空の青さを知る人よ

出典 : 『空の青さを知る人よ』(C)2019 SORAAO PROJECT

「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」「心が叫びたがってるんだ。」と共に、物語の舞台が秩父である事から“秩父三部作”のひとつに数えられる「空の青さを知る人よ」は2019年10月11日に公開されました。

“秩父三部作”の三部作目に位置づけられる本作は、CloverWorks制作による日本のアニメーション映画で、吉沢亮、吉岡里帆など人気俳優が声優を務めた事でも話題になった作品です。

両親を亡くし、二人で生活する年の離れた姉妹の愛情と、“二度目の初恋”を描いた、胸打たれる名作アニメーション映画となっています。

映画「空の青さを知る人よ」から二度目の初恋の意味、空の青さを知る人物とは?そして作中における“ガンダーラ”に込められた想いを考察していきたいと思います!!

空の青さを知る人よ(2019年)

見どころ
過去と現在、2人の慎之介が現れたことで始まる、三角関係のような四角関係が新鮮。田舎と都会、過去と今、妹と姉、大人と子供、さまざまな対比に注目すればより楽しめる。
出典 : video.unext.jp

あらすじ
音楽漬けの毎日を過ごす高校二年生の相生あおいと、そんなあおいが心配でしようがない姉・あかねは事故で両親を失って以来、二人きりで暮らしている。そんなある日。あかねのかつての恋人で、あおいに音楽の楽しさを教えてくれた、慎之介が帰ってくることに。
出典 : video.unext.jp

空の青さを知る人よ(ネタバレ・考察)

姉妹愛と“二度目の初恋”をテーマとした映画「空の青さを知る人よ」。

ここでは超平和バスターズの紹介、豪華な声優陣、この作品の主題歌を歌ったあいみょんについて触れていきたいと思います。

超平和バスターズが再び集結!

超平和バスターズとは、 アニメーション監督の長井龍雪、脚本家の岡田麿里、アニメーター兼キャラクターデザイナーの田中将賀の3人からなるアニメーション制作チームの事です。

「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」(あの花)「心が叫びたがってるんだ。」(ここさけ)を制作したチームの再集結という事で、心躍ったファンの方も多いのでは!?

超平和バスターズというネーミングは“あの花”の劇中に登場するチームの名前で、他に3人で考えていたネーミングはあったものの、ファンの間でいつの間にかそう呼ばれるようになっていたのだとか。

「君の名は。」「天気の子」などで知られる新海誠監督も、自身のツイッターで「空の青さを知る人よ」に言及した際、長井龍雪・岡田麿里・田中将賀の3人をずっと憧れの対象であるという事を明言しました。

“あの花”では忘れられない子供時代の思い出、“ここさけ”では青春真っ只中の主人公達が描かれています。

一方「空の青さを知る人よ」は前二作と比べるとやや大人目線の映画となっているのです。

たくさんの人の心を掴んだ、超平和バスターズの作品。

次回作はまだ未定ですが、これからの超平和バスターズの活躍も目が離せません!!

声優陣の演技がとにかく素晴らしい!

よく、俳優がアニメ映画の声優をやる事について賛否両論意見が分かれる事がありますが、「空の青さを知る人よ」については吉沢亮と吉岡里帆を起用した事で成功といえます。

まず、大人になった慎之介と高校生時代の慎之介(=しんの)の声を見事に使い分けている吉沢亮は、さすが大河ドラマの主演を務めるだけあって、その実力はお見事です!

あかね役の吉岡里帆もとても自然体で、彼女が声をやっているという事前情報がなければ、「そうなの!?」と驚く方も多いのではないでしょうか。

そして何と言っても主役のあおいを演じた若山詩音の演技は、群を抜いて素晴らしいです!!

