「キューブ」は謎が多層構造になっており、物語が進むと解明される「ある法則」に従って組み立てられていることから、謎が明らかになる終盤でスッキリできます。
それと同時に、登場人物の緊迫感を重視したために、提示されている謎やキャラ設定にズレが発生し、作品の出来とは別に議論のタネになりました。
一定の法則を提示しながらも、最終的には雰囲気優先でルールを捻じ曲げた本作。
「キューブ」の中で案内人として数学の知識を担当しているレヴンのおかしな点や、数字による謎の仕組みと問題視されている矛盾についてお伝えしていきます。
キューブ(1997年)
レヴンは数学を専攻する女子学生で退屈な毎日を送っていたが、ある日突然、見たこともない立方体の中で目を覚ます。
周囲には同じく、閉じ込められた際の記憶があやふやな男女が。
脱獄のプロだと語る男が脱出を試みるも、罠にかかって死んでしまう。
全員が持ち物をすべて没収されているにも関わらず、レヴンの眼鏡だけが残されていた事実によって彼女が謎を解くカギを握っていることが解る!
立方体を繋ぐ通路に刻まれた、3つの3桁の数字に気づいたレヴンは、この数字に一定の法則がありルールに従えば脱出できると考える…。
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素数の判断が遅すぎる
レヴンが立てた第1の考察は「素数がある立方体にはトラップがある」というものです。
ですがレヴンは3桁の数字を確認するとき、2と5で終わる3桁の数字を1つずつ確認し、時間をかけて「これは素数じゃない」と判断します。
2桁以上で2で終わるなら必ず2の倍数、5と0で終わる数字は必ず5の倍数になるので、1の桁に2と5があった瞬間「素数じゃない」と判断できるはずなのです。
しかしレヴンは最後の数字を確認するまでに相当な秒数をかけているため、素数を理解していない人のように見えてしまいます。
すべての桁の数字を足し算して(例:801なら8+0+1で9)、出た数字が3で割り切れればその数字が何桁であろうとも3の倍数という判別法もあるのですが、レヴンは使いません。
そもそも1桁~3桁まで使われているとしても、3桁までの素数は全部で168個しかないため、数学を専攻していればこのあたりの基礎知識はあるでしょう。
数字を解読する描写は必要なのですが、参照している数字が明らかに素数でないため、レヴンの頭の良さをアピールするシーンで反対のイメージを抱かせてしまっています。
3桁の因数の計算は天文学的ではない
レヴンが立てた第2の考察は、「因数が1種類の数字があったらトラップがある」というものです。
因数とは数字を分解した時に掛け算などで表される、小さい数字のことを指します。
たとえば121という数字があったら11×11のため、因数は1種類(11のみ)になり、トラップがあることになるのです。
レヴンが最初に考察した「素数がある場合罠がある」は「因数が1種類の場合罠がある」という考察を内包するので、謎の構造としては良く出来ています。
ですがハロウェイに「答えは出た?」と聞かれてレヴンは「天文学的数字よ!」といって逆上してしまうのです。
実は3桁の因数分解はパターン化できるため、数学を専攻していない人でも意外と簡単にできます。
まず31より上の素数を掛け合わせると合計が4桁になるため31以下の素数を使い、対象となる数字を31以下の素数(2,3,5,7,11,13,17,19,23,29,31)で割っていけば、因数を出せます。
多少時間がかかりますが、決して天文学的数字ではありませんし、そう表現するにはいささか難度が低いです。
数字の因数を瞬時に計算できるカザンは才能がありますが、困難な状況を描くためのセリフが過剰なため、数学好きの観客から文句を言われるようになりました。
立方体は17,576個もない
キューブの外殻を設計したワースの告白と数字の法則により、4メートル四方の立方体が26×26×26、つまり17,576個あると計算して絶望する一行。
レブンはキューブに刻まれた3つある3桁の数字をそれぞれ足すことで、立方体の座標となることを解明しますが、立方体が移動していることにも気づきます。
全部の空間に立方体があると移動が物理的に不可能なので、ある程度の空き空間が必要です。
つまり、移動できる立方体の数はそんなに多くないため、絶望する必要はないのです。
レヴンの「急いで!」という言葉に意味はない?
さらにレヴンの計算によると、ある法則に従って立方体は移動しており、3回移動することで立方体は元の座標に戻るといいます。
この移動の法則はかなりアバウトな計算で行われていて、3つある3桁の数字は、中央の数値を無視して計算しているのです。
このルールに従うと、別の座標にある2つの立方体が同じ座標に配置される式が成立するため、理論が崩壊します。
それを黙認した上でも、クライマックスでカザンを連れ戻すためにワースが移動しているとき、「次の移動で出口につながるから急いで!」と言うのは変です。
目標とする立方体が3回の移動で出口に繋がるのであれば、隣接している立方体も同じように移動するので、次のタイミングを待てば脱出できます。
逼迫したシーンを描くために、理論を投げ捨ててしまっているのはもったいないのではないでしょうか。
まとめ
「キューブ」は本当によくできている映画で、シネフィルとしては絶対に1回は見たほうがいい名作であることは間違いありません。
それを理解した上で、視聴していて違和感を覚えるため、追求すべく徹底解析するに至りました。
数学の専門家を呼んで制作に参加してもらったという噂もありますが、脚本家のせいなのか監督のせいなのか、シーンの絵作りを優先したため矛盾が発生したのです。
ですがミスしているところを差し引いても魅力的な映画なので、気になる方はぜひツッコミを入れつつ楽しんでください。