パプリカ 映画

「パプリカ」は2006年に公開された、日本のアニメ映画です。

「千年女優」「東京ゴッドファーザーズ」などを手掛けた今敏監督の遺作として語り継がれています。

原作は筒井康隆の小説で、原作者自ら今監督に映画化をお願いするほどの熱望ぶりでした。

監督が大ファンで、「千年女優」でタッグを組んでいる平沢進が楽曲を担当しており、映像と音楽の融合は特筆すべきレベルになっています。

夢と狂気を映像化するという難度の高い表現が観るものを魅了する、本作の世界観を考察していきましょう。

パプリカ(2006年)

千葉敦子(林原めぐみ)は夢へと潜入できる装置”DCミニ”を使って患者の心を治療するサイコセラピスト・パプリカとして活動していた。

ある日研究所からDCミニが盗まれ、”狂気の夢”を他人に流し込むというテロが発生するようになる。

サイコセラピストの患者である刑事・粉川(大塚明夫)を味方につけ、犯人を追う敦子たち。

だが、次第に”狂気の夢”は他者の精神、そして現実世界へと侵食を始める…。

パプリカ(ネタバレ・考察)

「パプリカ」は独特の映像表現と音楽で世界中のファンから愛されています。

そんな「パプリカ」のトリビアをまとめてみたので、ご覧ください。

クリストファー・ノーランがインスピレーションを受けた

エージェントが夢の中へ侵入して情報を盗み出すという映画「インセプション」を監督したクリストファー・ノーランは「パプリカ」から部分的にインスピレーションを受けたと言っています。

鍵となる登場人物であるアリアドネがパプリカをイメージして作られていますね。
「パプリカ」の監督自身は「パクりだ」と怒っていたようです。

大人が観るべきアニメに選ばれた

女性の裸などが出るためR指定を受けている本作は、アメリカの映画業界誌であるハリウッド・リポーターで”大人が観るべきアニメ映画ベスト10”の8位に「パプリカ」が選ばれました。

奥深い展開、悪夢のようなパレード、魅力的なキャラクターと観るべきところが多く、深いドラマと演出が評価されているようです。

エンディングテーマに姉妹曲が存在する

エンディングテーマは「白虎野の娘」という曲ですが、エンディングクレジットでは「白虎野」という曲名になっています。

これは楽曲を担当した平沢進氏が1つの楽曲の着想から様々なバージョンを生み出す手法をとっているせいです。

「白虎野」から歌詞を変えたり、コーラスをアレンジしたものが「白虎野の娘」になります。

作中で流れる「パレード」も歌詞がついて情景をイメージできる楽曲になっているので、必聴です!

