ティム・バートンとジョニー・デップという、今となっては黄金タッグとなっている2人が出会うきっかけとなった作品が「シザーハンズ」です。
この2人を語る上では避けては通れない作品といえるでしょう。
手がハサミという特徴を持つ心優しい人造人間エドワードと、人間たちの交流で起きるドラマ展開は悲喜こもごもで観るものに感動を与えるのです。
衝撃のエンディングへと通じるクライマックスへ向けて、何が劇中に秘められているのかをお伝えしていきます!
シザーハンズ(1990年)
昔々、町外れの山の上にある屋敷で孤独に暮らす老発明家は、両手がハサミの人造人間エドワードを生み出し、人間の両手を移植する前になくなってしまう。
一人残されたエドワードだったが、ある日セールスレディのペグが訪れ、エドワードの姿を憐れみ自分の家に招待する。
両手のハサミを使った特技を披露して町の人々と交流するエドワード。だが人間社会で生きていくには彼はあまりに純真で危険すぎた…。
シザーハンズ(ネタバレ・考察)
多くの人に鑑賞され、評価も高い「シザーハンズ」ですが、ヒットにこぎつけるまでにいろいろと苦労があったようです。
今となっては8作ものタッグを生み出しているジョニー・デップとティム・バートンの組み合わせも、今作が初めてでした。
そんな「シザーハンズ」のトリビアについて語っていきましょう。
最初はトム・クルーズが予定されていた
「バットマン」の成功でオリジナル作品を許されたティム・バートンですが、独自の脚本を成功させるために主役は有名どころから選ぶ必要がありました。
オフィス側から最初に候補に上がったのはトム・クルーズだったそうです。
ですがトム・クルーズはハッピーエンドを希望したため折り合わず辞退し、次の候補としてジョニー・デップが選ばれました。
名タッグ誕生の瞬間
主役を熱望していたジョニー・デップと売れっ子俳優を求めていた制作側の意見が合致し選ばれました。
ティム・バートン自体はジョニー・デップをただのアイドルとしか思っていなかったようですが、映画へ取り組む姿勢を見て惚れ込みます。
その後は御存知の通り、数々の作品でタッグを組む関係になりました。
エドワードのビジュアルは公開まで隠されていた
ゴシックな雰囲気を持つ「シザーハンズ」のビジュアルは現在では受け入れられていますが、公開当時は観客に受けるかどうか慎重でした。
それゆえにエドワードのビジュアルは公開されるまで伏せられていたのです。
20億円(2千万ドル)をかけて作られた本作は、結果的に4倍以上の興行収入を収め、ジョニー・デップの出世作となりました。
町は実在する
パステルカラーが印象的な町のシーンは、フロリダ州タンパの近くにあるティンスミス・サークルを借り切って撮影されました。
住人に許可を取り、町をまるごとカラーリングして独特の町並みを作り出しているのです。
ほとんどの家が塗り直されてしまいましたが、現在でも気に入ってそのまま使っている人もいます。
ハサミの手は特殊メイクで完成した
エドワードのメイクと特徴的なハサミの手を作ったのは「エイリアン2」や「プレデター」を手掛けたスタン・ウィンストンです。
彼のアイデアで、エドワードの手には実際のハサミが使われることになりました。このアイデアをティム・バートンは非常に評価し受け入れたそうです。
「シザーハンズ」以降も同監督の「バットマン・リターンズ」や「ビッグ・フィッシュ」でその美術センスを発揮しています。
20世紀FOXのロゴに初めて雪が降った
いままで20世紀FOXのロゴが映画によって演出されたことはありましたが、ロゴに雪が降ったのは「シザーハンズ」が初めてとなりました。
これはアメリカ公開時にクリスマスシーズンでの上映となったことに合わせて作られた、配給会社からの粋なサプライズなのです。
雪は「シザーハンズ」において重要な伏線なので、導入から物語に入り込める演出は素晴らしいといえます。
屋敷の庭がカラフルな理由とは
パステル調な町と対比するかのようにモノクロの屋敷は冷たく、無機質な印象を与えます。
ですがエドワードが手入れしている庭は原色にあふれて実にカラフルです。
この対比の謎に迫っていきます。
エドワードは監督の映し身
エドワードを語る上で監督であるティム・バートンの生い立ちやバックボーンが描かれていることに言及しなくてはいけません。
自閉症の一種であるアスペルガー症候群の兆候が見られるとパートナーから言われたティム・バートンは、若い頃から奇行で知られていました。
ディズニー時代の同僚は、ティム・バートンが口をきけることも分からなかったといいます。
ディズニーから奨学金を受けて美術を学んだ彼ですが、作ろうとする作品が暗いという理由でクビになります。
後にディズニー配給作品を手掛けるなど復縁しますが、この時理解されなかった気持ちは残っていたのでしょう。
理解されない異質なものとしてエドワードは描かれ、監督を写す鏡のように登場します。
町並みと庭の対比
パステルカラーの町並みとその住人は、社交的で明るくにぎやかなイメージですが、深いコミュニケーションは出来ていません。
それの対比となるモノクロの屋敷は、社交性がなく閉じこもっているイメージを感じさせるのです。
ですがモノクロのお屋敷に囲まれたカラフルな庭園は、表面ではわからないエドワードの心が非常に表現力豊かであることを語っています。
