「テルマエ・ロマエ」は、ヤマザキマリによる同名漫画作品が原作で、2012年に公開されました。
古代ローマ帝国の浴場設計師が現代日本にタイムスリップし、日本の風呂文化を学んでいく姿を描いたコメディ映画です。
監督は「のだめカンタービレ」の武内英樹で、阿部寛が仕事中毒の浴場設計師ルシウスを演じて好評でした。
市村正親、北村一輝ら日本が誇る「濃い顔の俳優たち」の名演でも話題になりました。
考察やトリビアを交えながらご紹介していきましょう。
テルマエ・ロマエ(2012年)
紀元128年、ローマ帝国。ハドリアヌス帝は、巨大なテルマエ(公衆浴場)を建設することで民衆の支持を集めていた。
生真面目な性格で古き良きローマの風呂文化を重んじる浴場設計師のルシウス(阿部寛)は、テルマエで溺れ現代日本にタイムスリップしてしまう。
そこで出会った風呂をこよなく愛する老人たちや漫画家志望の真実(上戸彩)ら「平たい顔族(=日本人)」の進んだ風呂文化に衝撃を受ける。
古代ローマに戻りそのアイデアを用いた斬新な浴場作りで話題となったルシウスは、帝からも絶大な信頼を寄せられるようになる。
そんな時、帝の側近アントニヌスが失脚。ルシウスは、日本からタイムスリップして来た真実から、このままでは歴史の記述が変わってしまうと聞く。
ルシウスはプロの浴場設計師としてアントニヌスの失脚を阻止する事はできるのか…。
テルマエ・ロマエ(ネタバレ・考察)
「テルマエ・ロマエ」は、公開されたとたん日本中で大ヒット!観客動員数500万人、興行収入60億円という凄まじい記録を叩き出しました。
鑑賞する上で知っておくと楽しめる笑えるポイントをお伝えしていきます。
抱腹絶倒のルシウスの微妙な勘違い
この映画の笑えるポイントは、何と言ってもルシウスのキャラクターです。
ルシウスは当初自分がタイムスリップしたとはわからずに、平板な顔の日本人をローマの奴隷たちと思い込み勝手に「平たい顔族」と呼びます。
現代のシャワーを「動物の腸のような物が繋がれている」と形容します。
ジャグジーの風呂を「地下で奴隷が息を吹きかけて泡を作っている」と誤解します。
彼の認識は事実とちょっとズレているのですが、そのズレ具合・微妙な勘違いが笑えるのです。
映画のジャンルとしては、全く異なる文化圏にやってきた主人公のトンチンカンな言動を面白おかしく描いた「カルチャーギャップ・コメディ」といえるでしょう。
阿部寛の演技
阿部寛が、思い詰め過ぎるルシウスを演じて秀逸です。
自分の浴場設計の斬新さの無さに悩んでいたルシウスの、現代日本の文明の高さに恐れをなす様子があまりにも大げさ過ぎて笑えます。
阿部寛が真剣に悩めば悩むほど大げさになり面白くなっていくのです。
阿部寛は見た目もローマ時代の男性彫像にそっくりで、ローマ人そのものに見えます。
古代ローマ人を日本人が演じる
もう一つの笑えるポイントはやはり「古代ローマ人を日本人が演じている」というところでしょう。
本来なら古代ローマ人には本物の有名外国人俳優をキャスティングするのが普通です。
しかし、そんなことは予算の関係もあって不可能なので、なんと「顔の濃い俳優を揃える」という荒技で、この難局を乗り切ってしまいました。
「これなら登場人物が外国人でも全部日本人俳優で撮れる!!」この発想は素晴らしいと思います。
そういうわけで、この映画のために主演の阿部寛を始め、市村正親、北村一輝、宍戸開ら顔の濃い俳優が集結しました。
「誰の顔が一番濃いか?」選手権
阿部寛によると現地では「誰の顔が一番濃いか?」という話題で議論が白熱したといいます。
「お前の方が…」とか「お前に言われたくないよ」と言い合っていましたが、そんな男たちの様子にヒロイン・真実役の上戸彩は「みんな一緒だよ」と心の中で思っていたそうです。
そして、「濃い顔の日本人俳優たち」は、素晴らしい重厚な演技を見せるではありませんか!