監督の名前が賞になった

国内外の様々な映画祭で作品賞や音楽賞を獲るなど幅広く評価され、より多くの人に感動を与える作品を作るようになった今敏監督。

現在ではファンタジア国際映画祭のアニメ部門に、その名を冠する”Satoshi Kon Award”が設立されています。

劇中で歴代監督作が登場する

劇中に登場する映画館では「PERFECT BLUE」「千年女優」「東京ゴッドファーザーズ」といった今敏の歴代監督作品を見つけることができます。

またオープニングでは「地上最大のショウ」や「ターザン」「ローマの休日」といった名作のオマージュもあり、映画好きを楽しませてくれるのです。

映画を解説している粉川は、黒澤明監督にそっくりです。

「夢見る子供たち」という映画を見て終わる

最後にトラウマを克服した粉川が、映画をおすすめされて映画館に行くシーンで終わるのですが、この時の映画名が「夢見る子供たち」なのです。

今監督が生前撮ろうとしていた最新作が「夢みる機械」という作品で、平沢進の同名曲から着想を得たと思われるタイトルになり、類似点を感じさせます。

監督の逝去により企画はストップし、永久に観られることはないのかと思うと本当に早すぎる死が悔やまれるのです。

パプリカは現実なのか虚構なのか

パプリカは千葉敦子が夢に入るときに作る別人格ですが、パプリカこそが本体で千葉敦子が夢の可能性があると劇中でも指摘されています。

夢も現実もごちゃまぜになるこの世界で、いったいどちらが主人格なのかを探していきましょう。

夢の中で自由に活躍するパプリカ

冒頭で粉川の夢に現れたパプリカは、起きたあともパプリカのイメージを保っています。これは現実世界にパプリカがいると考えてしまうかもしれません。

実はこれはまだ夢の中であり、夢の中で夢を見るというセラピーなのです。

実際はPCを介して繋がっており、パプリカのイメージ自体は敦子が粉川の夢に潜入するときに形作られています。

研究者としてお堅いイメージを持つ敦子

精神医療総合研究所の研究員として働き、DCミニを開発する天才である時田を支える敦子は、開放的なパプリカとは対照的に堅いイメージを持っています。

敦子ははつらつとした内面と時田への思いを持っているにも関わらず、それらを表に出すことができずにいます。

殻をかぶった蛹の状態が敦子で、蝶になったのがパプリカと考えると2人の関係性が分かるかもしれません。

独立するパプリカと敦子

現実と夢が混じり合う世界でパプリカと敦子はそれぞれ意識を持って対面します。これは自己との対話と言えるでしょう。

この夢のような世界の中で時田への思いに気づき、きちんと向き合うという決意ができたのが敦子の成長なのです。

結局はパプリカは夢側敦子が現実側の人格ということで間違いないのですが、もしかしたら我々も夢を見ていて裏返しになっているのかもしれません

敦子は堅物そうに見えて、本当はお茶目な一面を持ったキュートな女性なのですね。

蝶のイメージとメッセージ

「パプリカ」では夢のイメージとして蝶が出てくるシーンがいくつもあります。

この蝶について語っていきましょう。

胡蝶の夢と今敏

蝶の夢、といえば有名な”胡蝶の夢”のエピソードを思い出す方も多いでしょう。”胡蝶の夢”とは中国の思想家、荘子による訓話になります。

蝶になりきって翔ぶ夢を見ているときに目が覚め、自分が「あ、夢だったな。自分は人間だ」と自覚するのですが、その自覚こそが”蝶が見ている夢”ではないかという考えです。

