
映画「スマホを落としただけなのに」は2018年11月2日に公開されました。
主演に北川景子を迎え、監督は「リング」「仄暗い水の底から」などのホラー作品を手掛けた中田秀夫です。
恋人がスマホを落とした事をきっかけに、平穏だった日常が狂い、とある殺人事件にまで巻き込まれていく主人公の姿を描いたサスペンス・ムービーとなっています。
今回は「スマホを落としただけなのに」から映画のネタバレ・考察、あらすじや作品の小話をご紹介していきたいと思います!!
スマホを落としただけなのに(2018年)
主人公の稲葉麻美(北川景子)は仕事にも恋愛にも恵まれ順調な毎日を過ごしていた。
そんなある日、麻美の恋人である富田誠(田中圭)がタクシーの中にスマホを置き忘れてしまう。
その事を知らない麻美が誠のスマホに電話をかけると、そこからは知らない男の声が。
びっくりする麻美であったが、「落とし物としてカフェに届けておく」という男の言葉に安堵し、その後スマホは無事、誠の元に戻ってくるのであった。
しかし、その日を境に麻美と誠の周りでは不可解な出来事が起き始める。
同じ頃、丹沢の山中で若い女性の遺体が次々と発見されるという事件が起きる。
遺体にはどれも黒髪の一部分を切り取られ、腹部をメッタ刺しにされているという共通点があった。
刑事の毒島徹(原田泰造)と加賀谷学(千葉雄大)は早速捜査開始に踏み出すが…。
スマホを落としただけなのに(ネタバレ・考察)
映画には必ずといっていいほど、興味深い裏話や小話、トリビアが存在するものです。
「スマホを落としただけなのに」にはどんな小話が存在するのでしょうか?
原作は傑作ミステリー小説!!
映画「スマホを落としただけなのに」の原作は、志駕晃のミステリー小説です。
志駕晃は何とも異色な経歴の持ち主で、ニッポン放送でラジオディレクターを務めた後、50歳を越えて作家デビューを果たしたのだとか!
小説「スマホを落としただけなのに」は2016年の第15回“このミステリーがすごい!”大賞で最終選考まで残りました。
惜しくも大賞は逃しましたが、その面白さが評価され、編集部推薦で出版に至ったのだそうです。
ちなみに、選考時のタイトルは「パスワード」というものでした。
映画と小説では異なる点もありますが、小説を読んでから映画を観たり、映画鑑賞後に小説を読むと、もっと楽しめる作品だといえます。

セルフパロディ満載の映画!?
映画「スマホを落としただけなのに」の監督はジャパニーズ・ホラーの巨匠と呼べる中田秀夫監督です。
中田秀夫監督といえば、映画「リング」の大ヒットで一躍脚光を浴びた監督といえるでしょう。
「リング」は日本だけでなく他国でも一種の社会現象を巻き起こした映画で、ハリウッド版も製作されました。
「リング」といえば一番に思いつくのはやはり“貞子”の存在です。
「スマホを落としただけなのに」の犯人は長い黒髪のカツラを被っており、白いサマードレスを着ています。
この描写は原作にはなく、中田監督が自身で考えたアイデアで、「リング」の貞子を連想させるセルフパロディの意味がこめられている描写なのです。
また「リング」の前身となる中田監督のホラー映画「女優霊」でも長い黒髪で白いワンピースを着た幽霊が登場します。
「スマホを落としただけなのに」には幽霊は登場しませんが、今作品は「リング」や「女優霊」を連想させる要素が詰まっている映画といえるでしょう。


この映画に恐怖を感じる理由とは?
本作品は、幽霊が出てくるようなホラー映画ではありません。
しかしある種の“恐怖”を感じるのは何故なのでしょうか?
そこを考察していきます。
スマホという身近なものを題材としている
現代人にとってスマホは肌身離せない、貴重品と呼べます。
家にスマホを置き忘れたり、スマホが丸一日いじれない状況になったりすると、妙にそわそわと落ち着かない経験をした事はありませんか?
それだけスマホは現代社会に浸透しています。
“スマホ依存症”という言葉があったり、電車やバスの中でもほとんどの人がスマホをいじっている姿は、もはや当たり前になっている光景です。
そのスマホがある日突然、自分への凶器となってしまったら、「怖い」という言葉ではすまされない程、恐怖を感じるものとなります。
スマホの存在が当たり前となった現代、スマホは便利なツールであると同時に、それを悪用する人物の手に渡ってしまったら、厄介という言葉ではすまされないのです。
人間関係が崩れていく恐怖
この「スマホを落としただけなのに」という映画では、主人公の麻美とその恋人である誠に不可解な出来事が連続して起きます。
身に覚えのないクレジットカードの高額な請求、見られたくない自分の過去の写真の流出、なりすましによるネットストーキングなど次々に麻美達に悲劇が起こるのです。
そして一連のそういった出来事によって、麻美と誠の関係、麻美を取り巻く周囲の人々との間に亀裂が生じ始めます。
それが犯人の狙いなのです。
麻美を孤立させる事で、犯人は自分の不遇な過去と同じ想いを味あわせたいといえます。
長い黒髪だったが故に犯人に狙われてしまった麻美。
犯人は最後の最後までわかりませんが、スマホを落としただけで自分が今まで築いてきた人間関係が一瞬で壊れてしまうのです。
そういった怖さを描いているのがこの作品の一つの特徴といえます。
登場人物が皆、秘密を持って生きている
この映画に出てくる登場人物は、皆どこかに秘密を抱えて生きています。
ラストシーンに向かうにつれ、その秘密は暴露されていく形となりますが、序盤から全員が犯人に見えるような異様な雰囲気を醸し出しているのです。
この映画が伝えたい事とは、結局この世で一番怖いのは、幽霊などではなく“人間”という事を言いたいのではないでしょうか。
信頼していた人が突如豹変したり、人には言えない過去を持っていたりと、この映画にはたくさんの“秘密”が溢れています。
この作品はサスペンスですが、一種のホラー感覚も秘めた映画です。
それは“人の心の中に住むホラー”と呼べます。
今作品は人間の恐ろしさや醜さ、表の顔と裏の顔、過去のトラウマなど様々な要素を持った人間が織り成す上質のホラーなのです。