高校生という思春期真っ只中のあおい。

しんのへの恋心と、大好きな姉との間で揺れ動く心情をとても丁寧に繊細に演じている部分が若山詩音という一人の表現者のすごい部分といえます。

彼女は3歳の時に劇団ひまわりに所属し、子役として活動していました。

声優に興味を持ったのは、中学時代にボイスを使ったゲームをした経験からとの事で、本作は彼女にとって初の長編アニメーションへのチャレンジになります。

バンド・ゴダイゴのヒット曲である“ガンダーラ”を熱唱するシーンはあおいの伸びやかな歌声に惚れぼれする、貴重なシーンです。

吉沢亮、吉岡里帆、若山詩音共に厳しいオーディションを勝ち抜いただけあって、さすが!!といえる見事な表現力で役を演じきっています。

音楽を手掛けたのは紅白出場も果たした、あいみょん!

劇中曲とエンディング曲を歌うのは、若い人を中心に絶大な人気を誇るシンガーソングライター、あいみょんです。

「生きていたんだよな」という曲でメジャーデビューを果たし、以降ヒット曲を連発させ、「マリーゴールド」という曲で第69回紅白歌合戦に初出場しました。

本作では劇中曲として使われている「空の青さを知る人よ」と、エンディング曲の「葵」という音楽を手掛けています。

劇中歌の「空の青さを知る人よ」の音楽が入るタイミングが何とも絶妙で素晴らしい!

あおいとしんのが、空を飛んであかねの元に行くというシーンなのですが、その時の空の青さがアニメーションと思えないほど、何とも清々しくて美しいのです!!

あいみょんの伸びやかな歌声と繊細な歌詞が非常にマッチしており、この映画に彩りを添えています。

あいみょんは、“好き”という言葉を使わずにその気持ちを表現する事のできる歌手ですよね!
確かにそうですね。あいみょんを起用したのは大成功といえるのではないでしょうか。

空の青さを知る人物とは?

“井の中の蛙、大海を知らず”という諺がありますが、これは中国から伝わった「荘子 秋水編」が由来となっています。

意味としては、今、自分が見えている世界が全てで、他の視点や考え方を知らず、見識が狭いという意味です。

実はこの諺には続きがあり、それが、あかねが卒業文集に書いた“井の中の蛙、大海を知らず。されど空の青さを知る。”という言葉となります。

井の中の蛙、大海を知らずという前半部分は狭い世界の事しか知らないというネガティブな意味にとれます。

しかし、されどその青さを知るという続きがある事で、狭い世界にいるからこそ、その世界の深い部分や細かい部分をよく知っているというポジティブな意味になるのです。

空の青さを知る人物とは、他の誰でもなく姉であるあかねの事だといえます。

13歳年の離れた妹・あおいを残して恋人の慎之介と上京するという約束を果たせず、故郷である秩父を離れられなかったあかね。

しかし、恨み言一つ言わずにあかねはあおいの存在を支えてきました。

あかねは、この狭い世界の中でもあおいの親代わりとなれた事が非常に嬉しかったのです。

そして自分の好きな言葉をヒントに曲を作ってくれた慎之介にも感謝していたといえます。

あかねは、広い世界には出られなかったけれど、大切な人と一緒にいられるという幸せを誰よりも知っているのです。

“ガンダーラ”に込められたそれぞれの想い

劇中の音楽として使用されている“ガンダーラ”。

“ガンダーラ”は1975年に結成された日本のバンド、ゴダイゴのヒット曲です。

何故、この映画ではこの曲がチョイスされたのでしょう?あおいと慎之介のそれぞれの観点から“ガンダーラ”についての想いを考察していきます。

あおいの“ガンダーラ”への想い

“ガンダーラ”の歌詞は“そこに行けばどんな夢もかなうというよ”というフレーズから始まります。

そこに行けばの“そこ”とは、東京の事を意味しているのです。

あおいが13年ぶりに故郷を訪れた慎之介の前で“ガンダーラ”を歌ったのは、東京への憧れと、子供時代の思い出の曲であるという意味があります。

“ガンダーラ”はまだ高校生の慎之介が率いるバンドが、よくライブで披露していた歌でした。

あおいは子供ながらにその姿に魅了され、“ガンダーラ”こそが東京でプロのベーシストになる!という事を彼女に決意をさせた曲なのです。

13年の時が経ち、もうあおいの事など知らない人であるかのように冷たく接する慎之介。

変わってしまった慎之介に対して、あおいは「どうして?」という淋しい気持ちと、自分のベースの実力を見せる事で慎之介を驚かせたかったのでしょう。

しかし、皆があおいのベースの腕を称賛する中、慎之介だけは彼女に対して変わらず、冷たい態度と辛辣な言葉を吐くのでした。

あおいの“ガンダーラ”への想いとは高校生の頃の優しかった慎之介への恋心と、自分の夢、そして楽しかった13年前を慎之介に思い出してほしい、そんな気持ちが込められているのではないでしょうか。

