
映画「ヒミズ」は漫画家・古谷実原作の同名映画で、2012年に実写化公開されました。
“普通に生きる事”を目指す15歳の少年と少女の揺れる心を繊細に描いた衝撃作となっています。
主演は染谷将太と二階堂ふみのW主演で、監督は映画界の鬼才・園子温が務めた事で話題になりました。
この作品で染谷将太と二階堂ふみは、第68回ヴェネツィア国際映画祭で最優秀新人賞にあたるマルチェロ・マストロヤンニ賞を共に受賞した経歴を持ちます。
これは何と日本人初の快挙なんだとか!すごい事ですね!!
映画「ヒミズ」からネタバレ・考察、そしてあらすじから映画の裏話まで一気に紹介していきたいと思います!!
ヒミズ(2012年)
東日本大震災で被災した街に住む住田祐一(染谷将太)は母親と共に貸しボート屋を営みながら生活していた。
住田の夢は“普通に生きる事”で、そんな住田をクラスメートの茶沢景子(二階堂ふみ)は密かに慕っているのであった。
しかし、住田は実の父親から暴力を受けており、また茶沢も母親から虐待を受けていた。
そんなある日、住田の母親が男と共に蒸発してしまう。
学校に通えなくなった住田の元に茶沢がやって来て、ボート屋を繁盛させる為に奮闘する。
しかし、ある日お金をせびりにやって来た父親を住田は衝動的に殺してしまう。
この出来事が住田と茶沢の運命を大きく変えていくのであった…。
ヒミズ(ネタバレ・考察)
映画の数だけそこには小話や裏話が存在します。
「ヒミズ」の裏話にはどんなものがあるのでしょう?
いくつかご紹介していきたいと思います。
「ヒミズ」の意味とは!?
ヒミズとは和名で“日見ず”と書き、“モグラ”の一種です。
モグラ類に比べて体が小さく尾が長いのが特徴の生き物となっています。
映画の中で「俺はモグラになりたい、ヒミズになりたい」という住田の言葉が出てくるのがこの映画のタイトルの由来です。
小さくて目立たないので見つけようとしてもなかなか見つからないのがヒミズの特徴となっています。
ヒミズのように、目立たなくても、普通で平凡でいいから幸せな生活がしたいという、住田少年の願いがこもったタイトルなのです。


本気のビンタシーン!!
映画内で住田と茶沢がビンタをし合うシーンが何度も出てきます。
実際に撮影でも、手加減せず二人とも本気でビンタをし合ったとの事です。
住田を演じた染谷将太は“生まれて初めて女の子をビンタした”との事。
このシーンは原作には無いオリジナルシーンとなっています。
しかし、二人がバシバシとビンタをする光景は観ていて「痛そう!」と感じ、二人の演技への本気度を感じました。
東日本大震災の描写
映画「ヒミズ」の製作準備期間に東日本大震災が起きました。
園子温監督は周囲の反対を押し切り、映画の内容を変更したとの事です。
実際に、映画の本編では津波で滅茶苦茶になってしまった街の映像が何度も出てきます。
後に監督はインタビューでこう答えています。
「震災後に何も無かったように映画を撮り続けることは出来なかった。どんな事をしても震災を作品に取り込まなければと思った」と語っています。
震災の描写を映画内に入れることで“切実な希望”を描きたかったのだそうです。
震災を実際に経験された方や、大切な方を亡くした方には酷な描写といえるでしょう。
しかし、この描写は園子温監督からの“生きろ!”というメッセージともとれるのではないでしょうか。


