「魔法にかけられて」は2007年に制作されたディズニーのアニメ+実写ミュージカル映画です。
「ムーラン」以来の9年ぶり、初めての実写ディズニープリンセスとしてジゼルが登場することで公開前から話題を集めました。
歴代のディズニーアニメのセルフパロディやオマージュが満載の本作は、観たことがない人が観ても楽しめますが、コアなディズニーファンなら注目ポイントが山盛りです。
元ネタになっている情報を拾いつつ、「魔法にかけられて」の注目点をお伝えしていきます。
魔法にかけられて(2007年)
おとぎの国であるアンダレーシアで森に一人住むジゼルは動物たちと語らいながら、いつか運命の王子が迎えに来てくれると信じて暮らしていた。
ある日ジゼルの歌声を聞いたエドワード王子と出会い、運命の人と感じたジゼルはその日のうちに婚約する。しかし王子の継母である魔女ナリッサは王女の座を奪われることを恐れ、ジゼルを「永遠の幸せなど存在しない世界」である現代のニューヨークに送ってしまう。
ニューヨークで路頭に迷ったジゼルは仕事帰りの離婚弁護士ロバートと娘のモーガンに助けられ、ロバートの部屋に保護される。
ロバートとモーガンは浮世離れしたジゼルの言動に戸惑うが、天真爛漫な彼女の人柄にだんだんと惹かれていく。
一方エドワード王子とリスのピップはジゼルを救うためにニューヨークへ駆けつけるが、あまりにも違う世界に戸惑い、また魔女の手先であるナサニエルの妨害によってジゼルと出会うことが出来ない。
さらにナサニエルは魔女ナリッサからジゼルを永遠に眠らせるために毒リンゴを受け取り、食べさせようと企む。
そんな中、おとぎの国と現実の国での恋愛の違いを知ったジゼルは次第にロバートに惹かれていく自分に気づき、感情の変化に戸惑うのだった…。
魔法にかけられて(ネタバレ・考察)
ニューヨークを舞台にした恋の魔法の物語には、様々なトリビアが含まれています。
セルフパロディを含む小ネタの情報も交えながらお伝えしていきましょう。
過去のディズニー作品に登場した役者がカメオ出演
過去にディズニー映画に登場していた声優や俳優が多数カメオ出演しているのも本作の特徴です。
ナレーターが「メリー・ポピンズ」を演じたジュリー・アンドリュースですし、ロバートの弁護士事務所にいる秘書のサムは「リトル・マーメイド」のアリエルや「トイ・ストーリー」シリーズのバービーなどを演じた声優ジョディ・ベンソンが演じています。
エドワード王子がホテルで観ているドラマに出演している女優は、「美女と野獣」のベルを担当したペイジ・オハラです。
エドワード王子がアパートのドアを次々ノックするシーンで最初に登場する妊婦役はジュディ・クーンで、彼女は「ポカホンタス」の歌唱を担当しているシンガーになります。
このようにディズニーファンには嬉しい隠し要素が用意されているのも「魔法にかけられて」の魅力の1つなのです。
後年公開されたディズニー作品のヒントがある
本作以降に公開されるディズニー作品に関連するシーンが登場しているのも特徴です。
2009年に公開された「プリンセスと魔法のキス」に関連するシーンでは冒頭にアニメーションでジゼルの家に入ってくるカエルのアップに、王冠のように石鹸の泡が乗ります。
これは「プリンセスと魔法のキス」は、グリム童話「かえるの王さま」をにちなんだお話なので、カエルが登場するのです。
エンディングのスタッフロールの背景に「かえるの王さま」のシルエットが映るのも、あとから分かってみるとニヤリとできます。
またジゼルが公園で歌っているとき、野外劇場で上演されている劇が「ラプンツェル」なのは、2010年に公開された「塔の上のラプンツェル」の伏線です。
昔なじみのアニメ制作会社に依頼してセルアニメを作った
当時はディズニー系列のピクサー社が1995年の「トイ・ストーリー」を皮切りに、「バグズ・ライフ」(1998年)、「トイ・ストーリー2」(1999年)、「モンスターズ・インク」(2001年)、「ファインディング・ニモ」(2003年)、「Mr.インクレディブル」(2004年)などの3Dアニメでヒットを飛ばしていた時期でした。
そんな中、「昔ながらのディズニーを感じさせるアニメーションを」ということでアニメパートは異例のセルアニメを使って制作されているのです。
アニメーションの製作はジェームズ・バクスター・アニメーションで、創業者のジェームズ・バクスターは過去にディズニーやドリームワークスに在籍していました。
ジゼル役のエイミー・アダムスは売れてないから選ばれた?