実質はどちらが夢であろうとも、変わりのないことであるという教えで、夢なのか、現実なのかはさほど重要でなく、一続きになっているのだ、と伝えてくれます。

この思想は今敏作品ではよく取り扱われており、「PERFECT BLUE」や「千年女優」ではイメージと現実の境界線が曖昧になっているのです。

捕まった蝶は囚われた精神

終盤で小山内の脳内が映し出され、蝶の昆虫標本が並んでいるシーンが映されます。

これは囚われている精神のイメージとして登場し、そのあと実際に蝶になったパプリカが、小山内に捕まっているシーンに切り替わるのです。

蝶は自由な精神を表しており、パプリカの皮を剥ぐことで中にいる千葉敦子が現れます。

パプリカというペルソナ(人格)を剥がされた敦子は飛ぶこともできず、倒れたままです。

このピンチを救ったのが、夢の世界の壁を破ることに成功した粉川でした。

粉川の乗り越えるべきトラウマとは

粉川は自身の”影”と対峙しています。これは刑事ではなく、映画監督になるはずだった自分というifの存在です。

彼のトラウマは”映画監督になることを諦めてしまった”ことでした。

いかにしてトラウマが解消され、粉川が成長したのかに注目していきましょう。

本当は映画が大好きな粉川

何よりも映画が好きだったはずの粉川は映画を忌み嫌うようになりますが、夢の中では雄弁に映画の技術について語ります。

自主制作映画を撮っていた時期の”自分”と決別してしまったことを後悔し、映画に未練があるため、関わらないようにしていたのでしょう。

トラウマのシーンを突破することで自分を取り戻した

夢の中でパプリカを助けようとしていた粉川は、逃亡する小山内にトラウマを見せられます。

ですがここで引かず、乗り越えて小山内を射撃したことでifの粉川が自分の中に納まったのです。

永遠に完成できなかった映画が完結し、納得のいくエンディングを迎えることで粉川はトラウマを克服しました。

自己との対話で、刑事役を演じていた粉川が刑事になったことを”嘘から出た真”と呼び、嘘も真も大事にすると誓うのです。

粉川は勢い余って夢の中で敦子にキスまでしてしまいます。
夢の中で小山内を殺したことにより現実の小山内も死亡し、ここから夢と現実の境目が消えていくのです。

乾にどうして対抗できたのか

自分が夢の力を使って自由になり、力のある存在になろうとしていた乾は巨人化し、世界をコントロールしようとします。

乾の原動力になっているものと、それにパプリカがどう対抗したかについて考察していきます。

夢を使って現実をコントロールしようとした乾

乾の原動力は妄執であり、不自由で老いた自分が思うままに動くために小山内を乗っ取り、DCミニを使って自分のコントロール下に置こうとしていました。

ですが夢の世界で小山内が死亡したため現実の小山内も死亡し、その精神は奈落へと落ちていきました。

小山内が死んでしまうと自分がコントロールできる肉体が無くなるため、死体を追いかける乾も奈落に落ちていきます。

そこで現実と夢の境目がない世界を知り、自分のイメージで死をコントロールして現実世界を侵略しようとしたのです。

イメージ力で乾の上をいったパプリカ

ピンチのさなか、パプリカは陰陽思想について語ります。

影には光、夢には現、死には生、男には女が対になり、そこにパプリカというスパイスを一振りすれば解決するというのです。

DCミニを活用し、乾に対抗するイメージを作れたのはサイコセラピストの経験が活きている敦子/パプリカでした。

老人に対抗する赤子を作り、吸収することで成長し、大人になることでエネルギーを陰から陽へ転換させ、乾を封じたのです。

クライマックスで新生する巨大な女性像は敦子とパプリカが統合され、一回り成長した姿になりました。

パプリカが伝えたかったメッセージ

「パプリカ」に限らず、今敏作品で伝えられる大きなテーマは”現実と虚構の境目はない”ということですが、これ以外にも伝えられるメッセージがあります。

監督の意匠を紐解いてみましょう。

サイバーテロへの警鐘

いまや情報はクラウドで管理する時代になり、ツールがあれば外部からアクセスできるようになりました。

このむき出しの”外付けの脳”いえる所に、他者が侵入できるとしたら、記憶の抹消や改ざんも容易です。

こういったサイバーテロを想起させるのが、DCミニを使った夢への侵入です。これはPC(端末)とクラウドサーバー(脳)に置き換えて観ることができます

バランス感覚についての言及

インターネット技術やVRなどの娯楽もテクノロジーの発展と共に拡大化しています。

扱い方を間違えずに使えばプラスとなりますが、極端にのめり込みすぎると害になると伝えているのです。

使う人のさじ加減次第ですが、何事もほどほどにしておこうというメッセージが伝わってきます。

登場人物は対になっている

対決するパプリカと乾だけでなく、登場人物はそれぞれ対になっているのです。

敦子と時田はお互いのことを思っていますし、島と粉川は仲のいい友人としてタッグを組みます。

乾と小山内は老人と若者の対比に見えますが、中身は同じです。

美男美女である敦子と小山内はいい組み合わせに思えますが、その感情は一方通行になります。

小山内と時田はそれぞれが敦子のことを思っていますが、敦子だけが欲しい小山内に比べて、パプリカの要素も許容する時田という対比が見て取れるのです。

このように陰陽思想を感じさせる対比を観ることで、より深く「パプリカ」を楽しむコツになります。

まとめ

平沢進の音楽と、筒井康隆の原作を融合させ、全く新しい世界観を作り出した「パプリカ」は映像体験として今までにない感動を与えてくれます。

海外映画批評サイト「ロッテン・トマト」で84%を超える支持を受けるなど、国内外で高く評価されていることがその証拠なのです。

今まで観たことがないようなものを観てみたい、という人におすすめしたい作品になります。

一見の価値は間違いなくあるので、VODなどで極上の時間を楽しんでください。

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