これは普通のコミュニケーションは出来なくとも、感性豊かな人間はいるのだという監督からのメッセージに見えるのです。
エドワードが街に受け入れられた理由とは
モノクロの屋敷からパステルの町並みに連れてこられたエドワードは、一躍注目を浴びます。
ペグとその家族、そして街の人達に受け入れられた理由を考察していきましょう。
哀れみと物珍しさ
ペグの優しさが彼を街に連れてきますが、エドワードはコミュニケーションもほとんどできず、手はハサミです。
そんな彼を見て町の人達は珍しいタイプの障害者を見物しているかのように、哀れみと物珍しさの視線を投げかけます。
エドワードは暇を持て余している住人たちの、格好のおもちゃになってしまうのです。
特異な才能に対しての接し方
一見、障害に関して差別なく接してくれる住人に見えますが、その実は興味本位で見物しています。
才能を見せることで評価はしてくれますが、支払うのはクッキーなどで、正しい対価を与えてはくれません。
この無遠慮な視線と態度は、エドワード=ティム・バートンに対しての世間の態度を表現しているのです。
エドワードが持つ才能と恐怖
自身の特徴を活かしたスキルを見せて、町の人からもてはやされるエドワードですが、純真無垢な彼を利用しようとする住人によって貶められます。
彼自身がいかにして追い詰められていったか、どう心情が変化していったかについて言及していきましょう。
才能が評価されて嬉しい
エドワードはそのハサミを使って庭や犬、女性の髪までも綺麗にトリミングします。
その技術を最初に見せるシーンでは野球のラジオ放送で歓声が流れ、得意げな顔をするエドワードが印象的です。
樹木の刈り込み、ペットのトリミング、ヘアスタイリングなどで才能を発揮するエドワードは町の人気ものになりました。
エドワードは自身に怒りを感じている?
一躍人気ものになるエドワードですが、彼に色目を使う男好きの主婦ジョイスの誘いを断ったことで、悪い噂を流されます。
その時期にちょうどキムのボーイフレンドであるジムに騙されて、ジムの父親の金庫を開けようとしたことで逮捕され、町の人からも危険視されてしまうのです。
町の住人たちは手のひらを返したかのように、異物であるエドワードを迫害します。
この時、なぜ迫害されているかをエドワードは理解していたのではないでしょうか。そのうえで、他人に怒りを向けるのではなく、自身の不出来に怒っていたように思えます。
エドワードの変化
本来エドワードは常識も知らず、人を傷つける可能性のある存在です。それをイメージさせるのが黒の革衣装なのです。
ですが町に来たときは、白い服を与えられ、明るく振る舞うのです。白はエドワードの社会への明るいアプローチを指しています。
結果として受け入れられなかったエドワードは白い服を切り裂き、元の黒い革衣装に戻ってしまうのです。
この心情の変化を現している演出が、衣装に現れているので、注目して観てください。
恐ろしいエドワードと恐ろしい住人
ハサミの手で触るものを傷つけてしまうエドワードは恐ろしい存在です。
ですがハサミ自身やエドワードが危険であっても、いかに接するかで危険度は変わっていきます。
それよりも怖いのは、危ないからという思い込みだけで、排除しようとする町の住人です。
そんな差別的な面を持つ町は、社会の縮図として描かれています。
キムに近づけないエドワード
エドワードは自分の手がハサミであることから愛する博士に触ることも出来ず、自分の顔さえ傷つけてしまう事実に恐怖しています。
それゆえにキムへ好意を抱いていても、触れることが出来ないと決めているのです。
まさにハリネズミのジレンマといえます。針を持っていることで好きな相手に近寄りたいけれど、近寄ると傷つけてしまうという現象を指しています。
ゆえに傷つかず最適な距離を取るというのが最適解なのですが、キムはその壁を破り、エドワードを抱きしめます。
この抱擁にはどんな異才にも通じる愛情はあるというメッセージであると同時に、近づきすぎると人は不幸になる、という訓戒を秘めているのです。
エンディングを知る人は、2人がどういう結末を迎えたかわかるでしょう。
エドワードのその後
エンディングでキムへの思いを持ち続けているエドワードが、町に雪を降らせ続けていることが分かります。
このときのエドワードとキムの思いがどのように伝えあっているかを考察していきます。
刷り込まれた愛情を胸に生きるエドワード
自分が愛したキムから、愛していると告げられたエドワードは、その時の記憶を色褪せること無く持ち続けます。
純真な人造人間だからこそ、与えられた愛情を心に刷り込み、永遠に思い続けているのです。
なぜ雪を降らせ続けるか
エドワードにとってクリスマスのあの日の雪は、キムへの告白だったのではないでしょうか。
氷の像を作り、雪を送ることで変わらぬ愛をキムに送り続けているのです。
キムもそれを知っていますが、エドワードとは会おうとしません。
このほろ苦いエンディングが、本作を名作たらしめている理由になります。
まとめ
エドワードとキムの決して結ばれない純愛が涙を誘う本作は、クリスマスの時期に楽しみたい作品です。
エドワードを誘うジョイスのシーンなど、大人にならないと分からないシーンもありますが、一定年齢以上なら誰でも楽しめる作品ではないでしょうか。
初々しさが残る監督の演出とジョニー・デップの演技を堪能してください。