監督のケヴィン・リマはプリンセスとなるジゼルを引き立たせるため、会社の「有名な女優に頼みたい」という意向を抑え、実力があり知名度の低い女優を探しました。
その結果、エイミー・アダムスがジゼルに決まり、撮影が開始されたのです。
エイミーは期待に応えるような見事な歌とアニメーションを思わせる細やかな動きを再現し、ディズニー世界を現実に持ってくるという大役を果たしました。
エイミー・アダムスは2005年に「JUNEBUG」という映画で各方面から評価され、アカデミー賞にノミネートされるなど注目の女優でしたが、本作で評価を盤石にしたのです。
ジゼルがディズニープリンセスでなくなってしまった経緯
本作に登場するジゼルは「ムーラン」以来9年ぶりのプリンセスで、同時に実写でスクリーンに登場する初のプリンセスとなると告知されていました。
ですが、ジゼル役のエイミー・アダムスに生涯報酬を払わなくてはならないことが判明し、ディズニーはジゼルをディズニープリンセスに含めないことを発表したのです。
実写のプリンセスという試みは新しかったのですが、ディズニーの顔になるというのはビジネスとして一筋縄では行かないのでしょう。
ジゼルが美しく魅力的な理由
ジゼルを演じたエイミー・アダムスはすでに31歳を迎えており、情報だけで観るとプリンセスとしては年齢層が高いように感じます。
ですが画面で観るジゼルはまごうことなきディズニーのプリンセスとして輝いているのです。
どうしてここまでジゼルが魅力的に感じられるのか、考察していきましょう。
所作が美しい
実写でありながら、ディズニーアニメのプリンセスのようにジゼルの所作は優雅で美しいです。
体の動かし方はもちろん、指先に至るまで神経が行き届いており、アニメーションのようにちょっと大げさで振り付けのような動きをみせます。
躍動感に溢れ、全身で感情を表現するその姿は役者の力もさることながら、ディズニー・アニメと実写を経験している監督の、演技指導の賜物といえるのです。
またミュージカルパートでの溌剌とした歌声とダンスはディズニーらしさをふんだんに発揮しており、観るものを魅了します。
芯が強いだけでなく感受性が高い
ジゼルは初めてのことばかりで戸惑いますが、ニューヨークの生活を柔軟に受け入れつつも芯は変わりません。
「真実の愛」「幸せは訪れる」ということを信じ、出会ったロバートに影響を与えていきます。
その一方で自分の中にロバートへの真実の愛があると気づくなど、アンダレーシアでは分からなかったことを柔軟に受け入れていくさまは好感が持てるのです。
ニューヨークでショッピングを楽しみ、舞踏会で現代風にビジュアルを整えたジゼルはそれまでの印象に加えて、さらに美しく見えます。
ニューヨークとおとぎ話の化学反応は何を生んだか
現代のニューヨークはおとぎの国のアンダレーシアの対比として描かれます。
決して夢の否定としてではなく、あり方の1つとして提示されているのです。
ジゼルを受け入れるニューヨークと、ニューヨークを変えていくジゼルの活躍を見ていきましょう。
現代的な運命の出会いの形
ロバートはジゼルと出会いますが、最初は親切な人というイメージしか持っていません。アンダレーシアでは王子と出会った瞬間に一目惚れになっていたのとは好対照です。
ですがお互いを知り、会話を重ねることで理解を深め、お互いを大切に思うようになります。
ジゼルはおとぎの国のあり方だけではなく、現実社会での出会いの形を学び、運命の人というのはお互いをもっと知ってからでも良い、ということをニューヨークで学びました。
ロバートとの対話で冷徹な彼に憤り、初めて”怒る”という感情を知って喜ぶジゼルのシーンを含めて、ニューヨークは世間知らずだったジゼルを変えていくのです。
ジゼルが信じる「真実の愛」の力
離婚弁護士をしているロバートの顧客が離婚しようとしているのを知り、こんなに素敵な人と分かれるのは不幸だと告げるジゼル。
