レ・ミゼラブルは、文豪ヴィクトル・ユゴー作の同名小説を原作に、2012年に公開されたイギリス・アメリカ合作のミュージカル映画です。
世界43カ国で上演されて大ヒットを記録した名作ミュージカルを、ヒュー・ジャックマン、ラッセル・クロウ、アン・ハサウェイら豪華キャストで映画化しました。
監督は「英国王のスピーチ」のトム・フーパーです。
この作品は、アカデミー賞3部門(助演女優賞、録音賞、メイクアップ&ヘアスタイリング賞)を受賞、ゴールデングローブ賞3部門(作品賞、主演男優賞、助演女優賞)を受賞しました。
19世紀のフランスを舞台にし、「愛」「許し」「運命の変転」をミュージカルで表現した壮大なドラマです。
逃亡劇の顛末や、珠玉の歌の数々など、この作品の小話、ネタバレ・考察をご紹介していきたいと思います!!
レ・ミゼラブル(2012年)
1815年、パンを盗んだ罪で19年間服役したジャン・バルジャン(ヒュー・ジャックマン)は、仮釈放中に再び盗みを働いてしまうが、司教の慈悲に感銘を受けて改心する。
1823年、執念深いジャベール警部(ラッセル・クロウ)の追跡を逃れ、過去を捨て、モントルイユの有力者となったバルジャンだったが、ジャベール警部に正体を見破られてしまう。
工場で働いていた女性ファンティーヌから7歳の愛娘コゼットを託されたバルジャンは迫るジャベール警部から逃げるようにしてパリへ向かう。
1832年、バルジャンとコゼットは親子として暮らすが、美しい女性に育ったコゼットは革命運動に身を投じる青年マリウスと恋に落ちる。
バルジャンはコゼットのために革命軍に参加し、政府軍との戦闘中に重傷を負ったマリウスを担いで地下の下水道を通って逃げようとする。
そこに立ちはだかったのがジャベール警部だった。バルジャンは過酷なこの世界を生き抜いていけるのか…。
レ・ミゼラブル(ネタバレ・考察)
この映画が公開された2012年は、ユゴーの原作発表からちょうど150年に当たる記念すべき年でした。
ほとんど全てのセリフが歌になっている「レ・ミゼラブル」。
吹き替え無しで演者が歌を担当し、その素晴らしさで観客を魅了しました。
この作品にまつわる小話をご紹介しましょう。
全員が最高のキャストだった
既に舞台公演で絶賛されているミュージカル「レ・ミゼラブル」をあえて映画化する意味はあるのかと思っていました。
監督のトム・フーパーと製作のキャメロン・マッキントッシュは、この作品が成功したことについて、次のように述べています。
「全員が最高のキャストだった。この上ないほどのキャスティングだったからこそ、映画史上に残る作品になった」
「レ・ミゼラブル」最高の俳優陣
- ヒュー・ジャックマン
- ラッセル・クロウ
- アン・ハサウェイ
- ヘレナ・ボナム=カーター
- エディ・レッドメイン
- アマンダ・サイフリッド
- ダニエル・ハトルストーン
「レ・ミゼラブル」はこういった名だたる俳優陣の演技が光る作品になっています。
また、雨に打たれながらの歌唱シーン、巨大な船を囚人たちが引いている場面、激しい戦闘シーンなど、舞台公演ではできない演出にも惹きつけられました。
この作品を観ると、キャスティング、登場人物の描写、迫力ある映像において、トム・フーパー監督の力量が活かされていることがわかります。
キャストたちの努力が不朽の名作を作り上げた
ジャン・バルジャンに扮したヒュー・ジャックマンは、19年間強制労働をさせられた囚人を演じるために、一日3時間の筋トレを続け、身体を絞り撮影に臨みました。
彼は結局、この作品のために15kgも体重を増減したそうです。
また、彼は1990年代後半からミュージカルに多数出演し、2004年と2005年に演劇界で最も権威のある賞・トニー賞を受賞していて、歌唱力・演技については定評があります。
バルジャンの苦悩、悲しみ、喜びの感情を余すところなく表現した熱いパフォーマンスに胸を揺さぶられるのです。