映画を観ているうちに、彼らが本当のローマ人であるかのように思えてきます。
ルシウスの成功
ルシウスの認識はちょっとズレているのですが、事実を的確に捉えていて、上手にローマの公衆浴場に応用します。
驚愕した日本の風呂文化を古代ローマの風呂に取り入れて成功していくのです。
日本の銭湯にあった壁画の巨大な富士山をイタリアのヴェスヴィオ火山に変えて描き、脱衣かごやフルーツ牛乳を作りました。
また、狭い所にバスタブを執念で設けた現代日本の「家風呂」に感動したルシウスは、公衆浴場に行きづらい老人の家に家風呂を、一人で洗髪できるようシャンプーハットを作って喜ばれます。
ルシウスとハドリアヌス帝の絆
さらに、ルシウスはハドリアヌス帝のために人力によるジャグジー風呂・ウォシュレットを作り、日本で取得した種で栽培したバナナを食べさせるなどして、帝の信頼を得ます。
なぜそんなにルシウスは帝に尽くすのでしょうか。
それはローマ帝国を誇りに思うルシウスが、民衆からは暴君だと思われているハドリアヌス帝の「ローマを愛する心」に気付いたからです。
その二人の絆、男と男の友情には感動します。
時間と空間を超えた心のふれあい
しかし、それらの成功は、単なる「平たい顔族」の真似で、自分の実力によるものではないとルシウスはまた悩みます。
自信をなくし、卑屈になったままです。
そして日本からタイムスリップしてきた真実にその気持ちを打ち明けます。
しかし、真実に、「あんたがタイムスリップしたのは悩んであがいた結果でしょう?ならばそれがあんたの導き出した答え」と言われ救われるのです。
もっと自分のしてきた仕事を誇っていいのだという境地に辿り着きます。
奥さんとはうまくいかなかったけれど、自分の事を分かってくれる真実に癒されるルシウス。
そんな時間と空間と人種を超えた魂のふれあいのシーンに心を打たれます。
真実って天才?
真実は漫画家志望で、アシスタントをしている漫画家に自分の作品を見てもらいますが才能がないと言われ、派遣の仕事もクビになり、実家の温泉宿にスゴスゴと帰ってしまいます。
しかし、ルシウスに出逢って恋してから、その実力をどんどん発揮していくのです。
まず図書館からローマ史の本を大量に借りてきて猛烈に勉強します。
勉強で得た知識から、自分のタイムスリップにより歴史が変わってしまう事に気が付いてルシウスに伝えるのです。
また、ルシウスが作った風呂場に、言葉を使わずにイラストだけで「入浴の心得」を描いて掲示し、漫画家としての腕を見せます。
そして、ルシウスと話すためにラテン語を寝ないで勉強してマスターするのです。
ラテン語は英語のbe動詞に相当する動詞だけで67種類もあります。
名詞だけでも単数形、複数形で10個の活用があり、形容詞は単数形、複数形で10個、性によって3パターンがあるので合計で30パターンの活用があるそうです。
真実はそんな難しい言語をマスターしてしまったのです。
あの名門の撮影所でロケ
この映画では、背景の古代ローマの建物群を壮大な規模で観る事ができます。
これらの建物はCGではなく、美術セットだというのです。どこでロケされたのでしょうか。
日本の温泉施設のロケ地もご紹介しましょう。
チネチッタ(イタリア)
チネチッタはイタリア・ローマ郊外にある映画撮影場所です。
1930年代に建設され、「ベン・ハー」や「クレオパトラ」などの超大作映画が製作された由緒正しい撮影所なのだそうです。
イタリアテレビ局が撮影したローマ時代のドラマのオープンセットをそのまま使うことができて幸運だったと、監督は言っています。
