映画「今夜ロマンス劇場で」ネタバレ・考察

「今夜、ロマンス劇場で」は2018年に制作されたラブファンタジー映画です。

「テルマエ・ロマエ」「翔んで埼玉」の武内英樹監督がメガホンをとり、「ガールズ・ステップ」「信長協奏曲」の宇山佳佑が脚本を担当。

綾瀬はるかと坂口健太郎が共演して、笑って泣ける映画として好評を博し、視聴者満足度91.5%をマークしました。

映画「今夜、ロマンス劇場で」からネタバレ・考察、あらすじや小話など作品の魅力をたっぷり紹介していきたいと思います!!

今夜、ロマンス劇場で(2018年)

入院生活を送る年老いた健司が、自分をモデルにした映画の脚本のストーリーを看護師・吉川に話す場面から始まる。

話の舞台は日本映画が隆盛を極めた1960年、映画の撮影所。

映画監督を夢見る若き日の健司(坂口健太郎)の前に、突然モノクロ映画の世界から姫・美雪(綾瀬はるか)が出現した。

健司が美雪に現実の世界の事を一つ一つ教えていく奇妙な共同生活が始まる。

健司は、純粋で自由奔放な美雪を愛するようになるが、美雪は人間の温もりに触れたら消えてしまう運命だった…。

今夜、ロマンス劇場で(ネタバレ・考察)

感涙モノの映画「今夜、ロマンス劇場で」。

この映画にはどんな小話が隠されているのでしょう?作品にまつわる考察やエピソードを幾つかご紹介していきたいと思います!

お転婆なお姫様

健司が映画館・ロマンス劇場の映写室で見つけた古いモノクロ映画「お転婆姫と三獣士」のスクリーンから、突然お姫様の美雪が現実世界に現れるのですが、美雪は「無礼者!!お前は私のしもべだ!」と言って、健司をホウキではたきます。

その美雪のお転婆ぶりが、美しいドレス姿とギャップがありすぎて笑えます。

しかし、モノクロの世界から飛び出し、カラーの現実世界を存分に楽しむ美雪の天真爛漫な姿は愛らしく、健司は次第に美雪に惹かれていくのです。

美雪も健司の優しさに触れ、彼を愛するようになります。

二人の惹かれ合う様子が、美しいロケ地を背景に丁寧に描かれるストーリーに、目が離せません。

ノスタルジックなロケ地の数々

「今夜、ロマンス劇場で」で使われた美しいロケ地をご紹介しましょう。

美雪がモノクロ世界からカラーの世界にやって来た事を象徴するような、色が溢れた画面になっています。

栃木県が主にロケ地となっていますので、興味がある方は聖地巡礼してみてはいかがでしょうか。

  • 昭和の香り漂う映画館…「旧映画館・足利東映プラザ」栃木県足利市通

    映画館内は赤や青や黄色のタイルが貼られ、カラフルになっています。

  • 健司と美雪がロケハンした藤棚の場所…「あしかがフラワーパーク」栃木県足利市迫間町

    パープルカラーの藤の花が一面に広がる所に、美雪のブラック&ホワイトの衣装が映えて得も言われぬ効果を上げています。

  • 健司と美雪がロケハンしたバラ園…「横浜イングリッシュガーデン」神奈川県横浜市西区

    深紅のバラの花が、美雪の美しさを引き立てています。

  • 健司と美雪が縁日デートするシーン…「春日神社」東京都練馬区・旧豊島園近く

    縁日の提灯の色が夜の闇の中に浮き立ち、夢のような画面を作っています。

  • 健司が勤める京映撮影所…「赤煉瓦の工場・株式会社トチセン」栃木県足利市福居町

    赤いレンガの建物や古びた看板がレトロな美しさを醸し出しています。

  • 美雪が虹を見るシーン…茨城県取手市の小貝川の土手・常磐線藤代駅近く
    雨に濡れた木々の緑と虹の色のコントラストが綺麗です。
  • 健司と美雪が結婚記念に撮影した写真館…「松村写真館」栃木県足利市・両毛線足利駅前

    セピア調の写真館内が素敵です。

  • ガラス越しのキスシーン…「嘉右衛門橋」栃木県栃木市巴波川に架かる橋の電話ボックス

    古びたガラスに郷愁を感じます。

  • 病院のシーン…「横浜栄共済病院」神奈川県横浜市・根岸線本郷台駅近く

    白を基調とした病室にある、美雪が飾ったであろう赤い一輪のバラが、二人のシナリオハンティング・デートを思い出させます。

俳優陣の演技が見どころ

この映画では脇を固める俳優たちの活躍が見逃せません。

たくさんの付き人に囲まれた1960年代のベタな映画スターを、濃すぎる北村一輝がノリノリで演じています。

撮影している映画の脚本を気まぐれで変えさせたり、大道具に使うペンキを服にかけられても、大スターらしく度量が大きいところを渋々見せたりと、北村一輝を観るだけでも楽しめます。