ジャベール警部役のラッセル・クロウは、感情を抑えながらもにじみ出る凄みを感じさせる演技でヒュー・ジャックマンとの対決シーンを際立たせました。
ファンティーヌ役のアン・ハサウェイは、死の淵に立たされている女性を表現するために、2週間で7キロの減量を実現します。
ファンティーヌがお金がなくて髪の毛を売ってしまうシーンも、カツラを用いるのではなく撮影中実際に髪を切って文字通り体当たりの演技を披露していました。
その結果アカデミー助演女優賞を獲得しますが、苦しむ登場人物を演じた自分が、高価な衣装を身に纏う場で表彰されることに違和感を感じたそうです。
子役までも振り絞るような演技を見せる
子役のダニエル・ハトルストーンが、貧民街で強くしたたかに生きるガブローシュ少年を演じていて秀逸です。
舞台公演「レ・ミゼラブル」でガブローシュ役を演じていたダニエルは、映画でも美声を遺憾なく発揮し、革命軍の前に出て撃たれてしまうシーンで迫真の演技をしています。
このシーンでガブローシュが見せる気高さ、勇気は他のキャラクターと比較しても引けを取りません。
映画の中で、冷徹なはずのジャベール警部が、自分が付けていた勲章を亡きガブローシュの胸に付ける印象的なシーンがあります。
潜入捜査をしていたジャベール警部ですら胸を打たれ、ガブローシュに勲章という名誉を与えるべきと感じさせる場面です。ダニエルの演技はまさに勲章モノでした。
演技と歌を同時に撮影
通常、ミュージカル映画の撮影では、先に歌とオーケストラの伴奏を録音して、それに合わせて演技をすることが多いようです。
しかしこの作品では、演技と同時に現場で俳優が歌って、後からオーケストラ演奏を載せるという手法を取りました。
俳優陣は、本番中小さなイヤホンを耳に付けて、イヤホンにピアノ演奏が流れるのでそれに合わせて歌いました。
当初マイクを衣装の裏に付けて歌を録音していましたが、服が擦れる音までもマイクが拾ってしまうので、マイクは衣装の表側に付け、衣装と同色の布をかぶせて隠したといいます。
また、足音が録音されないようカーペットを敷いたそうです。
オーケストラは、現場で歌われた歌に後から完璧にテンポを合わせて演奏しなければなりませんでした。オーケストラ・メンバーの実力には驚かされます。
ヒュー・ジャックマンは「生で歌いながら演技するというのは、キャラクターがその時に感じた気持ちをそのまま表現できるので楽しかった」と語りました。
「愛とは、生きる力」
この映画のキャッチコピーは「愛とは、生きる力」です。
キャッチコピーが表すように、「レ・ミゼラブル」は様々な愛が交錯するストーリーとなっています。
主人公であるバルジャンの変化と成長からうかがえる愛を考察してみましょう。
神の愛・慈悲とは
映画の冒頭でバルジャンは、仮釈放され街へと戻りますが、身分証明書に前科ありと記載されているので、誰も彼を雇ってくれる者はいません。
そんな彼を司教が教会へと招き入れ、食事と寝床を提供しました。
しかしバルジャンは、教会の銀食器を盗み、逃げてしまいます。
翌日、警官に捕まったバルジャンが司教の元へと連れてこられますが、なんと司教は、銀食器は自分があげた物だと告げ解放させるのです。
そして司教は、「この一番高価な物をお忘れですよ」と彼に銀の燭台を渡して「この燭台を使って善き人になるのです」と諭します。
この時に神に仕える司教の優しさと、司教が信じる神の愛に触れ、バルジャンが「善き人」になるシーンは魂が揺さぶられるでしょう。
愛を知るバルジャン
自分の所有する工場に勤務していたファンティーヌの最期を看取り、バルジャンは彼女の最愛の娘・コゼットを引き取ります。
バルジャンはコゼットを宝物のように大切に育てました。
彼は、初めて無償の愛を人に注ぐ喜びを知るのです。
コゼットとマリウスが恋に落ちたとわかった時は、宝物を盗られたような気持ちになりますが、二人を祝福します。
逃亡劇の顛末