原作と映画ではラストシーンが異なる
原作の漫画では住田が拳銃自殺をして、住田の死体を見た茶沢が「何それ?」という結末で終わります。
しかし、映画では茶沢の励ましと共に、住田は警察に自首する為に走っていくのです。
ラストで住田を死なせなかった事は、園子温監督の最大限の“優しさ”なのではないでしょうか。
震災を取り上げ、住田に生きさせる事で生きる事への“執着”のようなものを監督は取り入れたかったのでしょう。
住田が普通の人生に憧れた理由
映画内で住田は“特別”な存在を夢見るわけでなく、“普通の生活”、“普通の人生”に憧れを抱きます。
何故、彼は“普通”にこだわったのでしょう?
また、住田の言う“普通”とはどんなものなのでしょう?
そこを考察していきいます。
母親や父親のようにはなりたくなかった
住田の家庭は完全に壊れきっています。
母親は愛人を作り蒸発。たまに帰って来る父親にはお金の無心、そして暴力を受けています。
いわば、機能不全家族といってもいいでしょう。
住田は母親や父親のような異常な大人にはなりたくなかったのです。
住田が欲しかったのはただただ単純な“愛情”でした。
特別ではなくとも、ただ平凡な家族の愛情が欲しかっただけなのです。
そしてごく普通の幸せを夢見ていました。
自分は普通にはなれないとどこかで思っていた
家族もまともでない、母親の蒸発により学校にも通えなくなってしまう住田。
父親からは「死ね」という言葉も浴びせられます。
この上ない特別なんて望まない、せめて普通でありたい、そんな想いを彼は抱いていました。
しかしその“普通”である事さえ、彼には許されないのです。
衣食住困らず、ただ幸せに包まれて生きていきたい、そんなささやかな望みも彼の人生には難しい事でした。
自分は普通である事さえ許されない、だからこそ、普通である事を望んだのです。
それは彼の最後の希望でもありました。
住田にとっての茶沢の存在
住田の言葉を紙に書いて自分の部屋の壁に貼ったりと、ストーカーのような愛情を住田に抱いている茶沢。
住田にとっての茶沢の存在とはどんなものなのでしょう?
そこを考察していきます。
最初は疎ましい存在だった
何かと住田の前に現れ、つきまとう茶沢。
そんな茶沢を住田は最初は邪険に扱っていました。
そんな二人の共通点は“親からの愛情をちゃんと受けていない事”です。
住田も茶沢も深い孤独と闇の中にいました。
大人達の勝手な都合により、人生を翻弄される住田と茶沢。
しかし段々と交流が深まっていくたびに、二人の絆は確かなものになっていきます。
そんな二人が惹かれあったのは、必然的な出来事だったのでしょう。
茶沢は住田の希望になっていった
父親を殺し、おまけ人生と称してこの世の悪となる人物を社会的に抹殺しようと、包丁を持ち街を徘徊する住田。
街での通り魔に遭遇するなどして、その犯人を殺そうとしますが、計画は失敗に終わります。
住田が父親を殺して埋めたことにいち早く気付いた茶沢は、住田に自首を促し、住田もそれに応じるのでした。
茶沢は、住田の唯一の心のより所となっていたのです。
親の確かな愛情を受けず、育った二人は似たもの同士といえるでしょう。
住田は茶沢の、そして茶沢は住田の映し鏡だったのです。


住田と茶沢を取り巻くホームレスの人達
夜野を始め、震災で家を失い、ホームレスとなった登場人物達にも重要な役割があります。
夜野達は、どうしようもない両親の元で育った住田や茶沢の親代わりを担っているのです。
そして、ホームレスの人々の存在は一番、映画を観ている観客の視点に近いものがあります。
決して傍観者にはならず、二人の存在を陰ながら見守っているのです。
「住田さんは未来です。あの子に未来を託したい。」
という夜野の台詞に、この映画の全てが詰まっているといっても過言ではないでしょう。
住田や茶沢は“未来”や“希望”の象徴なのです。
染谷将太と二階堂ふみという俳優の存在感
「ヒミズ」という映画はこの二人ではないと成り立たなかったのではないかという位、すごい存在感を放っています。
雨が降っているシーンや、水に濡れるシーン、泥まみれになるシーンが多々出てくるこの「ヒミズ」という作品。
染谷将太と二階堂ふみの体当たり演技には驚くと同時に、二人の演技への本気度が見られます。
これからどんどん演者として大きくなっていくであろうこの二人。
映画やドラマでたくさんの光り輝く姿を、これからも見届けていきたい注目株の俳優さんです。


台詞の独特さ
フランソア・ヴィヨンの詩が登場するなど、この作品は台詞や演出が他の映画とは一風違うな、といったものを観て感じる方も多いのではないでしょうか。
特に台詞の間合いや言葉選びが独特で、言葉遊びをしているような感覚を受けるのがこの映画の一つの特徴です。
しかしそこに違和感を感じないのが、この「ヒミズ」という映画のすごい部分です。
これは染谷将太と二階堂ふみという俳優の確かな演技力、そして園子温監督の力量の成せる技といえます。
三人の天才が揃った、と言っても過言ではありません。
ラストのその後は?
ラストは住田と茶沢が走っていく光景で幕を閉じます。
茶沢が住田を励ましながら、そして住田もそれに答えるように自分を励ましながら走っていくのです。
園子温監督が漫画と全く違うラストにしたのは、前にも記述したように、震災でたくさんのものを失った方への大切なメッセージといえます。
震災で生きたくても生きられなかった方達の魂の供養と共に、残された方達への精一杯の励ましのメッセージが込められているのです。
ラストのその後、住田は自分の罪を償い、茶沢はそんな住田を待ち続ける。
そんな未来を思い描ける最高のラストシーンといえるのではないでしょうか。


まとめ
映画「ヒミズ」のネタバレ・考察、そしてあらすじや映画の裏話まで一挙に紹介してきましたが如何でしたでしょうか!?
胸に突き刺さるような台詞や描写に、心打たれる事間違いなしの映画となっています。
暴力描写も多い映画ですが、生きる意味を問われるような作品なので、決して観て損はない映画といえるでしょう。
中学生の少年少女が逞しく生きていく姿に「頑張れ!」という言葉を思わずかけたくなる映画です。
そして、“普通”に生きられる事の幸せや、それがどんなに大切なものであるか、改めて考えさせられる作品となっています。
一度と言わず、何度も観返したくなる映画です。