
「パルプ・フィクション」は1994年に公開された、クエンティン・タランティーノ監督の代表作品です。
クライムムービーを時間軸が前後する群像劇に仕立て上げ、魅力的なキャラクターと鑑賞後に気持ちよさを覚えるような演出で多くのファンを生み出しました。
映画の良さは批評家たちからも評価され、カンヌ映画祭でパルム・ドール(最高作品賞)を獲得したのです。
アカデミー賞でも脚本賞を獲るなど、タランティーノ監督の大きな飛躍に繋がりました。
また作中に登場する謎は明かされておらず、ファンの間でもいまだに議論されるほど愛されています。
クライムムービーのバイブルである「パルプ・フィクション」に登場するシーンを紐解きながら、より楽しめるように考察していきましょう。
パルプ・フィクション(1994年)
マフィアの殺し屋やボスの妻などが織りなすくだらない話”パルプ・フィクション”を描いた群像劇。
マフィアのボスから彼の妻ミア(ユマ・サーマン)のお目付けを頼まれたヴィンセント(ジョン・トラボルタ)は誘惑に負けないように自分をコントロールしようとする。
だが、ヤク中のミアがトラブルを起こしてしまい、ヴィンセントはピンチに陥ってしまう…。
一方、八百長試合を反故にしたボクサー・ブッチ(ブルース・ウィリス)は恋人と逃走を図る。
だが恋人が先祖代々受け継がれてきた金時計を忘れたと知り、マフィアが待つ自分のアパートへと引き返すのだった。
パルプ・フィクション(ネタバレ・考察)
「パルプ・フィクション」はファンならずとも知っておきたい、トリビアにあふれています。
映画ファンならすぐ話題に使える小ネタを、ピックアップしてお届けしましょう。
Fワードの数が多い
”最も多くFUCKという言葉が使われた映画一覧”を検索すると、上位に「パルプ・フィクション」が入っているのが分かります。
154分に265回のFUCKが使われているため、1分間に1.72回Fワードが出てくる計算になるので、かなり多いです。


聖書の文句は映画からの引用
ジュールスが相手に告げる聖書の引用”エゼキエル書 第25章17節”ですが、これはタランティーノが敬愛する「ボディガード牙」の冒頭に登場する解説文です。
千葉真一の主演作である「ボディガード牙」は全米公開の際にジュールスが告げるセリフを冒頭に付け加えています。
「私が主であることを知るであろう」という部分が、「ボディガード千葉である」になる部分を除けば同じになるのです。


ブッチの選ぶ武器は過去映画へのオマージュ
ブッチがマーセルスを助けるために質屋の武器を漁りますが、次々と武器を見つけそのたびにパワーアップしていきます。
このパワーアップは、過去映画に対してのタランティーノ監督からの愛情を示しているのです。
ハンマーは「13日の金曜日パートⅡ」、バットは「ウォーキング・トール」、チェーンソーは「悪魔のいけにえ」、日本刀は「子連れ狼」のオマージュになります。
映画オタクのタランティーノ監督らしい演出といえるでしょう。
バンクシーも影響を受けた
謎に包まれたストリートアーティストのバンクシーも、「パルプ・フィクション」を好んでいるようです。
作品の中の1つが、ヴィンセントとジュールスに銃の代わりにバナナを持たせたイラストを描いたものになっています。
オリジナルイラストはロンドンのオールド・ストリート駅近くの壁面に飾られているのです。
トロフィーは強奪された
ミアとヴィンセントはツイスト・コンテストで優勝したと思われがちですが、ブッチが逃走するタクシーのラジオでトロフィーが盗まれたと放送されています。
2人はギャングらしくトロフィーを強奪したのです。
優勝したペアのダンスが自分たちよりイケてるとは思えなかったのだと考察します。
シーンごとの時系列を整理して考える
時系列をいじって観客を翻弄するのが「パルプ・フィクション」の特徴です。
本作の登場により「メメント」(2000年)などの時系列ミステリが生まれたことを考えると、その功績は計り知れません。
ですがあえてストーリーを時系列通りにし、不明な点を明らかにしていきたいと思います。
ブッチの少年時代
ブッチが幼い頃、父がベトナム戦争で捕虜になり、父の友人(クリストファー・ウォーケン)が尻の穴に隠し通した曽祖父の形見である金時計を受け取るシーンがあるのです。
いかに金時計が重要なアイテムであるかをトピックとして切り出すことで、ブッチの理由付けを強固なものにしています。
映画の構成では後半の頭で、ブッチの試合前のうたた寝で見た夢ということになっていますが、時系列的に起きたこととしてカウントすると、最初はこのエピソードでしょう。