慎之介の“ガンダーラ”に対する想い

一緒に上京する事をあかねに断られ、ギタリストとして成功を収めたらあかねを迎えに行くと決めていた慎之介ですが、プロの世界はそんなに甘いものではありませんでした。

どんな夢も叶うと言われている“ガンダーラ”=東京。慎之介は東京で夢破れたのです。

東京に出てプロとして食べていくには、あまりに力不足の自分を慎之介はまざまざと見せつけられたといえます。

慎之介にとっての“ガンダーラ”は、夢を叶えてあかねを迎えに行く事の厳しさや過酷さを思い知らされた、薄汚く嫌な場所でしかなかったのでした。

運やコネ、が必要と慎之介は高校時代の自分=しんのに言いますが、ある意味それは慎之介の言い訳という部分もあります。

映画のラストで、もうちょっとギタリストとして頑張ってみようと自分を見つめ直した慎之介。

夢は破れて終わるものではありません。その人自身が諦めた時に終わるものなのです。

夢の地である“ガンダーラ”から逃げていたのは慎之介自身で、慎之介はあおいとしんの、そして何よりも最愛の人であるあかねに音楽の楽しさや自信をもう一度思い出させてもらったといえます。

そう考えると、13年ぶりの慎之介の帰郷は、運命に導かれたものだった、といっても過言ではないのです。

二度目の初恋の意味とは?

「空の青さを知る人よ」というこの映画の軸になっているものとして恋愛要素は欠かせない部分といえます。

この作品のキャッチフレーズは“これは、せつなくてふしぎな、二度目の初恋の物語”というものです。

おそらく、あおいの初恋の相手はしんのだといえます。あおいは小さいながらもいつも優しく接してくれるしんのに、ほのかな恋心を抱いていたのです。

そんなしんのが高校生になった自分の前に現れ、いわばあおいは同じ人に二度恋をした、という意味合いを含んでいるのではないでしょうか。

映画の内容がやや大人向けという事もあり、本作はアラサー女子におすすめの映画という意見もあります。

しかし、思春期真っ只中のあおいの恋愛模様も描かれている為、これは人を好きになる事の切なさや痛み、悲しさや嬉しさ、ドキドキやワクワク感を知る全ての人に響く映画なのです。

年齢を問わず、恋の痛みを知る全ての人へ贈る映画となっています。

あおいとあかねの究極の姉妹愛

姉であるあかねと妹のあおいは13歳年齢が離れているという事もあり、姉妹を超えた親子のような絆で結ばれています。

両親を事故で亡くしたあかねとあおい。二人は両親との死別後、お互いをどんな風に見て生きてきたのでしょうか?