さらに、映画館ロマンス劇場の経営者・本多を演じた柄本明がいい味を出しています。

美雪と健司のキューピット役を担う重要な役どころで、セリフは多くありませんが、無愛想にトツトツと健司に語り掛ける様子が出張り過ぎず秀逸です。

また、この映画は、病床の健司が、美雪との事を書いた脚本のストーリーを、看護師・吉川に話す形で話が進んでいくのですが、加藤剛は、年老いた健司であり、語り手でもあるというその役を、丁寧に演じています。

若い頃の健司と、年老いた健司に移り変わるシーンも違和感なくストーリーに入り込め浮いていません。

この映画は加藤剛の遺作となりましたね。
遺作にふさわしい穏やかで深みのある名演でした。

登場人物を彩るレトロな衣装の数々

この映画は、設定が1960年になっています。

俳優陣が身に着けた当時のレトロな雰囲気の衣装は華やかで、見るだけでもワクワクします!

デザインは伊藤佐智子と宮本まさ江が担当しています。

特に、綾瀬はるかは、映画の中で25着の衣装を次々と着用し、まるでファッションショーのようです!!

武内英樹監督が、「綾瀬はるか史上、最も美しい綾瀬はるかを撮りたい」と言って撮影に臨んだだけあって、綾瀬はるかの上品でクラシックな衣装の着こなしがこの映画の魅力
となっています。

なぜ、美雪はスクリーンから出てきたのか?

美雪はなぜモノクロ映画の世界から現実の世界へ出て来たのでしょうか。

昔は、自分が出演していた映画「お転婆姫と三獣士」を多くの人が観に来ていたので、美雪は観客の喜ぶ顔をスクリーン越しに見て楽しんでいたそうです。

しかし、年月が経つにつれて、観る人が減っていきました。

そんな時に健司が「お転婆姫と三獣士」のフィルムをロマンス劇場で見つけて熱心に映画を見てくれて、美雪は嬉しかったのでしょう。

そしてフィルムが売られてしまう前に、健司に「この映画を見つけて観てくれてありがとう」とお礼が言いたかったのです。

そのために美雪はスクリーンから現実世界に出て来たのでした。

お転婆姫かと思っていたら、実はしおらしく可愛らしい姫でしたね!!

この映画のプロデューサー・稲葉直人は、昔の映画についてこう語っています。「ネットの時代になって、今、映画はただ消費されて消えていくだけ。消えてしまった何万本もの映画に捧げる愛をこの映画に込めたかった」

スクリーンから出て来た美雪の「観てくれてありがとう」という言葉は、「今夜、ロマンス劇場で」のスタッフたちの映画への愛を代弁しているのに違いありません。
本多のセリフ「どんな映画も誰かを幸せにしたくて生まれてきた」も素敵な言葉でしたね。

