映画イコライザー ネタバレ・考察

「イコライザー」は2014年にアメリカで公開されたアクション映画です。

主演はデンゼル・ワシントン、監督はアントワーン・フークアが務め、デンゼルがアカデミー男優賞を獲得した「トレーニング デイ」以来のタッグとなりました。

寡黙で親切心に溢れる男が、ある事態をきっかけに悪を裁く仕事人として自分のアイデンティティーを見出していく物語ですが、単純なアクションに収まらない仕上がりになっています。

演技派で知られるデンゼル・ワシントンが珍しくアクションに出演し、作品の評価が高かったことと役柄への愛着から、初めて続編に出演するきっかけになった本作。

観るとスカッとする勧善懲悪モノの傑作について、トリビアと考察を交えながら解説していきます。

デンゼル・ワシントンといえば社会派の硬派な役者さんというイメージがあります!
硬派なイメージを崩さずに新境地を開いたのが、この「イコライザー」だよ。

イコライザー(2014年)

ボストンのホームセンターで勤勉に働き、同僚たちの悩み相談に乗るなど、優しくて誰からも信頼されるロバート・マッコールは平穏な日々を暮らしていた。

不眠症気味の彼の憩いは、深夜のダイナーで小説を読むこと。同じ店の常連である娼婦のアリーナとささやかな友情を築いていた。

ある日アリーナはロシアン・マフィアであるスラヴィから見せしめとして激しい暴行を受け、集中治療室送りにされてしまう。

彼女の惨状を知ったロバートはスラヴィの元に出向きアリーナを開放するよう交渉するが、アリーナを死ぬまで働かせる気でいるスラヴィと交渉は決裂。

元CIAのトップエージェントであり、静かな怒りに燃えたロバートはその場にいたマフィア5人を19秒で皆殺しにする。

事件を受けてロシアン・マフィアのボスは部下のテディを派遣。テディは暴力を使って情報を集め、推理からロバートに目星をつけるが、ロバートは尻尾を出さない。

逆にマフィアが関係する悪事を暴きつつ破壊工作を行い、壊滅状態に追い込む。テディはホームセンターの従業員を人質にロバートをおびき寄せようとするのだが…。

イコライザー(ネタバレ・考察)

本作では主人公であるロバート・マッコールにちなんだ隠し設定や、本作のオリジナル作品となる「ザ・シークレットハンター」への目配せなどが随所に盛り込んであります。

知ることでより映画を楽しめるトリビアを中心に紹介しつつ、見返すときの気付きになるシーンを紹介していきましょう。

ロバートは強迫性障害を持っている

元となるスクリプトにはロバートに関しての裏話がなかったため、デンゼル・ワシントンはキャラクターを膨らませるために様々なアイディアを出しました。

その一つがロバートの強迫性障害です。彼はダイナーに入ったときにナイフ、フォーク、スプーンを自分の決めた位置に配置し直します。

またスラヴィのアジトに乗り込んだときも机の上のものを整理したり、ドアの立て付けを確認したときに何度も開けたり閉めたりしているのです。

これは強迫性障害の症状の1つである、物の配置によるこだわりや確認行為の繰り返しを表しています。

デンゼルはこれらの症状を表現するために、強迫性障害の患者に会い、インタビューを重ねたそうです。

ヒロインのアリーナを全力で表現したクロエ・グレース・モレッツ

本作のヒロインでキーマンとなるアリーナは、クロエ・グレース・モレッツがオーディションを受けるだけでなく監督に手紙を書き続けるなど猛プッシュして役を射止めました。

アリーナはもともと24歳ぐらいの設定でしたが、クロエの演技を見た監督が設定を変え、少女娼婦になったのです。

映画公開時、クロエは若干17歳。「キック・アス」(2010年)でヒット・ガールを演じていたころは13歳でしたが、ハイティーンになって雰囲気が変わっています。

それもそのはず、演じる際に娼婦へインタビューするなど役作りに励んだ結果、「娼婦は少しふくよかな方がいい」とアドバイスされ、7kgほど増量して演じているのです。

デンゼル・ワシントンからも強い推薦があったみたいですね。
過去のクロエのイメージが強い人は初見の際に彼女だと気づかないかもしれません。

「ミッドナイト・ラン」に向けての目配せ

ロバートはロシアン・マフィアが政治家や権力者に金を渡してコネクションを作っている情報を掴み、その証拠をFBIにメールして電話でメールを見るよう促します。

このとき呼び出した相手は特別捜査官のモーズリーですが、この役職と名前はロバート・デ・ニーロ主演映画「ミッドナイト・ラン」(1988年)に登場するFBIの特別捜査官と同じなのです。

