フェイスオフ

「フェイス/オフ」とは1997年に公開されたジョン・ウー監督によるハリウッド進出3作目の作品で、「自分が撮りたいものが撮れた」と満を持して発表されたクライムアクションです。

主演のジョン・トラボルタとニコラス・ケイジの熱演もあり、人物入れ替わりものとして出色の出来になっています。

戦闘の際に飛ぶ白い鳩、複数の人物がお互いに銃口を向け合うメキシカン・スタンドオフなどジョン・ウー監督ならではの演出も多く、現在でも評価が高い作品です。

本作の魅力や気になる点を、考察を交えて紹介していきましょう。

フェイス/オフ(1997年)

FBI捜査官のアーチャーは、長年追い続けてきた国際的テロリストのキャスターとポラックスの兄弟を逮捕するが、ロサンゼルスのどこかに細菌爆弾が設置されていることを知る。

兄にしか心を開かないポラックスから情報を引き出すために、極秘裏に昏睡状態のキャスターから顔と外見を移植して隔離された刑務所内に潜入することになったアーチャー。

だが、そこにアーチャーの顔を移植したキャスターが現れる。キャスターは関係者を皆殺しにし、お互いの入れ替わりを知るものは誰もいなくなってしまった。

アーチャーになりすましたキャスターと、キャスターの姿をしたアーチャーはお互いの環境で自分のあり方を見つめ、変化が生じていく。

だがお互いの姿でいることに限界が訪れる。キャスターとアーチャー、元の生活を取り戻すのは一体どちらになるのか…?

フェイス/オフ(ネタバレ・考察)

お互いのキャラクターが乗り移ったかのような怪演を見せる主役たちですが、それを可能にしたのがジョン・ウー監督のこだわりでした。

主にジョン・ウー監督の、本作へのこだわりについてのトリビアを披露していきましょう。

最初はシュワルツェネッガーとスタローンが配役候補だった

配給側が最初に想定していたのはアーノルド・シュワルツェネッガーとシルベスター・スタローンの両名を入れ替えるというものでした。

ですが、ジョン・ウーはジョン・トラボルタとニコラス・ケイジを配役にチョイスしました。

ニコラス・ケイジは最初悪役を演じるのを嫌がり乗り気ではありませんでしたが、ほとんどのシーンが善人であるアーチャーの役柄ということが分かり、サインしたそうです。

主役が2週間ほど共に生活して相手の癖を身に着けた

ジョン・トラボルタとニコラス・ケイジは撮影に入る前に、2週間一緒に過ごしたそうです。

またジョン・ウーはお互いの演技をビデオで見せ、特徴を掴んで演じるように指導したとのこと。

その結果、お互いの魂が入れ替わったかのような熱演を生むことになったのです。

飛行機やボートは本物を使用

ジェット機のチェイスシーンや、クライマックスでのスピードボート

これらはグリーンバックの合成も提案されていましたが、ジョン・ウー監督のこだわりで本物を使用することになりました。

複数台のカメラで1カットを撮影し、編集して迫力のある映像に仕立て上げたのです。

1発勝負の撮影を見事成功させ、屈指のアクションシーンが完成しました。

2019年にリブートが発表

2019年に本作のリブート企画が始動していることがニュースとなり、映画ファンをどよめかせました。

「クローバーフィールド・パラドックス」の脚本を担当したオーレン・ウジエルが脚本を書くことが決まっていますが、監督やキャストはまだ決まっておらず、ファンをヤキモキさせています。

トラボルタとケイジは別のキャストになることが決まっていますので、どのような配役になるかが楽しみです。

トラボルタとケイジは続投するのですか?
いえ、2人は別の役者になることが決まっています。バトンを受け継ぐ役者はプレッシャーが凄そうです。

お互いが入れ替わることについての精神的変化

お互いが最も憎んでいる相手の顔を得て、相手になりきるというのは、お互いを誰よりも理解している宿敵だからこそなし得たのかもしれません。

環境や状況を考えつつ、どのように精神が変化していったのか明記してみましょう。

射手座と双子座をモチーフにした登場人物

主人公のショーン・アーチャーは射手座を指しています。射手座の正反対に位置するのが双子座で、キャスター(カストル)とポラックス(ポルックス)は双子の名前です。

この位置関係からもお互いが正反対のキャラクターであるという事がわかります。

キャスターになったアーチャー

ポラックスから細菌兵器のありかを聞き出すためにエアワン刑務所に潜入するアーチャーですが、キャスターの姿をしている以上恨みを買っている上に看守からはいびられます。

キャスターを恨んでいる受刑者に襲われ、自身がキャスターを演じなければいけない認識したとき、アーチャーの精神のタガが外れるのです。

襲ってきた受刑者を返り討ちにし、「俺はキャスター・トロイだ」と叫んだこのとき、アーチャーの中にキャスターが芽生えました。

悪人を演じ続けることで、心の中のダークサイドが開かれたのです。

エアワンはNowhere、つまり「どこでもない」のアナグラムです。

面会に来るキャスターを見て戦慄するアーチャー

そんなアーチャー(キャスターの顔)に、面会者が訪れます。それはキャスター(アーチャーの顔)でした。

極秘任務で監獄に潜入しているアーチャーをあざ笑うように、アーチャーの顔をしたキャスターは関係者を皆殺しにしたと告げます。

FBI捜査官、家族の父、妻の夫といった立場をすべて奪われたアーチャーは暴れますが、テロリストの顔をしている彼を信じるものは誰もいません。

エアワン刑務所から脱出し、キャスター(アーチャーの顔)を倒さない限り、未来はないのです。

アーチャーになったキャスター

FBI捜査官としての立場を満喫しているキャスターは、司法取引でポラックスを刑務所から出し、自分で仕掛けた爆弾を自分で解除して手柄にし、自身の発言力を高めます。

今まで堅物で、仲間の死のためにキャスター逮捕を祝われたときもすげなく却下したアーチャーでしたが、彼の顔をかぶったキャスターは人が変わったような立居振舞を見せるのです。