「テルマエ・ロマエ」では、1,000人のイタリア人をエキストラとして投入し、1週間かけて撮影に挑みました。
「バカバカしい映画を豪華に撮る」からこそ面白い、という監督の心意気が感じられますね。
銭湯・稲荷湯(東京都神田)
壁面には富士山が描かれ昔ながらの温泉という風情が漂っています。
皇居ランをするランナー達が多く利用するそうです。
劇中で、ルシウスが初めてタイムスリップした場所になります。
昭和の時代を感じさせる古き良き銭湯で、タイムスリップ先として打って付けですね。
TOTO 東京センターショールーム(東京都代々木)
最新のバス・トイレ商品を見て体験できるショールーム。
劇中で、真実が派遣社員として勤務していたショールームです。
ショールームのバスタブにルシウスが突然タイムスリップして来たので、真実が職場に男を引き入れていると誤解されクビになります。
ルシウスがウォシュレットを初体験する記念すべきショールームです。
熱川バナナワニ園(静岡県)
東伊豆にある施設でワニと熱帯性植物を扱った動植物園です。
劇中で、ルシウスが、見合い中の真実をお姫様抱っこしたシーンで使われています。
那須温泉郷・北温泉(栃木県)
真実の実家として使われた場所です。
古い建物は江戸時代から存在する歴史あるもので、多くの湯治客が訪れる有名な温泉郷になります。
風情のある内装が日本のホスピタリティを感じさせ、この映画にピッタリですね。
伊香保温泉(群馬県)
群馬県渋川市伊香保町にある温泉で、群馬県を代表する温泉の1つとなっています。
温泉と共にその周辺の町と石段も有名で、劇中ではルシウスが猿にバナナを盗られて追いかけるシーンで使われていました。
俳優の阿部寛が伊香保温泉で、猿を追いかけたと思うと、笑ってしまいますね。
海外の評価
この作品は海外でも公開されました。
2012年4月にイタリアで開催された第14回ウディネ・ファーイースト映画祭では、ネット投票による「マイ・ムービーズ賞」を受賞。
それにより、イタリア全土で公開されました。
2012年9月、カナダ・トロント国際映画祭のメイン部門、ガラ・プレゼンテーションに正式招待され、阿部寛、上戸彩らがレッドカーペットを歩いたのです。
他にも、フランス、スイス、モナコ、韓国、香港、マカオで公開されました。
好評だったようで「笑わずにはいられない作品」という評価の声が聞かれたという事です。
震災とテルマエ・ロマエ
イタリアでのクランクインは2011年の3月14日の予定だったそうです。東日本大震災の3日後でした。
多くのスタッフは1週間前に現地入りしていたそうですが、俳優陣と一部のスタッフは前日に入る予定だったので、地震の直後で成田から飛行機は飛ばず、日本に足止めされてしまったのです。
チネチッタ・スタジオにかなりの金額を払って契約したのに、俳優陣が行けず撮影ができないので、絶体絶命のピンチに陥ったといいます。
スタッフが2日間徹夜をして関空からの飛行機を手配し、彼らは何とかイタリアに行く事ができました。
監督によると、現地で毎日のように報道される日本の様子に、イタリア人たちが心配してくれたといいます。
「平たい顔族」の老人たちが、自分達には何のメリットもないのに一生懸命オンドル小屋を作るシーンは、震災で懸命にボランティア活動が行なわれているのを重ね合わせて撮ったそうです。
「この映画を観た日本のお客さんが、日本人としての誇りと自信を持って生きていけるようになってくれればいいなと思った」と語っています。
ハドリアヌス帝の別荘は実在した?!
