認め「人類の祭典」と呼ぶなど、多様性を重視する現代でもかなり挑戦的な内容になっています。

観客はそのメッセージを受け取った上で支持し、観るべき作品であるということを口コミで広げたことで、大ヒットすることになりました。

届く愛、届かない愛

バーナムと妻チャリティは身分の差を乗り越えて結婚し、貧しくも幸せな家庭を築きますが、バーナムが成功したことで周囲から成金と蔑まれ、家族も迫害されます。

上流階級に認められるために劇作家のフィリップを迎え入れたことにより、サーカスのスターである有色人種のアンとフィリップはお互いを見初め、恋に落ちるのです。

アンとフィリップは差別や偏見を持たれるという障害を乗り越えて愛し合い、未来を塗り替えていこうというメッセージを「Rewrite The Stars」として歌います。

このシーンはザック・エフロンとゼンデイヤがスタント無しで宙吊りになって演じており、ロマンティックかつアクロバティックな画面に引き込まれるシーンです。

一方、イギリス女王に謁見するまでになったバーナムは、オペラ歌手であるジェニー・リンドと知り合い、才能のあるジェニーをアメリカツアーに誘います。

お互いを知ることでジェニーはバーナムに対してビジネスパートナー以上の感情を持ちますが、バーナムはその好意に応えることはありません。

バーナムがステージの裾に立ち、バーナムの家族が客席にいる状況で、ジェニーが届かない愛を歌う「Never Enough」は感情に訴えかけてくるものを感じるのです。

仲間との絆

ツアーが中止となり、サーカスの会場も火事で失ったバーナムは自宅を借金の抵当として押さえられ、ジェニーとのスキャンダルを知った妻と娘たちは実家に帰ってしまいます。

すべてを失った時にバーナムを支えてくれたのは、上流階級にいるときにバーナムが忌避したフリークスの団員たちでした。

彼らは金儲けのために集められた面があると分かった上で、自分の存在を日陰者ではなく、光の当たる存在として認めてくれたバーナムに感謝の気持ちを持っていたのです。

笑いものにするのではなく、誇るべき個性として彼らを肯定してくれて、仲間たちと家族のように過ごしたサーカスは団員たちにとってもかけがえのないものになっていました。

バーナムはそこで自分がなんのためにサーカスを始めたのかを再確認し、絆を取り戻すのです。

アンと団員たちのために、自分の資産でサーカスを再建すると決めたフィリップは、50/50の条件で契約しようと伝え、サーカスは再び動き出します。

バーナムはその信頼に感謝しつつ、フィリップこそが新しい団長にふさわしいとシルクハットを渡すのです。

他人を幸せにすることは芸術である

二人の間で交わされた友情が継承され、フィリップはサーカスとアンを、バーナムは家族を愛していくことを示唆するエンディングを迎えます。

娘のバレエ発表会を満足そうに見つめるバーナムが最後に残したメッセージは、「最も崇高な芸術は、他人を幸せにすることである」です。

サーカスもオペラも娘の発表会も、観客を幸せにしている崇高な芸術であることを噛み締めながら、他人を幸せにしたいと願うこの映画で幸せを噛み締めながら幕を閉じます。

「グレイテスト・ショーマン」が観客に評価されたのは、単純なサクセスストーリーや多様化の肯定だけではなく、エンタメに対しての姿勢が提示されたからではないでしょうか。

まとめ

観客が「グレイテスト・ショーマン」を鑑賞して得る感情は、見方によって非常に多彩な結果になるでしょう。

実在の人物を描くのであれば、もっとモデルに忠実なキャラクターメイキングが必要だと思う人もいれば、きっかけさえ解るならドラマに脚色は必要と言う人もいます。

ですがミュージカル映画として、圧倒的な音楽のクオリティと演者のパフォーマンスが高レベルで融合している本作は、名作であると断言できるのです。

心に響く映画を観てみたい、という方には是非おすすめしますので、おうちシネマで堪能してください。

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