過去の名作映画のオマージュ

この映画には、昔の映画のパロディが満載です。

パロディというより、それぞれの映画への愛が込められたオマージュと言ってもいいでしょう。

引用されている映画を挙げてみましょう。

「ニュー・シネマ・パラダイス」

映画監督を目指す健司と、映画館ロマンス劇場・経営者の本多との関係は、1988年公開のイタリア映画「ニュー・シネマ・パラダイス」から引用されています。

シチリアの過疎の町の小さな映画館に通いつめる少年・トトと、映写技師アルフレードの交流シーンのオマージュです。

「キートンの探偵学入門」

映写技師が様々な困難と闘う設定は、1924年公開のサイレント・コメディ映画「キートンの探偵学入門」から引用されています。

映写技師の主人公バスターが女性に一途に恋するところが、引用されています。 

「カイロの紫のバラ」

映画のスクリーンから現実の世界にキャラクターが出て来る設定は1985年公開のアメリカ映画「カイロの紫のバラ」。

ヒロイン・セシリアが恋した映画の中の男がスクリーンから出て来るところが似ています。

「ローマの休日」

姫と身分違いの男が恋に落ちるストーリーは1953年制作のアメリカ映画「ローマの休日」。

王女アンが、偶然出会ったジャーナリストの男と恋に落ちる設定を引用しました。

「バック・トゥ・ザ・フューチャー」

落雷が映画館に落ちて美雪が現代に出現するシーンは、1985年公開の「バック・トゥ・ザ・フューチャー」です。

青年マーティが、自分の両親の過去の恋を成就させ、雷によってタイムマシン・デロリアンで現代に帰るシーンからきています。

「オズの魔法使い」

劇中劇「お転婆姫と三獣士」の登場人物・美雪が手下の狸たちと共に怪獣と戦うなど困難を乗り越えていくシーンは、「オズの魔法使い」(1939年公開)。

少女・ドロシーが旅の途中、カカシ、ブリキの木こり、ライオンに会い成長していくロードムービーからきています。

「狸御殿」

健司と美雪の叶わぬ恋は、城を追いだされた王子と狸姫の恋を描いた1939年公開の日本のオペレッタ映画「狸御殿」からです。

人間と狸という種を超えた障害のある恋に悩む王子の心情が、健司の想いと重なります。

「日活のガイシリーズ」

北村一輝演じるスター・俊藤龍之介の描写は、1960年代に一世を風靡したタフガイの石原裕次郎、マイトガイの小林旭へのオマージュです。

雲の上の人だった当時の実際の映画スターの華やかな生活ぶりをそのまま描いています。

「また逢う日まで」

健司と美雪のガラス越しのキスシーンは、1950年公開の日本映画「また逢う日まで」に登場しました。

戦争という時代の波に引き裂かれた三郎と蛍子が窓越しに交わすキスシーンは、日本映画史に輝く名シーンです。

武内英樹監督はその名シーンを「今夜、ロマンス劇場で」の中に美しく取り入れています。

多くの人の感動を生んだ理由とは?

「今夜、ロマンス劇場で」は泣けるシーン満載の作品です。

この映画が多くの人々の心を掴んだ理由はどこにあるのでしょう?

そばにいるのに触れられない

健司が書いた脚本がコンペに採用され、順風満帆な健司はその勢いのまま美雪にプロポーズします。

しかし、美雪からは断られてしまいます。

自分は人の温もりに触れたら消えてしまう運命だから、一緒に生きていく事は出来ないと言うのです。

愛しているのに、相手の手を握ったり頬に触れたりできない切なさに、胸が締め付けられます。

愛する人の幸せを考える

美雪は、恋のライバル塔子に健司を譲って、自分は身を引こうとします。

塔子にこう言って送り出すのです。

「健司が落ち込んだら、手を握って慰めてあげて」

健司の手を握ってあげられない美雪の想いが、健気でいじらしく涙腺崩壊モノです。

美雪は、健司にはお互い触れ合える普通の恋愛をしてほしいと、愛する人の幸せを第一に考えているのです。

一途な健司の愛

映画会社の社長令嬢で美人の塔子に恋の告白をされながらも、それには見向きもせず、ひたすら美雪を愛し続ける健司。

美雪に、「あなたでなければだめなのです」と思いの丈をぶつけます。

この健司の姿が観ている人の胸を打つのです。

「今夜、ロマンス劇場で」では、一人の人を思い続ける事の大切さを感じる事ができます。

ラストシーンの意味とは?

二人は触れ合わないまま一緒に暮らしていく事に決めました。

長い年月が経ち、健司は年老いていきますが、美雪は年を取らないままです。

健司は病院に入院していて、余命幾ばくもない様子です。

健司と美雪のこれまでの事を書いた脚本のストーリーを、病室で聞き終えた看護師・吉川は、脚本の結末を書いてほしいと健司に頼みます。

病院からの健司の危篤の知らせに、病室に駆け付けた美雪。

「触れたい…」健司の手を握りその胸に顔をうずめます。美雪に触れて安らかな笑顔を見せる健司。

そして健司が息を引き取るのと同時に、美雪は消えるのでした。

傍らには完成した脚本がありました。

無償の愛を捧げ合った健司と美雪のラストシーンは号泣必至です。

このラストシーンは、「純粋に人を愛する事の大切さ」を意味しているのではないでしょうか。

お互い幸せな人生だったと思える二人の生涯でした。

まとめ

「今夜、ロマンス劇場で」の考察・ネタバレ、あらすじなどを紹介してきましたがいかがだったでしょうか?!

触れ合えなくても穏やかに長い年月を生きていく二人のピュアな恋を描いた、映画愛・炸裂のこの映画は、涙なしでは観られません。

悪い人は出てきません!!ほんわかしたこの映画の独特の世界観に思いっきり浸ってください!!

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