アニメ映画アイアン・ジャイアント ネタバレ・考察

「アイアン・ジャイアント」は1999年にアメリカで公開されたワーナー・ブラザースのSFアニメ映画です。

大人の鑑賞にも耐えうるクオリティと、子供の心に訴えかける物語が評判になり、興行収入は伸びませんでしたがアニメ界のアカデミー賞であるアニー賞で全10部門中9部門を受賞するなど高く評価されています。

破壊兵器でありながら純真無垢な心を持つアイアン・ジャイアントと少年ホーガースの交流から始まるドラマチックな展開は90分と短いながら満足感がたっぷりです。

ここでは本作の魅力について語りつつ、登場人物たちの謎について考察していきます!

アイアン・ジャイアント(1999)

1957年、ソ連は人工衛星スプートニクを打ち上げ、宇宙開発の先鞭を切っていた。

そんな時期にアメリカのメイン州沖合に宇宙からの飛来物が落下。遭難した漁師は二条の光と巨体を目撃する。それと時を同じくして、メイン州ロックウェルの町並みで鉄がなくなる事件が起きていた。

9歳の少年ホーガースは家の近所で大きな物が移動した跡を見つけてこっそり探検に出るが、変電所で電線に絡まっている鉄の巨人を見つけ、ピンチを救う。

仲良くなった2人は人目のつかないところで友情を育むが、飛来物の報告を受けて政府調査官のマンズリーがアイアン・ジャイアントを探りに来る。

飛来物を外敵の兵器とみなして調査を進めるマンズリーだが、アイアン・ジャイアントには意外な正体が秘められていた…。

アイアン・ジャイアント(ネタバレ・考察)

公開当時は宣伝もほぼされていなかったため興行的には失敗した「アイアン・ジャイアント」ですが、その作品性の高さから多くのファンを生み出しました。

そんな本作のトリビアを集めてみたので、御覧ください。

アイアン・ジャイアントの声にヴィン・ディーゼル

アイアン・ジャイアントの声を担当しているのは「ワイルド・スピード」「リディック」などで大スターの仲間入りをしたヴィン・ディーゼルになります。

最近では「ガーディアン・オブ・ギャラクシー」のグルートの声を当てるなど、人外の声を担当することにかけて名を知られている彼ですが、当時は新進気鋭の俳優として売り出している最中でした。

スピルバーグ監督の「プライベート・ライアン」に抜擢されて出世しましたが、本作は「プライベート・ライアン」の直後にリリースされており、役選びの目利きをみせています。

ブレイクした今でも、「アイアン・ジャイアント」はお気に入りだと公言し、続編の可能性も匂わせるなど、思い入れを感じさせるのです。

ブラッド・バード監督の長編アニメデビュー作

「アイアン・ジャイアント」を監督したのは、これが映画監督デビュー作となるブラッド・バードです。

最初はディズニーにその才能を認められ、所属していたのですが短い期間で退社、その後は「ザ・シンプソンズ」などを作成していた会社で腕を磨きます。

そして「アイアン・ジャイアント」を制作するためにワーナーへ移籍し、本作を作り上げたのです。

本作で監督としての力量を認められたバードはワーナーのアニメ部門が消滅したことでピクサーへ移籍し、アニー賞を全部門制覇する偉業を成し遂げた「Mr.インクレディブル」を監督します。

「Mr.インクレディブル」はアカデミー賞の長編アニメーション賞も獲得し、その後に「レミーのおいしいレストラン」で再びアカデミー賞に輝きました。

アニメーション業界への多大な貢献と実績を評価され、2009年にヴェネツィア国際映画祭で栄誉金獅子賞に輝くなど、その評価は盤石です。

最近ではアニメだけでなく「ミッション・インポッシブル:ゴースト・プロトコル」などの実写映画も担当するなど活躍の場を広げており、アニメ以外でも評価の高い監督になります。

ホーガースの父親は朝鮮戦争で亡くなっている

舞台は1957年ですが、ホーガースの父親は1950年に起きた朝鮮戦争に参戦し、命を落としています。

北朝鮮と韓国がお互いに大幅な侵攻作戦を展開したため、北朝鮮を支援する中国と韓国を支援するアメリカを初めとした国連軍の戦いは熾烈を極め、冷戦の中の熱戦として激しい戦闘が繰り広げられました。