バイアエのハドリアヌス帝の別荘は実在しました。
ルシウスは架空の人物ですが、劇中でルシウスが建築したとされる風呂がある場所です。
しかし残念な事に、その別荘は4世紀に火山の噴火により海底に沈みました。
ティボリにあるもう一つのハドリアヌス帝の別荘には、「大浴場」の建物も廃墟ながら残っています。
冷浴室・熱浴室などに分かれていて、体育場や休憩室もあったそうです。
お約束のオペラ歌唱
タイムスリップする時は、オペラのアリアが歌われるのがお約束です。
タイムスリップも回を重ねるにつれ、アリアを歌う男性歌手がうっかり休憩していたりと、だんだんタイムスリップ時の演出が凝っていくのが面白いですね。
また、タイムスリップ時のみでなく、ストーリーの山場でもオペラのアリアがBGMとして流れます。
トゥーランドット「誰も寝てはならぬ」、リゴレット「女心の歌」、トスカ「星は光りぬ」と格調高く名曲揃いです。
「バカバカしい映画を豪華に撮る」というこの映画にぴったりのBGMとなっています。
ハドリアヌス帝の神格化を実現せよ
戦場にいるハドリアヌス帝に会いにきたルシウスは、アントニヌスからの伝令だと偽り、ある提案をします。
それは、疲労困憊している兵士たちを温泉で癒し、ローマ軍を勝利に導くため、戦場にテルマエを設置するという提案でした。
この作戦が成功すれば、アントニヌスが評価され、彼の左遷を防ぐことができます。
神格化とは
ハドリアヌス帝の神格化は、帝亡き後、後を継いだアントニヌスが、元老院に提案して実現するという歴史的事実があるのです。
神格化されないと、元老院に嫌われているハドリアヌス帝の功績は抹消され、「愚かな皇帝」という烙印を押されてしまいます。
もし、アントニヌスが失脚したら、後世まで帝の功績が伝わらず歴史の記述が変わってしまう事になるのです。
帝を敬愛するルシウスは、何としてもアントニヌスの失脚は阻止すると心に決めます。
オンドル小屋を作る
そんな折、なぜか真実の父・修造と仲間の老人たちが古代ローマにタイムスリップして来ました。
テルマエを建設していると真実から聞いた修造は、オンドル小屋を作ったらいいのではないかと提案します。
オンドル小屋とは、地熱を用いて床下暖房を用いた小屋で、テルマエを建設するよりも遥かに早く完成できるのです。
帝によって称えられる
ルシウスや修造たちは、オンドル小屋を何軒も建設していきます。
そして、ローマ軍の兵士たちの疲労や怪我も回復し次々と兵士が戦場へ戻り、戦争はローマ帝国の勝利に終わりました。
帝は、広場で戦勝をアントニヌスによるものだとローマ市民たちの前で褒め称え、彼の左遷は回避されます。
そして、帝がルシウスも勝利に貢献したとしてその功績を称えました。
ルシウスは、卑屈にならず遠慮なくその栄誉を受け、帝の前にひざまずきます。
すべての道はローマに通じる
タイムスリップの仕組みとして涙を見せると元いた時代に戻れるようで、泣きだした真実が「また会えるかな?」とルシウスに聞きます。
「もちろん。すべての道はローマに通じているのだから」とルシウスが答えるのです。
ここで世界史の授業で憶えたアッピア街道についての文言が出てくるとは思いませんでした。
現代日本に戻った真実は、もう一度漫画家への道を目指す決心をします。
やりたい仕事に邁進するルシウスに逢って刺激されたのでしょう。
そんな真実の前に現れたのが、6回目の日本へのタイムスリップをして来たルシウスだった…というところで映画は終わりとなります。
ラストのBGMはやはりオペラの曲で、ヴェルディのアイーダ「祖国に栄光あれ・凱旋行進曲」でした。
まとめ
以上、「テルマエ・ロマエ」のネタバレ・考察、トリビアを紹介してきましたが、いかがでしたでしょうか!?
微妙な勘違いが笑える本作は、バカバカしさ満載で、歴史あり、友情あり、恋ありの充実した内容になっています。
ぜひ、ローマと日本の風呂文化に浸って思う存分笑ってください!!