何故、加賀谷は犯人の居場所がわかったのか?
加賀谷はIT関係の会社を辞め、刑事への道へと進んだ異色の経歴を持つ、新米刑事です。
パソコンを駆使して犯人へと辿り着きますが、何故、加賀谷は犯人の居場所がわかったのでしょう?
似た境遇で育った加賀谷と浦野
麻美と誠を恐怖に陥れ、黒髪の女性だけを狙った殺人事件の犯人は浦野でした。
浦野は麻美の知り合いの部下であり、ITセキリュティのスペシャリストです。
しかし、それは表だけの顔で、麻美の知り合いの部下というのも全くのでたらめでした。
浦野の正体はクラッカーだったのです。
クラッカーとはコンピューターやネットワークを悪用するコンピューター犯罪者の事で、誠のスマホを拾ったのをきっかけに、綺麗な黒髪ストレートの麻美を殺そうと企んでいました。
新米刑事の加賀谷と猟奇的な殺人犯・浦野には共通点があります。
それは幼い頃、実の母親から虐待を受けていた事です。
浦野の隠れ家が廃園となった遊園地であった事を勘で見抜いた加賀谷ですが、これは虐待を受けた彼だったからこそ、見抜けた事なのです。
遊園地は子供と親の象徴ともとれます。
メリーゴーランドに乗って楽しそうに笑う親子のシーンがありますが、このシーンは加賀谷や浦野が“こんな風に愛してほしかった”という理想のシーンなのです。
犯人である浦野の居場所がわかったのは、加賀谷が浦野と同じ辛さを幼い頃味わっていたからといえます。


状況によっては加賀谷も犯人になりうる
似た家庭環境で育った加賀谷と浦野ですが、一方は正義を追い求める刑事に、そしてもう一方は残忍な猟奇殺人鬼へとなります。
逮捕され、取調べを受ける中で浦野は加賀谷に対して「あんたも俺と同じか」という台詞を吐きます。
浦野は加賀屋の幼少期を知っているわけではなく、直感的に加賀谷を見てそう思ったのです。
これは場合によっては刑事である加賀谷も道を踏み外し、浦野のような殺人鬼へとなりうる可能性がある事を示唆しているといえます。
加賀谷の癖として耳たぶを触る癖がありますが、これは母親の愛情を欲している加賀谷の無意識の行動です。
浦野が黒髪ストレートの女性ばかり狙ったのも、腹部を執拗に刺したのもこれには意味があります。
「あんたなんか産まなきゃ良かった」という言葉を浦野に浴びせた母親は黒髪のストレートでした。
そして腹部を刺したのはそこが赤ん坊という生命が宿る場所だからです。
浦野は冷酷な殺人鬼ですが、母親にただ愛してほしかっただけといえます。
しかし、それが人を殺していい理由とはなりません。
そして加賀谷は刑事という職業に就きましたが、いつ自分も同じ状況になるかわからないという不安や葛藤を抱えて生きているのです。
加賀谷と浦野の対比、これがこの映画を興味深くさせる一種のスパイスともなっているといえます。
ラストシーンの意味とは?
この映画のラストは学生と思われるカップルが、スマホを落とした事に気付かずその場を去るというシーンで幕を閉じます。
この演出は次はあなたが標的になるかもしれないという意味を含んだラストシーンなのです。
しかし、このラストシーンが意味するものはそれだけではありません。
この映画の特徴として、サスペンス要素や一種のホラー感覚を描いているにも関わらず、ラストが本当に泣けます!
最後はハッピーエンドで終わるので、そこがこの映画の救いとも呼べるのです。
「スマホってね、宝箱にもなるんだよ」という映画終盤の麻美の台詞が全てを物語っているといえます。
スマホを落としただけで登場人物は様々な悲劇に見舞われますが、人と人との絆はどんなに文明が発展しようが簡単に壊す事はできないのです。
麻美達は一連の出来事を乗り越え、本当の心の繋がりを手に入れたといえます。
スマホの怖さと、人の温かさを表す二重の意味を持つラストシーンと呼べるのです。


まとめ
以上、映画「スマホを落としただけなのに」のネタバレ・考察、あらすじや作品にまつわる小話を紹介してきましたが如何でしたでしょうか!?
この映画には加賀谷刑事を主役とした「スマホを落としただけなのに~囚われの殺人鬼~」という続編もありますので、そちらもチェック必須です!!
スマホという便利なツールの裏に隠された、現代ならではの恐怖を描いたこの映画。
くれぐれも、スマホは落とさないように注意してください!!