実際にはソ連のスターリンが武器提供など積極的な支援を送ったため、米ソの代理戦争の様相を見せており、関係の緊張は高まる一方でした。

最終的には北朝鮮と韓国が国境を設定してそれぞれ独立し、休戦状態になっていますが、終戦はしていません。

ホーガースの母アニーは小さい子供を1人で支えるため、ダイナーで遅くまで働いていますが、それにはこういう背景があったのです。

ホーガースが探検に出かけるときに被っていたヘルメットも、父親の遺品かもしれません。

スプートニク・ショックとは

本作の舞台となっている1957年は、ソ連が世界に先駆けて人工衛星の打ち上げに成功した年でした。

それまでは宇宙開発、ひいてはロケット開発においてアメリカが世界のトップという自負があったのですが、ソ連に先を越されたことで西側諸国には衝撃が走ったのです。

核搭載型の大陸間弾道ミサイル開発にロケット技術は欠かせず、この技術においてソ連が上回ったことで、核攻撃をされる危険性が現実的となり多くの人に危機感を与えました。

クライマックスで出てくる潜水艦発射弾道ミサイルってこの時代にあったのですか?
この時代ではまだ技術的に開発されていないのですが、ドラマチックなのでOKです。

なぜアイアン・ジャイアントは愛されるのか

レトロフューチャーな外観と王道の感動展開で、「アイアン・ジャイアント」の人気は広がっていきました。

海外評論サイト「Rotten Tomatoes」では評論家評価96%、ユーザー評価90%とかなり高い支持を受けています。

最近の映画では「レディ・プレイヤー1」に巨大ロボの1体として登場し、活躍したのも記憶に新しいところです。

なぜここまでアイアン・ジャイアントが愛されているのか、考察していきましょう。

純真無垢な姿に心惹かれる

地球にやってきたアイアン・ジャイアントは記憶も目的も忘れており、好物である鉄を食べながら山をうろついているのです。

ホーガースに助けてもらったことを覚えていたアイアン・ジャイアントはホーガースとコミュニケーションを取り、少しずつですが言葉を覚えていきます。

ですが人懐っこく、寂しがり屋のアイアン・ジャイアントはホーガースに「ここにいろ」と言われても付いてきてしまうのです。

迷子の子犬のような純朴さと、そぐわないビジュアルのギャップにやられた人も多いでしょう。

また「僕は行く、君はここにいろ」というホーガースの言葉が、クライマックスでアイアン・ジャイアントからホーガースへのお別れのメッセージになっているのも憎い演出です。

なりたい自分になるために苦悩を乗り越える

無垢で純粋なアイアン・ジャイアントですが、ホーガースに見せてもらったスーパーマンの漫画を読んで、スーパーマンに憧れるようになります。

自分が兵器だとわかったときは苦悩し、銃になりたくないと思い悩みます。そしてホーガースの説得を経て自分を取り戻し、街を救うために自分を犠牲にするのです。

その姿はまさにアイアンが憧れたスーパーマンの姿でした。

ロボットでありながら、崇高な魂を持つアイアン・ジャイアントの姿に、胸を打たれた人がファンとなってこの作品を支持しているのです。

シーフードの看板からSの文字を取って胸にぶら下げるシーンが可愛いですよね。
胸にSのマークをつけるのはアメリカ男子なら一度は憧れる仮装ではないでしょうか。

絶妙なデザインから見える愛らしさ

宇宙から飛来してきたアイアン・ジャイアントは愛嬌のある顔で、なおかつロボットとしてのかっこよさも持ち合わせています。

観るものを惹きつけるアイアン・ジャイアントのデザインをしたのは「スター・ウォーズ」の特殊効果を担当しているVFXアーティストであるジョー・ジョンストンです。

VFXのみならず、「スター・ウォーズ」旧3部作に登場するメカニックのアレンジなども担当していたジョンストンは、その類まれなるセンスを遺憾なく発揮し、アイアン・ジャイアントを作り上げました。

通常形態と戦闘状態、2つの顔を見せるアイアン・ジャイアントの可愛らしさと恐ろしさを内包したデザインは秀逸です。

監督の演出もさることながら、魅力的なキャラクターを生み出したジョンストンの功績はもっと讃えられて良いと思います。

アイアン・ジャイアントがどこから来たのかを考察する

破壊兵器としての一面も持ち、自己修復機能も持つオーバーテクノロジーの塊であるアイアン・ジャイアントはどこからやってきたのか、最期まで明かされません。

ですが映像の中の情報からアイアン・ジャイアントに関してのヒントは随所に描かれています。

ここではアイアン・ジャイアントの装備や形状から正体を考察していきましょう。

人間に似た形をしている

アイアン・ジャイアントは人間の構造に近い形状を持ち、地球めがけて落ちてきました。

このことから地球外の生命体(異星人)によって作られたロボットであり、ロボットの製作者は意図的にヒューマノイドタイプを模して作られたように思われます。

アイアン・ジャイアントがヒューマノイドタイプだったことからも、異星人は人間と同じようなヒューマノイドと推測できるのです。

大量生産の中の1つである

アイアン・ジャイアントが見る夢の中では、大量のアイアンが列をなして現れるシーンがシグネチャー・エディションで確認されており、アイアン・ジャイアントは量産兵器であることも分かるのです。

ホーガースと出会ったアイアン・ジャイアントはそのうちの1体である可能性が高いと思われます。

惑星を破壊するスペックを秘めている

シグネチャー・エディションでは大量のアイアン・ジャイアントが惑星を破壊するシーンが描かれています。

本来は知的生命体が住んでいる星に対しての侵略兵器である可能性が推測されるのです。

ホーガースと出会ったアイアン・ジャイアントは地球の落下時に記憶を失っており、本来の任務は忘れていますが、暴走時に使用した装備を考えても、地球を壊滅させるにたりうる武力を持っているのがわかります。

当時の最大戦力であった核兵器を用いても破壊できなかったことを考えると、本来の目的で活動していたら地球の危機は免れなかったでしょう。

戦車や戦闘機の攻撃では傷一つ付いていませんね!
レーザーだけでなく、戦艦を消滅させるレベルの粒子砲も搭載しているなど攻防において無敵です。

魂を持っている

ホーガースと出会ったときアイアンは一切の記憶をなくしていましたが、コミュニケーションを取ることは可能でした。

ホーガースとの友情を深め、知識を得るうちに優しさを知り、自分は銃ではなく人を守る存在になるという判断ができるようになったことで、彼には魂があることがわかりました。

兵器としては不完全ですが、ロボットとしてはとても魅力的です。

侵略兵器でありながら自己を持っているという点が、他の兵器との大きな違いだと言えるでしょう。

まとめ

ブラッド・バード監督は、この作品が「銃が魂を持っていて、銃であることをやめようとしたらどうなるか」をテーマにして作られたと述べています。

銃であるアイアン・ジャイアントは破壊ではなく、平和を望みました。そして自己犠牲を払ってでもホーガースたちを守ったのです。

観るものにまっすぐ突き刺さるメッセージと、未来を感じさせるエンディングが年齢を選ばず感動を与えてくれる名作ですので、未見の方はぜひ一度鑑賞してください。

関連記事