「レ・ミゼラブル」はスリリングな逃亡劇としても有名で、様々な映画やテレビドラマにリメイクされています。
注目すべきは、やはり仮釈放後、出頭せずに逃亡したバルジャンと、彼を追い続けるジャベール警部の物語でしょう。
バルジャンの変化がジャベール警部にどのような影響を及ぼしたのか、見ていきましょう。
ジャベール警部の追跡
ジャベール警部はバルジャンを捜索し続けますが、バルジャンは改心してから「マドレーヌ」と改名し、モントルイユで新しい人生を歩み始めました。
工場を経営し、市の経済を支えた功績により人々に信頼される市長となったのです。
しかし、ジャベール警部は、「どこかでお会いしたことがありますか」とマドレーヌ市長がバルジャンではないかと疑います。
バルジャンはその時はごまかしますが、ジャベール警部からの言葉に耳を疑うのです。
それは「ジャン・バルジャンという名前の男が窃盗で捕まりました。明日の裁判でその男が有罪となれば終身刑となります」という内容でした。
バルジャンは苦悩の末自分と間違えられて逮捕された男を救うことを決意し、裁判所で自身の正体を明かしたのです。
ジャベール警部の執念
正体を表したバルジャンを逮捕しようとするジャベール警部ですが、バルジャンは振り切って川に飛び込み逃亡します。
バルジャンをもう少しのところで逃してしまったジャベール警部は「鉄格子の中の彼を見るまで私は休むことはない。必ず捕まえてみせる」と神に誓うのです。
川から這い出たバルジャンは、コゼットを連れてパリへ逃亡し、屋敷に落ち着きます。しかし、その屋敷にもジャベール警部が追ってきました。
バルジャンは、昔助けた男の尽力で、男性が立ち入りできない修道院にコゼットと逃げ込むことができます。
修道院に立ち入ることができないジャベール警部は悔しさを募らせつつも、逮捕を諦めることはないのです。
この妄執のような信念が、後にジャベール本人へ大きな影響を与えることになります。
運命の変転
バルジャンはコゼットの恋人・マリウスを助けるため、革命軍に参加して一緒に戦うこととなりますが、そこで身柄を拘束されていたジャベール警部に遭遇します。
ジャベール警部はバルジャンを逮捕するために革命軍に潜入していましたが、国家警察の人間だとバレてしまい、縄で繋がれていたのです。
「立場は逆転した。私を殺すがいい」とジャベール警部はバルジャンを挑発します。
これまでは、追いかけるジャベール警部がバルジャンの運命を握っていたのに、今はバルジャンが捕縛されたジャベール警部の運命を握っているのです。
立場が逆になる、すなわち「運命の変転」がこの作品のテーマとなっています。
しかしバルジャンはナイフでジャベール警部を切りつけると思いきや、縄を切ってジャベール警部を逃がすのです。
そしてなおも戦闘で重傷を負ったマリウスを助けようと必死にパリの地下下水道を行くバルジャンの姿にジャベール警部は茫然となります。
「善」を知ったジャベール警部
バルジャンに救われたジャベール警部は、川に身を投げて自殺します。それは彼が生きている意味を見失ったからです。
ジャベール警部は神と法に忠実に生きてきた男でした。神の教えと法にのっとり「善」として生き、悪を許さないという信念を持って生きていました。
一方バルジャンは犯罪者、つまり法に背いた男です。ジャベール警部は、バルジャンは法に裁かれるべき「悪」だと執拗に追っていました。
しかしバルジャンはジャベール自身の命を救い、さらに他の人々の命も救う、紛れもなく「善き人」でした。
「悪」と思っていたバルジャンを「善」と認めてしまったジャベール警部は、自分の信念が覆され何を信じて生きていけばいいのかわからなくなってしまい、自殺したのです。
タイトルの意味
「レ・ミゼラブル」というタイトルは、原作小説のタイトルにもなっていて、フランス語で「惨めな人々」「悲惨な人々」という意味です。
小説が日本語に翻訳された際には「ああ無情」というタイトルで出版されました。