ヴィンセントとジュールスの会話
フランスでのマクドナルドの注文について語るアムステルダム帰りのヴィンセントと、先輩ギャングのジュールス。
アタッシュケースを見つけるシーンと、トイレに隠れていたチンピラが銃を乱射して全弾外すシーンが順序としてここに来ます。
発砲もありましたが、無事にアタッシュケースを取り戻すことに成功しました。
ここを構成上、”プロローグ”と後半にくる”ボニーの一件”に分けることで、死んだヴィンセントが蘇ってくるかのような演出になっているのです。
ヴィンセントの失敗、そして朝食へ
情報屋マーヴィンを車に押し込んでドライブしている最中に、銃が暴発してマーヴィンが死んでしまいます。
血まみれになった車を処理するべくMr.ウルフが車を飛ばして駆けつけるのでした。
ハーヴェイ・カイテル演じるMr.ウルフが後半に出てくるちょい役のキャラクターでありながら、印象的な腕前を見せつけるのがこのシーンのポイントです。
最終的に、無事に車を処分した2人は朝食を摂るためにダイナーへ向かいます。
パンプキンとハニー・バニーの災難
オープニングシーンで強盗を始めるパンプキンとハニー・バニーの2人ですが、そこにはプロの殺し屋であるジュールスが居合わせました。
パンプキンを座らせたジュールスは、チンピラの銃弾が外れたことに奇跡を感じたと告げ、命を奪わずに金を与え開放します。
構成上はダイナーをジュールスとヴィンセントが店を出るところでエンドクレジットになるので、ヴィンセントは生きているのではと勘違いしそうになります。
ですが時系列を整理すれば分かるように、これは1日目の出来事なので、2日目に銃撃されたヴィンセントは助かりません。
構成上でここをラストシーンに持ってくるあたり、監督はバッドエンドではなく一見ハッピーエンドに見せたかったように考察します。
ブッチの八百長談義
マーセルスとブッチが八百長の話をしている所に、アタッシュケースを持ったヴィンセントとジュールスが帰還します。
アタッシュケースの任務はこれで達成です。
スーツで襲撃した2人がTシャツ短パンで出てくるので、視聴者が違和感を最初に感じるシーンではないでしょうか。
こういったシーンの錯覚に、タランティーノ流の「パルプ・フィクション」を楽しむトリックが隠されています。
ヴィンセント、ヘロインを持ってミアの相手をしに向かう
売人の所によってヘロインを入手し、ついでに1発キメてからマーセルスの妻ミアを迎えに行くのです。
「ジャック ラビット スリムス」で5ドルのシェークを飲み、食事を楽しみ、ツイストコンテストに出ます。
構成上は序盤の山場として、ツイストコンテストのシーンが脳裏にしっかりと焼き付くのです。
ここは文句なしにかっこいいシーンとして、「サタデー・ナイト・フィーバー」のオマージュとして描かれています。
ミアのトラブルと対応
ミアはヴィンセントのヘロインを勝手に吸引してしまい、オーバードース(過剰摂取)で心肺停止状態になります。
マーセルスにバレたら殺されるとヴィンセントは必死に売人の家にミアを届け、アドレナリン注射でミアを助けることに成功し、今夜のことは秘密だと約束します。
これが1日目の夜になり、視点はヴィンセントからブッチへ移るのです。
一方ブッチは
ブッチは八百長試合で相手を殺すほどノックアウトし、試合会場から逃亡します。
逃亡中のラジオで、ツイストコンテストのトロフィーが盗まれたことが放送されるので、同じく1日目の夜でしょう。
恋人ファビアンのもとに帰り、一晩休みます。
唯一、時間の経過がしっかり描かれているシーンなので、ここを軸に観ておくと解き明かしやすいです。
ブッチとマーセラスの災難
2日目の朝、ファビアンが金時計を置いてきたことに激怒したブッチは、追手がいるであろう自分のアパートに向います。
自宅のキッチンで短機関銃を見つけ、トイレに入っていたヴィンセントを射殺するのです。
車で移動する途中でマーセラスと遭遇しもみ合いになりますが、入り込んだ質屋で拘束され、変態の質屋はマーセラスを犯します。
事件の最期
脱出したブッチは見張りを黙らせ、一度は見捨てようとするものの、引き返し武器を見つけマーセラスを救出します。
マーセラスはこのことを恩義に感じ、八百長の件はチャラにしてやると言うのです。
代わりに、このことは口外無用、今日中に街を出て二度と戻るなと告げられて、ブッチはファビアンと街を出ていきます。
ブッチとジュールスは生存し、ヴィンセントは死亡という結果で幕が閉じるのです。
なぜこの構成になったかを考察