しっかり者の姉・あかね

姉のあかねにとって、妹のあおいは何よりの心の支えです。

両親と死別した後、あかねは妹の幸せだけを考えて生きてきました。

“あおい攻略本”と称したノートは、まるで妹の成長の過程が刻まれているような、温かい愛情溢れるものだったのです。

高校を卒業後、あかねは恋人のしんのと一緒に上京する、という夢を諦め妹の成長を見届ける事を選びました。

しっかり者のあかねにとって、妹との生活を選ぶ事は一世一代の覚悟や決断と呼べるものでもあったのかもしれません。

せめて大切な妹・あおいが成人するまでは自分が母親代わりになろう、そう考えていたのでしょう。

あおいはあかねのたった一人の残された“家族”なのです。

洞窟のシーンで、あかねの無事が確認された時、あかねは真っ先に他の人物を差し置いてあおいに飛びつきました。

こういう部分で二人の相思相愛ぶりが描かれているのです。

一つ大人になった妹・あおい

あおいは普段はツンツンした性格ですが、姉の事を何よりも気にかけ、自分のせいで姉がしんのと上京できなかった事をずっと負い目に感じていました。

しかし大人になったしんの=慎之介が現れた事で、姉に幸せになってほしいという想いからしんのへの恋心を諦めたのです。

あおいにとって、しんのへの恋心を諦めるという事は容易くはありませんでした。

自分の好きな人の幸せを願うという事を、あおいは一連の出来事を経て心に刻んだのです。

失恋をした事で、また一つあおいは大人になりました。

大好きな姉と、初恋の相手であるしんの。

どちらも大好きだけれど、自分の幸せをいつも最優先してくれた姉に今度こそ本当に幸せになってほしい。

それがあおいなりの、姉への感謝の気持ちだったのです。

この「空の青さを知る人よ」という映画は究極の姉妹愛とあおいの成長を描いた物語となっています。

あおいの「空、くっそ青!!」というラストのセリフの意味とは…?
自分の青さ、青臭さを、空が青い事と絡めている表現なのではないでしょうか。

「空の青さを知る人よ」見どころポイント

本作の一番の見どころは、何といってもあおいとしんのが空を飛ぶシーンです。

あいみょんの歌に合わせて二人が、あかねの元へと飛んでいくシーンは観ている側もまるで空を飛んでいるようなワクワク・ドキドキとした感覚をもたらしてくれます。

“あかねスペシャル”と、しんのが名付けたギターの弦が切れたのは、しんのの感情の開放を意味しているのです。

東京に行ってビッグなスターになり、いつかあかねの事を迎えに来る、という夢を叶えられなかった大人になったしんの=慎之介。

しんのがお堂から出られなかったのは、いつもバンド仲間やあかねと過ごしたお堂への深い思い入れがあったからでしょう。

たくさんの思い入れがありすぎて、慎之介の身体だけは東京に行きましたが、その気持ちは生霊となってお堂に取り残されてしまったのです。

そして、しんのはあかねのいない東京に行く事がとても不安で怖かったといえます。

あかねが土砂崩れに巻き込まれたかもしれないと知り、今度こそはちゃんとあかねの元へ行く、そんな想いがしんのを動かしたのです。

そして、あおいもあかねの事が心配と同時に、自分の目の前からしんのが消えることになってしまっても、あかねと慎之介にちゃんと幸せになってほしい、そんな想いを抱えていました。

しんのを引っ張って、お堂から出そうとしたのも、しんのの気持ちが痛いほどわかったからです。それは“人を好きになる事”といえます。

“空を飛ぶ”という展開は意外でもありましたが、このシーンは瑞々しいほどの爽快感とこの映画のタイトルである「空の青さを知る人よ」というものに、非常にマッチしている場面です。

エンドロールもお見逃しなく!!

エンドロールではあかねと慎之介の結婚式の様子が流れます。

あおいとあかねが抱き合って、その喜びを分かち合う部分も描かれており、エンドロールも見逃せない展開となっているのです。

映画の終盤で、あかねが「今度ツナマヨのおにぎりでも作ってみようかな」との台詞がありますが、これは「慎之介の気持ちに応えたい」という意味を持ったあかねの言葉といえます。

二人の恋の成就を見届けて、しんのの存在は消えるのでした。

しんのは今の慎之介なら安心してあかねを任せられる、そう思ったのでしょう。

東京と秩父、離れていても常に慎之介の大事な人はあかねだったのです。

エンドロールに映るあかねと慎之介の幸せそうな姿は必見そのものといえます!!

まとめ

以上、「空の青さを知る人よ」から二度目の初恋の意味、空の青さを知る人物とは?そして作中における“ガンダーラ”に込められた想いを紹介してきましたが、如何でしたでしょうか!?

人を愛する切なさと、姉妹の愛情に泣かされる事間違いなしの映画となっています。

友達や恋人、家族、そして大切な姉妹や兄弟と観る事もおすすめの1本です!!

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