この物語は19世紀のパリを舞台に描かれていますが、当時は貧富の差が開き、コレラで次々と人命が失われ、天候不順による食料不足で民衆は飢えていました。
ここでは貧困や不平等をなくしたいと願う民衆の戦いが描かれます。
原作者のユゴーは「レ・ミゼラブル」というタイトルに、「惨めな」登場人物たちが勇敢に立ち上がることの素晴らしさを込めているのです。
登場人物たちには、人権や平等を唱えていたユゴーの主張が投影されています。
そして、現在もなお貧困や不平等は存在します。
だからこそ、出版から約150年経っているこの物語に、現代を生きる私たちは共感し、感動するのです。
珠玉の歌の数々
この映画には、1980年以来舞台公演で歌い継がれてきた珠玉の歌が満載です。
どれも聴いたらその場で覚えてしまうようなメロディーになっています。
特に素晴らしい4曲をご紹介しましょう。
「独白」
バルジャン扮するヒュー・ジャックマンが歌う歌「独白」は凄い迫力でした。
この歌は、司教が銀の燭台をバルジャンに渡してくれた時の歌です。
「俺は何ていうことをしたのだ、泥棒とは。それなのに司教様は俺を優しく迎えてくれた。俺を兄弟と呼んでくれたのだ」
司教の慈悲に心打たれ、自分を恥じ入り人生の岐路に立つ男の決意が込められた、ヒュー・ジャックマンの緩急をつけた圧倒的な歌唱力に驚かされます。
雷を打たれたかのように歌い上げる様子は、観ているあなたの心を鷲づかみにすることでしょう。
「夢やぶれて」
「夢やぶれて」は、幸せだった時を思い出して「こんな地獄を生きるはずじゃなかった」とファンティーヌが歌う歌です。
アン・ハサウェイが瀕死のファンティーヌの辛い心情を見事に歌っています。
「プラダを着た悪魔」のアン・ハサウェイがこんなに感情を込めて歌えるとは知りませんでした。
これはスーザン・ボイルがオーディション番組で歌って世界中に衝撃を与えた曲としても有名で、今では誰もが知る歌になっています。
「星よ」
「星よ」はバルジャンを必ず逮捕するのだと誓うジャベール警部が歌う歌です。
「神よ、あなたを証人にして私は誓う。彼を必ず捕まえると」
高い塔の際に立ち、星を見上げてジャベール警部は歌うのです。
頑なまでにバルジャンを追い続けるジャベール警部の揺るぎない信念が歌で表現されました。
冷徹なジャベール警部を演じたラッセル・クロウの真骨頂です。
「オン・マイ・オウン」
エポニーヌは、コゼットをこき使っていたテナルディエ夫妻の娘で、コゼットと同い年です。
彼女は革命の闘士・マリウスを愛していましたが、マリウスはコゼットと恋に落ちます。
子どもの頃は両親に甘やかされて育ち、コゼットを見下していたエポニーヌですが、立場は逆になり、今度はエポニーヌの方が報われない愛に苦しむのです。
「運命の変転」がここでも行われます。
「彼を愛している。でも私は独りぼっち」と雨に打たれ泣きながらエポニーヌが歌う歌が「オン・マイ・オウン」です。
エポニーヌを演じたサマンサ・バークスの切ない歌唱に胸を打たれることでしょう。
「民衆の歌」
「民衆の歌」は、革命に命を懸ける若者たちの決起の歌になります。
フランスの国家「ラ・マルセイエーズ」をモチーフに作詞・作曲されました。
「民衆の歌が聞こえるか?鼓動がドラムと響き合えば、明日、生命が始まる」
力強く希望に溢れたこの歌を聴くと感動のあまり震えてくる程です。
世界中で歌われていて、スタンダード・ナンバーになっています。
2014年「雨傘革命」といわれた香港反政府デモや2019年のイラクの反政府デモで歌われました。
まとめ
バルジャンはマリウスにコゼットを託して、二人が年老いたバルジャンを看取ったところで映画は終わります。
それぞれの愛が交錯する「レ・ミゼラブル」。
上映時間は158分ですが展開が速いので一気に観られます。
映画を観たあなたの心の中には、「民衆の歌」があなたを励ますように流れることでしょう。
至上の愛のストーリーにどうぞ浸ってください!!