これがニューヨークのあり方なのだと告げるロバートでしたが、次の接見では夫婦は仲直りしています。
お互いの良いところを見直すことができた夫婦は離婚の危機を乗り越え、元の鞘に収まることができたのです。
またセントラル・パークでは歌の力で皆を幸せにできることをジゼルは証明してみせます。
ここのミュージカルは最も長く、力の入ったシーンになっており、愛の力の偉大さを知ることができるのです。
まさにニューヨークが「魔法にかけられて」しまっているシーンといえます。
モチーフになったディズニー作品たち
様々なディズニープリンセスの要素を内包したジゼル以外にも、ディズニー映画の集大成と思わせる仕掛けがいくつも用意されています。
すべてを網羅するのは難しいですが、代表的な引用やパロディをお伝えしていきますので、興味を持ったら映画をご覧になってください。
白雪姫
- ニューヨークに来たジゼルが、小さな男性と会話したときに「おこりんぼさん」と呼ぶのは七人の小人の一人を指している。
- ロバートの弁護士事務所内の看板にある「チャーチル、ハーライン&スミス」は「白雪姫」の作曲家であるフランク・チャーチル、リー・ハーライン、ポール・J・スミスの組み合わせ。
- エドワード王子がテレビを「魔法の鏡」と呼ぶ。
- 毒リンゴを使って眠らせようとする。
シンデレラ
- 結婚式当日にジゼルを城まで乗せた馬車。
- ロバートが意識の無いジゼルにキスをする瞬間に12時の鐘が鳴る。
- ジゼルが靴を片方落として行き、後にエドワード王子がその靴をナンシーに履かせるシーン。
不思議の国のアリス
- 井戸に落とされたジゼルが、上下逆さまの状態でマンホールに辿り着く。
眠れる森の美女
- まだ見ぬ王子の夢を語るジゼル。
- 竜に変身するナリッサ女王はディズニーヴィランのマレフィセントがモデル。
リトル・マーメイド
- 「想いを伝えて」のシーンで、川を渡るボートに向かい合って座るジゼルとロバート。
- 「想いを伝えて」のシーンで、岩に腰掛けて歌うジゼルとそれを見つめるロバート。
美女と野獣
- エドワード王子が剣を鏡にして歯のチェックをするのは、「美女と野獣」に登場する英雄のガストンの仕草。
- 舞踏会でのジゼルとロバートのダンスシーン全般。
その他のディズニー作品
- ニューヨークのタイムズスクエアにミュージカル版「ターザン」の看板(ターザン)。
- エドワード王子がホテルで見ているテレビから「Pink Elephants on Parade」が流れる(ダンボ)。
- ハンガーに張り付けられたピップが、ハンガーにぶら下がりながら電線を伝うシーン(トイ・ストーリーシリーズ)。
- ロバートとジゼルが食事したレストランの名称が「ベラ・ノッテ」(わんわん物語)。
- ジゼルとモーガンが買い物する店の名が「カリプソ」(パイレーツ・オブ・カリビアンシリーズ)。
- バスの女性運転手のアフロヘアの形と、舞踏会のダンスシーンでスポットライトと床の模様がミッキー・シルエットに(ミッキー・マウス)。
- ラストで竜がビルの塔から落下した後、ジゼルとロバートが塔から滑り落ちそうになるシーン(ノートルダムの鐘)。
まとめ
原題の「Enchanted」とは魅了される、魔法にかけられるという意味です。
真実の愛やキス、夢が叶うことを信じているジゼルを現代に送り込むことによって、おとぎ話と過去のディズニー作品を落とし込みました。
そのうえで真実の愛の力を信じるジゼルが、現代とロバートを「魅了する」という心憎い仕掛けになっているのです。
本作でしか楽しめない「現在に現れたディズニープリンセス」と、ふんだんにオマージュされた過去作品の数々は思わず見返したくなります。
ディズニーファンならより深く楽しみがありますが、単体として充分に楽しめる作品なので、ぜひ魔法を体験してください。