構成上ではプロローグ(強盗カップルとギャング2人)→ヴィンセント・ベガとマーセラス・ウォレスの妻(ミアとの夜)→金時計(ブッチの件)→ボニーの一件(ギャング2人の掃除話)→エピローグ(ギャング、強盗を開放し店を出る)と話が繋がります。
プロローグとボニーの一件、エピローグと別れているのがポイントで、ここをわざと別構成にしたことで時系列を変化させ、くだらない話を面白く構成したのです。
適度に主人公であるパンプキンとハニー・バニー、ヴィンセントとジュールス、ブッチをバランスよく登場させて、マーセラスを軸にキャラクターを動かすという手法になります。
この脚本をきっちり編集で映像化することによって、観客に謎解きを与えつつ、回答もきちんと提示している点が、「パルプ・フィクション」の優れたところです。
アタッシュケースの謎だけではなく、見たものが語らずにはいられないような作品を作り上げた監督は只者ではありません。
ヴィンセントとトイレの関係
本作ではヴィンセントがトイレに入るとトラブルが起きる法則があります。
ヴィンセントと呪われたトイレに関してのシーンを確認していきましょう。


ミアのオーバードース
ボスであるマーセルスの妻・ミアのお守りをして送り届けたとき、誘惑に負けないようトイレで自分に言い聞かせている間に、ミアはヴィンセントが持っていたヘロインをオーバードース(過剰摂取)してしまいます。
トイレに長居していなければこんな不幸は起きなかったでしょう。心肺停止状態のミアを死なせたらボスに何をされるかわかりません。
必死のヴィンセントはヤクの売人宅に乗り込み、アドレナリン注射をミアの心臓に打ち込むことで事なきを得ました。
パンプキンとハニー・バニーの強盗騒ぎ
ジュールスと共にアタッシュケースを取り戻したヴィンセントは朝食を摂るためにダイナーに入ります。
そこのトイレに籠っている間に、パンプキンとハニー・バニーが強盗を始めてしまいます。
ジュールスが状況をコントロールして犠牲者は出ずに済みましたが、ヴィンセントとトイレの相性の悪さは運命的ですらあります。
ブッチ宅での射殺による最期
マフィアを裏切ったボクサーであるブッチを追うため、ブッチ宅で見張っていたヴィンセントですが、トイレの中で漫画を読んでサボっているときにブッチが帰宅します。
短機関銃をキッチンに置きっぱなしにしてトイレに入ったことで、ブッチに銃を奪われた状態でトイレから出ることになるのです。
見逃されるはずもなくブッチによって射殺され、ヴィンセントは死亡し退場となります。
アタッシュケースの中身はなんなのか
「パルプ・フィクション」の劇中でアタッシュケースの中身を見た人間は、例外なくうっとりとした表情になります。
このアタッシュケースの中身については諸説ありますが、諸説取り上げつつ考察していきましょう。
マーセルスの魂説
巷で話題になったのが、”マーセルスの魂”説です。
アタッシュケースのナンバーロックが”666”という悪魔の数字であることと、マーセルスの後頭部に絆創膏があったことから、悪魔に魂を抜かれたのでは?と、この噂が流れました。
ですがマーセルスの後頭部の絆創膏はカミソリ傷を隠すためのものであることが分かり、タランティーノ監督自身が否定したため、この説は消えたのです。
サミュエル・L・ジャクソンの「真に望むもの」
ジュールス役のサミュエル・L・ジャクソンがタランティーノ監督にトランクの中身を訪ねたとき、「お前が真に望むものだよ」と答えたそうです。
サミュエル自身もこの問いかけに対して、明確な答えは出していません。
ただ、パンプキンがアタッシュケースを見るシーンが入りますが、「それは本物か?」と聞いているのがポイントです。
空想的なものでは”本物かどうか”は聞かないと思うので、ありえないほど巨大なダイヤであると筆者は推測します。
謎にすることで語り継がれるのを想定したのではないか
四半世紀が過ぎてもトランクの中身は話題になり、いまだに議論されています。これこそが、タランティーノ監督の狙いだったのではないでしょうか。
映画ファンが映画について語る時の楽しさを知っている彼だからこそ、話題になる要素を埋め込んだのだと思います。
まさに、監督の思惑通りになったのです。
まとめ
トリッキーなストーリー展開と、観るものを夢中にさせる軽妙なトーク、ちょっとしたグロテスクシーンと大人が軽く嗜むのには最適な映画といえます。
映画ファンであれば1度は見て、見終わったあとにああだこうだと語り合ってほしい、そんな作品なのです。
視聴済みの方も改めてチェックして、トランクの中身について思いを馳せてみてはいかがでしょうか。