監督が仕込んだイースターエッグの1つで、気づいた映画ファンには嬉しい贈り物になっています。

「ザ・シークレットハンター」との共通点

本作の元となった「ザ・シークレットハンター」(原題:Equalizer)は1985年~1989年まで放送されていたアメリカのTVドラマになります。

元スパイの主人公が培ったスキルを用いて法で裁けぬ悪を人知れず成敗するという、日本の時代劇「必殺仕事人」を思わせる1話完結型の番組です。

ラストで、ロバートがPC向け広告に「Odds Against You?Need Help?」(困っていないか? 助けは必要か?)と表記し、届いたメッセージに返信します。

これは「ザ・シークレットハンター」の中で主人公が助けを求める人向けに出した新聞広告の文章と同じで、原案へのリスペクトを込めてこのシーンが使われているのです。

またスタッフロールで使われているフォントも「ザ・シークレットハンター」で使われていたものを使用しており、こだわりが見て取れます。

警備員を目指していたラルフィーがトレーニング中に着ていたのがバンド「フォリナー」のシャツなのは、彼らの曲が「ザ・シークレットハンター」のフランス版を宣伝するときに使われていたためです。

運命に導かれるように正義を執行するロバート

CIAのエージェントとして最前線で戦いながら、妻の死をきっかけに自分の死を偽装して手に入れたはずの日常を、ロバートは自らの意思で手放します。

アリーナを始めとした虐げられている人々、街に潜む悪を見過ごせなかった正義感もあるのでしょうが、元CIAの友人に許可をとってまでマフィアを壊滅させるには理由があるはずです。

劇中でのロバートの描写と、心の移り変わりについて考察していきます。

不眠症の原因と解決

ロバートの生活ルーティンは昼間仕事をし、夕方から夜は家で過ごし、深夜になると行きつけのダイナーでお茶を飲みながら読書をするというものです。

アリーナが病院送りにされたとき、ロバートはスラヴィの元に向かいますが、手下もろともスラヴィたちを壊滅させた夜はベッドで安眠を貪っています。

これはロバートが平穏な日常を過ごしていることに実は満足しておらず、正義の遂行を果たしたときに心にやすらぎが訪れているのではないでしょうか。

許可をとってからマフィアを壊滅させる律儀さ

スラヴィは只の女衒ではなく、ボストンでマフィアのビジネスを仕切る幹部でした。彼がが死亡したことを受けて、問題解決のエキスパートであるテディが送り込まれてきます。

凄腕のテディはロバートの周辺調査をしますが、すべてがまやかしであると見抜きます。ロバートは自分の履歴を完全に偽装しているため、あまりにクリーンすぎるのです。

このことでますます疑念を強くしたテディはロバートの捕獲作戦を決行しますが、手下が簡単に返り討ちに会い、自分と手下の写真を撮られてしまうありさま。

ロシアン・マフィアとテディ、ボスであるプーシキンの関係と、ボストン警察にまでその影響が及んでいることをかつての同僚から聞いたロバートはこれを壊滅させることを決めます。

このとき事前に許可を得たのは、自分の正体がバレないことを考えての根回しと、大規模な破壊工作が伴うため起きることを闇に葬って欲しいためでしょう。

ボストン警察にいた内通者は殺さず、マネーロンダリングの現場に案内させた後に警察を呼んで逮捕させ、プーシキンから資金提供を受けている政治家などの情報をFBIに送ります。