ベジタリアンであるアーチャーの妻にロブスターを振る舞ったり、タバコを吸っている娘を咎めることがないなど、アーチャーの家庭に入り込むときに違和感がありました。

ですが、別人がなりすましているとは思いもしない妻と娘は戸惑いながらも受け入れます

その居心地は帰る場所などなかったキャスターからすると、驚きの連続でした。

いつしか本気で、アーチャーの居場所を奪おうと考えるのです。

善と悪であり続ける難しさを描いている

ジョン・ウー監督は善人が善で有り続けることは難しいと考え、善悪にも裏表があり、両面を持っているのだと伝えようとしているのです。

アーチャーとキャスターのそれぞれの裏を見ていきましょう。

アーチャーに潜む悪

息子マイケルを殺されてから、家庭を顧みずにキャスターを追い続けるアーチャーは、仕事に熱中しすぎており妻や娘からは反感を持たれています

娘は亡くなった弟ばかりを見ている父に対し、自分を見てほしいと不良行為を続けますが、理解されないのです。

妻はデートをすっぽかし、パートナーとして相手にしてくれないアーチャーに対して不満を持っています。

家庭がうまく行っていないことをアーチャー自身も理解しているのですが、事件が解決するまで家庭に戻ろうとしませんでした。

アーチャーの中では、キャスターが死なないと区切りがつけられなかったように思えます。死んだマイケルの仇を取らなければ、納得できなかったのでしょう。

キャスターに潜む善

キャスターはアーチャーを狙撃しようとしたときに、射線にアーチャーの息子が入ったことで一瞬スコープを外します。

最終的に撃ってしまうのですが、心情のゆらぎを見る限り、冷酷無比なわけではないことが分かるのです。

またアーチャーの立場を奪ったキャスターは、アーチャーの家庭に自分の居場所を見出します。

今までは帰る場所もなく、子供に対しても無関心だったキャスターですが、かりそめの家庭に入ったことで愛情を持ち始めるのです。

妻に対しても大事にしたいと告白し、娘がピンチのときはボーイフレンドをボコボコにし、ナイフによる自衛手段まで教えます。

そこには打算はなく、家庭への愛情に溢れた姿があるのです。

アーチャーよりよほど父親や夫として家庭に貢献しています。

このときのキャスターは、自分に戻ること可能性と、このままアーチャーとして生きていく可能性の両方を考えていたように見えるのです。

家庭を持つ経験って大事なんですね!なんだか羨ましいです!

唯一純粋なものは幼い子供である

この世界で唯一純粋なのは、マイケルやアダムのような幼い子供なのでしょう。

銃撃戦の最中、アダムにヘッドフォンで聞かせる「オーバー・ザ・レインボー」は銃撃戦での殺し合いからシャットアウトさせ、守る効果があったように思えます。

「オーバー・ザ・レインボー」は「オズの魔法使い」に出てきた名曲で、子供向け音像音楽の定番です。

アダムという純粋な存在を守りたいというアーチャーとサーシャの心情が伝わってくるシーンになります。

顔を上から撫でる仕草がアーチャーの愛情表現として演じられているので、動きを注意して観てみてください。

ジョン・ウー監督独自の演出について

スローモーションやメキシカン・スタンドオフなど、ハリウッドに進出してやりたいことができなかったうっぷんを晴らすかのように演出が入りまくります。

これらのシーンがいかに効果をもたらしたのかを追求していきましょう。

スローモーション

銃撃戦や飛行機、ボートでのチェイスのシーンで多用されるスローモーションは、観るものにシーンを印象づける効果があります。

筆者が一番印象に残っているシーンはキャスターがコートを脱いで、腰に龍の模様が入った二丁拳銃がアップになるシーンです。

あのド派手な装飾をイメージさせるスローモーションに、いかにキャスターが自己顕示欲が強く自信家なのかが集約されています。

メキシカン・スタンドオフ

メキシカン・スタンドオフとは2人以上の集団がお互いに銃を突きつけて膠着状態を生んでいる、緊迫感のあるシーンを指します。

序盤の空港での膠着、終盤の多人数による膠着の連鎖なども見応えがありますが、秀逸なのは鏡越しのメキシカン・スタンドオフです。

お互い自分を写しながら、憎い相手を撃ちたいと考えている2人の構図は、相手に成り代わっている2人ならではの演出になります。

白い鳩

ジョン・ウー作品では、愛と平和の象徴として白い鳩が登場します。

飛び去る鳩は平和が崩れていくさまを表現し、同時に消えゆくであろう命や魂も表現しているのです。

鳩に込められたメッセージを拾うとジョン・ウー作品はより面白く観られます。

まとめ

映画学校の生徒が作った脚本をSFテイストを抑えて現代劇として作り変えただけでなく、アクションとドラマの両立をさせたジョン・ウー。

エアワン刑務所だけで1本映画が作れそうなボリューム感のシナリオに、たっぷりのアクションを添えて提供してくれるサービス精神に脱帽です。

ハリウッドで炸裂するジョン・ウー節を堪能したい方はぜひとも本作をご覧ください。

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