さらにはプーシキンの所有する石油タンカーを爆破し、ボストンを中心とした東海岸一帯のビジネスを壊滅状態に追いやるのです。

元工作員だったロバートは、国の掲げる正義ではなく、自分の中の正義と守るべき人のためにに能力を使うことに、やりがいを感じていたでしょう。

ホームセンターにあるものや身の回りのもので攻撃するのも特徴的ですね。
自前の銃器や爆発物を直接使っているシーンがないのもこの映画の面白いところです。

「イコライザー」は単純明快なアクションではない理由

テディはロバートを追うためにボストンに派遣され知略と暴力、金の力でボストン市警すら手中において事件の解決に動きます。

ここからはロバートではなくテディの物語に一度シフトしますが、テディは全能のはずなのに作戦がうまく行かず追っていたロバートから追われることになるのです。

この話の流れで追跡者であったテディを始めとしたロシアン・マフィアと、ターゲットだったロバートの位置関係が逆転する構造が見事に描かれます。

アクション映画でありながら観客へのメッセージを込めるシーンが多くなったため、平均的な同ジャンルの作品よりも上映時間が長くなった理由を考察していきましょう。

ロバートが読んでいた「老人と海」に秘められたメッセージ

ロバートは不眠症を紛らわすために、生前の妻が挑戦していた「死ぬまでに読むべき100冊の本」を自分も読破しようとしていました。

アリーナと出会ったときに読んでいたのはヘミングウェイの「老人と海」で、年老いた漁師が巨大カジキと死闘を繰り広げる短編です。

勝利した漁師でしたが、船に載せられないサイズのカジキを海中で引っ張りながら進むと、傷ついたカジキの流れる血でサメが集まり、カジキは骨だけになってしまいます。

この下りをアリーナに説明すると、アリーナは「無駄だったってこと?」と問いますが、ロバートは「老人は強敵に会い、それを乗り越えたことが大事」と答えるのです。

これはロバートが老人で、ロシアン・マフィアすなわち悪がカジキであることを暗喩しているのではないでしょうか。

人生という航海のなかで倒すべき相手を見つけそれに打ち勝つということが、本作のメインストーリーだと示唆しているのです。

ボストンの王がテディやプーシキンではなくなる意味

ボストンを訪れたテディが半裸で寝そべる姿が、ボストンの夜景にクロスフェードしていくのは、テディがボストンを支配する「王」の座を握っているという描写でしょう。

実質、街を裏側で支配しているロシアン・マフィアのリーダーとしてテディは邪魔者を簡単に排除できると考えていました。

しかし正体不明の相手が何者か最後までつかめないまま、部下とともにホームセンターでテディは処刑されます。

そして3日後にはボスであるプーシキンがロバートの手によって消され、ボストンの王はロバートになったのです。

権力ではなく平和を求め、弱者のために力を振るう街の守護者が誕生しました。

この王殺しの文脈は、ジェームズ・フレイザーが執筆し、映画「地獄の黙示録」でも登場した書物「金枝篇」になぞらえて作られていると考えられます。

王を殺したものだけが王を引き継ぐ資格があるという風習を、ロバートが「夜の仕事」で達成したと告げているのです。

冒頭の格言が表すものとは

この映画の冒頭には、作家であるマーク・トウェインの格言「人生で一番大事な日は二日ある。生まれた日と、なぜ生まれたかを分かった日だ」が記されています。

自身が持つ能力を隣人の平和に使い、混乱にかたむいている天秤のバランスを戻す存在になったとき、ロバートは「なぜ生まれたか」を知ることになりました。

「均衡を保つ人」と「致命的な武器」の2つを意味するイコライザー(equalizer)がここに誕生し、困っている人を助ける新たな人生が始まるのです。

まとめ

文学を好む寡黙な男性が、自分の生きがいを知り正体不明の自警団になる本作は、明快なアクションでありつつも演出や織り込まれたメッセージで深い余韻を残すのです。

ときには実力行使で、ときには冷静に相手を諭し、言葉を荒げることもなく悪を消し去っていくさまは新しいヒーローの誕生を感じさせます。

デンゼル・ワシントンという名優がロバートを演じたからこそ、この奥深さが出たのではないでしょうか。

未見の方はその面白さで体感時間が短くなる「イコライザー」を是非ご覧になってください。

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